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006 ダンジョン

 今私は子爵邸から南へ下った先にある森の中を逃走中である。

 つい先程メイドのアヤメの魂の叫びが聞こえた気がしたけど、気のせいよね。

 子爵邸の執事やメイドの中には前当主である父の代から仕えてくれている人達もいる。

 そういった人達が私達姉妹を擁護してくれていたので、我が物顔で子爵邸を乗っ取った伯父と伯母も私達には直接的な攻撃をする事は適わなかった。

 もっともあの人達程度の実力なら擁護して貰わなくても簡単に撃退できるけど。

 なんせ私達姉妹は幼少期から執事長のセバルフから厳しい訓練を受けて来たのだから。


 伯父達が来てから、セバルフはその実力を敢えて隠しているようだけど、本当はめちゃくちゃ強い。

 何故うちの執事なんてやってるのか理解出来ない程に。

 それでも父亡き後は私達に忠誠を誓ってくれているので、王都へ行く妹が心配なのでついて行ってもらった。

 元々セバルフ自身も妹のアリアが心配なようでついて行くつもりだったみたいだけど。


 セバルフ以外にも子爵家にはとても強い人達がいるんだけど、伯父達にはその実力をあえて見せないようにしているようだった。

 何かがあった時に備えているみたい。

 なので、今回の逃走にもその人達の力を借りる事は出来ない。

 メイドのアヤメもかなりの実力の持ち主なんだけど、ちょっと抜けてるとこがあるから、迂闊に巻き込むとアヤメ自身も危険に晒してしまう可能性がある。

 だから黙って子爵邸を後にしたんだけど、なんか嫌な予感がするなぁ……。

 まぁアヤメは強いし、自分でなんとかするでしょ。


 森の中を走る事数時間。

 ずっと南に走っていけば途中街等に立ち寄らずに子爵領から出る事が出来る。

 東や西の街を通れば必ず私の情報が伯父達へ伝えられてしまうだろうし、北は険嶺な山々が連なる為、私一人で踏破は難しい。

 必然的に南の森へ逃げ込むしか無かったのだが……。

 でも当然ながらそれを伯母は気付いているだろう。

 追っ手を差し向けるか、あるいは既に隣領へ指名手配を出しているか。

 最悪国外まで逃げないとダメかなぁ?

 っていうか、妙に森を抜けるのに時間が掛かっている気がする。

 私の足なら隣領まで2時間もあれば着くと思ってたんだけど……まさか迷った?


 そういえば妙に魔物が多いと思ってたんだよね。

 私は走り抜ける事でその辺の魔物なら置き去りに出来るから、敢えて相手にしてなかったんだけど、以前森に入った時とは違う種類の魔物も何度か見かけた。

 ひょっとしてこの森、ダンジョン化してんのかな?

 なんでよりによってこのタイミングで……。

 どうやら私は、気付かないうちにダンジョン化してる部分の入口を通り抜けてしまってたみたいだ。


「ぐるるるるっ」


 樹の影から狼型の魔物が顔を出した。

 本来群れで狩りをする事が多い狼だが、魔物化した狼は単独でいる事の方が多い。

 恐らく気性が変化して群れを維持出来ないからなのだろう。

 逆に魔物化する事で群れを成す動物もいるが、今はどうでもいいか。

 そんな狼が牙を剥いて私に飛びかかってくる。


「せいっ!」


 下から拳を突き上げて、狼の顎を打ち抜く。


「ぎゃわんっ!」


 顎を砕いた感触があったので、もう退くかと思ったけど、狼は再び私に飛びかかって来た。

 これはダンジョンの魔物によくある傾向だ。

 通常は魔物であっても自身の命を最優先にするため、大きなダメージを与えれば逃げていくものだが、ダンジョンの魔物はダンジョンコアを守る事を優先するので自分の命を顧みない。

 ダンジョンコアとはダンジョンを構成する中枢となっているもので、魔物を生み出す母体でもある。

 それがあれば無限に魔物は湧き出てくるので、ダンジョンの魔物は個の命よりもダンジョンコアを優先するのだ。

 無限に魔物が湧き出てくるとは言っても、ダンジョンの許容量を越える事は殆ど無い。

 たまに異常繁殖したように魔物が溢れ出て、周囲の街や村に被害を及ぼす魔物暴走スタンピードを起こす事はあるけどね。

 それを防ぐ為に冒険者ギルドの管理下に無いダンジョンは、発見し次第早めに報告する義務があるのだ。

 このダンジョンも未発見だろうし、脱出出来たら報告してやらないとかな。

 人が居るところに行くのは躊躇われるけど、無辜の民が傷つけられるのを黙って見てる訳にはいかないもんね。


 ——なんて考え事をしながらでも、この狼程度の魔物に遅れを取る事は無い。

 噛み付けないなら当然爪で切り裂きに来るのは分かってたよ。

 ダンジョンの魔物も通常の魔物と行動原理は変わらないみたいだ。

 私は軽く身を捻って躱し、狼の跳んだ先に合わせて収納から剣を半分だけ・・・・出した。

 狼は空中では方向を変える術が無く、自らの跳躍の威力で刃に刺さりに行って絶命した。

 空中で串刺しになった狼からポタポタと血が滴り落ちる。


「ふむ、やっぱり半分だけ出すと空中で固定できるみたいだね」


 私の空間収納は、収納された先の異空間内では時が停止している状態になるらしい。

 先程子爵家から拝借してきた食料の中にスープがあったので少し飲んでみたら、数時間経ったにも拘わらず温かいままだったのだ。

 その事から、ファンタジー小説に良くある『収納されたものは異空間内で時間停止する』という現象が起きていると推測される。

 ここで重要になるのは、収納されている物を半分だけ出した時に、こちらの空間と異空間とで物質に掛かる時の流れが違う状態になるという事。

 こちら側に出した剣身は時が通常通り進むが、繋がった先の柄の部分は異空間に残された状態で時が止まっている。

 時が止まっているという事は、物理的なエネルギーは∞という事になってしまう。

 なので私が手で剣を持つよりも柄だけ収納させた方が強い力で固定できるという事だ。

 あとはタイミング良く狼の跳んだ先に剣身を出してやれば串刺しに出来る訳よね。


 なかなか良い方法見つけちゃったし、これからは自ら動かなくても楽に魔物倒せちゃいそうだ。

 迂闊に飛びかかってくる魔物は全部串刺しにしちゃうぞ〜。

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