表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/40

005 影 side.アヤメ

 私はアヤメ。

 アヴドメン子爵家のメイドであり、子爵家の裏組織『影』の一員だ。

 この度、我が主であった前当主様の忘れ形見、リィナ様とアリア様のスキル下ろしの儀が行われた。

 それ自体は喜ばしい事なのだが、それを主導するのは現当主であるゲスオール=アヴドメン。

 奴は自身の欲望の為だけにお二人を養女とし、利用しようとしている。

 Sランクのスキルを得たアリアお嬢様は王都の学園へ入る事になった。

 世界的に見ても希有なスキル『勇者』——その貴重なスキルを得た養女の親となったゲスオールは、近いうちに伯爵に陞爵されるだろう。

 あんな男が出世するのは本当に忌々しい。

 いや、今はあの男の事などどうでもいい。

 問題なのはもう一人のお嬢様——Fランクのスキルを得てしまったリィナ様の方だ。

 戦闘には不向きなスキルは基本的に低ランクとして扱われる為、お嬢様の得た『空間収納』もまたそのように認識されてしまった。

 ゲスオールにとって役に立たないスキルだったため、リィナお嬢様は奴隷として売り飛ばされる事が決定した。

 現在はゲスオールの妻であるエギーラによって地下牢に閉じ込められている。

 この地下牢というのがかなり厄介で、四方をスキル封じの魔法陣で囲まれていて、脱出はかなり困難だ。

 私でも内側からの脱出は不可能だと思う。

 そんな事が可能なのは、『影』の頭領であるセバルフ様ぐらいだろう。

 残念ながらセバルフ様は王都へ向かうアリアお嬢様に付き添って行ってしまわれたので、現在屋敷には不在だ。

 という事で牢の鍵を入手して扉を開けるしかない訳だが、そんな事をすれば誰かが手引きして逃がしたと簡単にバレてしまう。

 ゲスオールやエギーラは影の構成員を把握していないが、当然屋敷の中にいてリィナ様達を擁護している者達を疑うだろう。

 その中にはもちろん私も含まれる。

 疑念を持たれてしまうと今後の仕事がやりづらくなるので、そのような強攻策を取る事は出来ない。


 私はエギーラの周辺を探り、奴隷商人の情報を集めた。

 早々に明日到着するらしく、もうこちらへ向かって出発したらしい。

 通信の魔導具を傍受して詳細を得た私は、直ぐにその奴隷商人が向かってくる街道へ向かった。

 裏組織『影』の構成員はアヴドメン子爵家の私兵達とは別に、セバルフ様から高度な訓練を受けている。

 そうして鍛えられた私の脚力で、1時間もしないうちに明日到着する予定になっていた奴隷商人の元へ辿り着いた。

 突然馬車の前に現れた私に困惑する奴隷商人。


「な、何だお前はっ!?」

「貴方が知る必要は無い。暫く眠っていてちょうだい」


 身元が割れないように全身は黒ずくめの服で覆われており、当然ながら頭部も目元以外は頭巾で覆ってある。

 素早く奴隷商人に当て身を行い、奴隷商人を気絶させた。

 付近に普段は使われない小屋があるので、そこまで奴隷商人を連れて行って寝かせておく。

 こちらの私的な理由で魔物の餌にするのはさすがに忍びないからね。

 ただでさえ商品となるリィナお嬢様を奪われるのだし。

 次に、奴隷商人の懐を弄ってアヴドメン子爵家へ出入りする為の証文を探す。

 今回はエギーラに呼び出されて急ぎだった為に、証文以外の物は特に持っていなかった。


「よし、この証文があればなんとかなる」


 私は証文を持って奴隷商人の乗ってきた馬車に乗り、アヴドメン子爵家の方へ引き返して行った。


 気は急いたが、翌朝に合わせてあまり急がずに馬車を進めた。

 ここまでは私の計画も完璧だった。

 さすが私、アヤメちゃん出来る子。

 しかし、子爵家に到着してみると、何やら屋敷の中が慌ただしかった。


「あの〜、エギーラ様に呼ばれた奴隷商ですが、何かあったのでしょうか?」


 門番に何があったのか聞いてみた。

 私は奴隷商人の代理という体で変装しているが、特に怪しまれてはいないようだ。


「あぁ、あんたが奴隷商人か。せっかく来て貰ったのに悪いな。とりあえず詳細は中で聞いてくれ」


 今の言い回しだと、奴隷商人との取引が中止になったのだろうか?

 エギーラが急に心変わりした?

 あるいは王都へ向かったゲスオールから何か指示があったのか?

 一先ず私は子爵邸の中へ奴隷商人の証文を使って入る事が出来た。


「悪いわね。せっかく来て貰ったんだけど、例の小娘が逃げたのよ」


 リィナ様が逃げた!?

 あの地下牢からどうやって逃げたんだろう?

 さすがリィナ様……じゃなくて、これじゃ折角の計画が台無しじゃないのよ。

 奴隷商に扮してリィナ様を受け取り、離れた場所でお嬢様を逃がす計画だったのに。

 アヤメちゃん困惑……。


「あの地下牢は内側から破れるものじゃないわ。どうやら外部から誰かが手引きしたようね」


 え?聞いてないんですけどぉ?

 他の『影』の誰かが動いたのかしら?

 セバルフ様は私に任せるとおっしゃってくれてたのに……。

 と思ってたら、


「昨夜からメイドのアヤメも所在が分からなくなっているわ。恐らく一緒に逃げたのね。今リィナと共にアヤメも指名手配してあるから、捕まえたら一緒に奴隷にしてもらうわ。また後で連絡するわね」


 ぎょえええええぇっ!?

 私まで指名手配になっちゃってるじゃないのよおおおおぉっ!!

 誰よ勝手にリィナお嬢様逃がした奴ぅ!!

 ってそれどころじゃない、早く逃げないと!

 アヤメちゃん、超ピーンチっ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ