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004 アリア

 夕焼けもそろそろ闇に飲み込まれようという時に、まだ街道を進む馬車が2台。

 前を進む馬車は豪奢な飾りがついていて、乗るものの見栄っ張りを現していた。

 対照的に後ろの馬車は、小さく貧相だ。

 その哀れな馬車の中で、金色の髪の美しい少女は向かい合った老紳士に厳しい眼差しを向ける。


「やはり貴方はリィナお姉様の方に付いているべきだったのではないですか、セバルフ?」


 セバルフと呼ばれた老紳士は、その視線を何事でもないように見返す。


「それはリィナお嬢様のスキルランクがFだからですか? リィナお嬢様のことは信頼のおける者に頼んでありますし、そもそもスキルなしでもお嬢様は簡単には負けませんよ」


 姉を心配しているのだと思い、老紳士は努めて安心させようとしたが少女は否定するように首ふる。


「そうではなくて、お姉様一人にするとやらかしそうだから止める人が必要でしょう?」

「あぁ、そっちですか」


 若干の呆れと納得に、溜息がでてしまう老紳士。


「確かにリィナお嬢様は目を離すと何かやらかしそうではありますが、一応人を付けてありますから。……いや、あの子も少し抜けているところがあったかな?」

「ちょ、ちょっと!不安になるような事言わないでよ!」


 冗談なのかそうでないのか分からない老紳士の呟きに、少女は狼狽する。

 その可愛らしい姿にクスリと笑みがこぼれるが、すぐに真面目な顔に戻す老紳士。


「アリアお嬢様、私は貴方の方が心配ですから」


 少女は、その言葉に若干の憤りを見せる。


「私のことは心配ないわ。仮にもSランクのスキルを得たのだから、国内でも屈指の強さになったはずだもの」


 しかし老紳士の眼差しは変わらない。


「単純な強さのことではありません。リィナお嬢様は腹を括れますが、アリアお嬢様は最後に躊躇うでしょう?精神的な面を考慮して、私はアリアお嬢様についていくことにしたのです」

「っ……!」


 痛いところを突かれて言葉を失った少女は、悔しそうに俯いた。


「恥じることはありません。それがアリアお嬢様の優しさによるものですから。これから成長していけばいいのです」


 アリアがここぞという時に相手を倒すのを躊躇うのは、前世の知識・・・・・を持つせいで前の世界の倫理感に引っ張られてしまう為だ。

 同じく前世の知識を持つのに躊躇いを見せない姉——リィナの方が異常なのである。

 もっとも同じ世界の知識を持っていようとも、育った環境によって心は如何様にも変貌するものだが。


「それよりもアリアお嬢様はこれから向かう学園の事に気を張った方がいいと思われます。あの性悪娘ヴェロニカもいるのですから」

「セバルフ!誰が聞いているか分からないのですよ!」

「聞かれていても構いませんよ。奴らに我ら『影』を止める術はありません」

「伯父達は何をするか分かりません。些細な隙も見せてはダメだとお姉様も言ってました」

「ふふっ、そうでしたか。やはり我らの主に相応しい方はリィナお嬢様のようですね」


 アリア達の伯父であるゲスオール=アヴドメンは、兄の後釜として子爵になった事で子爵家の戦力も従えた気になっていた。

 しかし、その戦力の中枢とも呼べる『影』は前当主であるアリア達の父にのみ忠誠を誓っており、その忘れ形見である双子の姉妹を守る為にだけ子爵家へ留まっていた。

 伯父達に虐げられる姉妹を影ながら支えており、同時にセバルフは自身の技の全てを姉妹に伝授していた。

 おかげでスキル等無くてもこの姉妹は屈指の実力者になっている。

 ところがこの世界では戦闘能力の評価はスキル重視の傾向がある。

 幸いSランクスキルを得たアリアはその偏重に悩まされる事は無いが、Fランクスキルを得てしまったリィナは評価と実力が噛み合わない歪な存在になってしまっていた。

 それ以前に存在そのものがトラブルを引き寄せてしまう姉を、アリアは常に案じているのである。


「今、悪寒が走った……。姉さんがまた何かやらかした気がするわ」

「不吉な事をおっしゃらないでくださいアリアお嬢様……」


 アリアの予感が的中していたと知るのはまだ先のお話である。

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