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036 旅路

 王都へと続く道……ってこんなに悪路だったかな?


「ねぇアヤメ。私が以前王都へ行った時と道が違う気がするのだけど、アヴドメン子爵領じゃなくてライザック伯爵領から出発したからなの?」

「いえ、ただ単に道無き道を進んでいるからですね」

「何故に?」

「そりゃ私達が逃亡者だからですねぇ」


 そういえばそうだった。


「それにしたって、ここまで辺鄙なところ歩かなくても、街道付近ならもうちょっと進みやすくない?」

「街道付近は多くの冒険者が狩りをする為に彷徨いてます。冒険者の噂が情報屋に流れたら終わりですよ」


 おお、アヤメなのにまともな事を……。


「お嬢様、今失礼な事考えましたね?」


 何故分かったし!?

 私は考えている事が顔に出やすいらしい。

 双子の妹アリアはそんな事無いみたいなのに、何故だろう?

 見た目瓜二つなのに二卵性なのか?

 まぁ私はとても似てると思ってるけど、周りははっきり区別出来てるっぽいんだよなぁ。

 自分では分からない見分け方があるのかも知れない。


「ところで何で虎太郎までついて来てるの?」

「俺はリィナ様に忠誠を誓いましたから当然同行しますよ。ばあちゃんの霊の事も気になるし」


 別に私と敵対しなければどこに行ってもいいのに。

 意外と忠義に厚いのか?

 でもこの中では一番弱いんだよね。

 足手まといになったら置いてってもいいかな?


『出来る事なら見捨てないでやっておくれ』


 う……、おばあちゃんにそう言われるとさすがに見捨てられないよ。

 というか私に取り憑いてるから、孫を見捨てたら呪われそうで怖いんですけど。

 しゃーない、私が虎太郎を鍛えてあげるか。


「じゃあ虎太郎、私の攻撃を避けながらついて来てね」

「えっ?」


 私は拾った石を上空に投げた。

 重力に引かれて落下し、速度が乗ってきたところで空間収納へ収納する。

 そしてギルマスオーガを倒した時と同様に、収納時のベクトルと直角に排出した。

 排出先は虎太郎の後頭部。


「おわっ!?急に石がっ!?」


 おぉ、さすがに暗殺を生業にしてただけあって、身のこなしはそこそこ。

 視認出来ない角度からの攻撃も難なく避けたね。

 私は虎太郎が避けた石を再び収納し、また上空から落下させて速度を上げる。

 速度が上がった石をまた虎太郎の意識の外から撃ち出す、という事を繰り返した。

 最初は軽く躱していた虎太郎も、石の速度が徐々に上がっていくのを感じたのか、額から汗が噴き出てきた。


「ちょっ、リィナ様っ!!これはさすが速すぎるっす!!」

「大丈夫だよ、心臓撃ち抜かれても復活出来る事はギルマスで証明されてるから」

「ぎゃああああああっ!!こ、殺されるうううぅ!!」


 悲鳴を上げながら懸命に避け続ける虎太郎。

 ちゃんとギリギリのラインを保って攻撃し続けるから大丈夫だよ。

 そういえば虎太郎は一度ゴブリンキングに殺されて生き返ってるんだった。

 白い水は一度しか生き返れない——なんてルール無いよね……?


「虎太郎、うるさい!私達は逃亡中なんですよ!」


 アヤメに怒られるも、それどころじゃない虎太郎は口を無理矢理手で抑えながら避けていった。

 よし、そのうち両手両足に着ける重りも作ろう。


 などと虎太郎で遊びながら道中は楽しく過ごしていた。

 街に入るのは危険なので基本野営なのだが、その日の野営時、私の収納索敵に何かが引っかかった。


「アヤメ、何かが索敵に引っかかった」

「はい、私も今感じました。向こうはこちらに気付いていないようですが」


 私の収納索敵は、収納を試みた時・・・・に生物は反発する事を利用して感知するものだ。

 その際、私の魔力が薄く周囲に分布されてしまうため、魔力感知能力が高い者にはこちらの存在まで気付かれてしまう。

 もっともライザック伯爵のとこのアウレーネさん程敏感な人なんて滅多に居ないけど。

 いや、直近でゴブリンキングとギルマスオーガもいたっけ。

 上位種の魔物には魔力に敏感なのが多いから、油断は出来ないか。

 もっとも上位種の魔物なんてそうそう出会えるものじゃない筈なんだけどねぇ。


「人間かな?」

「外観は近いと思います。しかしこんな森の奥地にいる人間など、とてもまともな者とは思えないですね」


 アヤメさん、盛大なブーメランが突き刺さったんですが?

 私の収納索敵を使った時の魔力に反応しなかった事から、対象の魔力感知能力は低いと思われる。

 いずれにしても私達の存在を知られる訳にはいかないので、相手が動くのを待つか、私達が逃げるかしなければいけないんだよね。

 暫し様子を窺っていると、突然こちらの存在に気付いてしまったようだ。

 私達は即座に隠行で身を隠した。

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