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035 アルラウム公爵 side.アリア

「休憩しているところ悪いね。私の名はギム=アルラウム。人が多い場所では話しにくいと思って、こちらに居るところ声を掛けさせてもらったよ」


 紳士的な美丈夫。

 歳は20代前半のように見え、公爵という爵位を継いでいるのにかなり若いようだ。

 綺麗に整えられた金髪に優しそうな碧い瞳。

 ふと、何故か私の母に似ているなと思った。

 母は私達姉妹が物心つく歳になる前に他界したので本来であれば覚えている筈も無いのだが、私達姉妹は前世の知識を持っており意識は既に大人だったためにはっきりと容姿を覚えている。

 とくに優しそうな目がよく似ている気がした。

 そんな筈は無いのに。

 相手は貴族の最上位、母は普通の平民出の元冒険者だったのだから。


 公爵はその瞳でじっと私を見つめる。


「不躾だが、君の母親について聞かせてもらってもいいかな?」


 私はその言葉に心臓の鼓動が跳ね上がる。

 今し方、公爵が母に似ていると思ったばかりなのだから。

 ひょっとして顔に出てた?

 お姉様じゃあるまいし、私はそんなに顔に出やすく無かったと思うんだけど……。


「母は平民の出で、元は冒険者でした。私が2歳の時に亡くなったと聞いておりますので、あまり詳しくは存じません」

「そうか、既に……」


 公爵の瞳が悲しそうに揺れる。

 私に同情してくれているのだろうか?

 私達姉妹は両親の事についてはもう吹っ切れている。

 今はいかにしてゲスオール達から子爵家を奪い返すかしか考えていない。

 哀愁に浸るのはその後だと覚悟を決めたのだ。

 なので、他人に同情してもらう必要も無い。

 そんな私の意思を読み取ったのか、公爵はニコリと笑顔を見せる。


「君は強い人だな」

「いえ、私などまだまだ未熟です」

「そうかい?まぁ、子供は未熟でいてくれた方が、我々大人としても安心するのだがね」


 謙遜は否定して欲しいんだけど……。

 こちらの世界の文化ではそのまま捉えられてしまうのかな?

 まぁ古き良きナーロッパな世界だし、謙遜を美徳とする私が住んでいた国とは違うのだろう。


「もしよければ……」


 アルラウム公爵が何かを言いかけた時、タイミング悪くゲスオールとヴェロニカがパーティ会場から出て来てしまった。


「まったく、あのクソ貴族ども!馬車が別々だったぐらいでチクチクと突きやがって」


 文句たらたらに不満顔を見せるゲスオール。

 意外にも対照的にヴェロニカは笑顔だった。

 いや、出て来た瞬間はしかめっ面だったと思う。

 アルラウム公爵の姿を認めた瞬間から、仮面を被ったように変貌したのだ。


「アルラウム公爵。ごきげんよう」

「あぁ、ヴェロニカ嬢。今日も素敵なドレスだね」

「まぁ」


 おや?と思った。

 2人は知己であるかのように挨拶を交わしていた。

 公爵は「今日」と言ったのだ。

 ヴェロニカは私と一つしか歳が違わないのに、どうやって公爵と知り合うような機会を得たのだろう?

 まぁゲスオールが無理矢理パーティか何かにねじ込んだ可能性はあるけど、公爵程の身分の方が参加するパーティなんて子爵家程度ではおいそれと参入出来ないだろうに。


 それよりも、ヴェロニカ以上に公爵は在り在りと笑顔の仮面を被っているのが滑稽だ。

 目の奥が笑っていなくて怖いですよ……。

 それに全く気付いていないかのようなヴェロニカが、空気も読まず公爵にアプローチする。

 明らかにまだ子供であるヴェロニカが女を見せて言い寄る様は、前世の記憶を持つ私には異様に映った。

 しかし、この世界では10代前半で婚約者を決めるのが普通だ。

 特に貴族は家同士の政略等で生まれた時から相手が決まっているなんて事もザラだとか。

 だからヴェロニカの行為は普通の事なのかも知れない。

 いや、公爵が明らかに嫌がってるし、爵位が下位の者があんなにあからさまに言い寄るのは普通じゃないんじゃないかなぁ?

 年の差も結構あるように見えるし、そもそも公爵って独身なの?

 と思ってたら、いい加減嫌気が差したのか、アルラウム公爵はこの場から離れる事にしたようだ。


「アリア嬢、またお会いしましょう」

「あ、はい……」


 私にだけ挨拶をして、早々に去って行ってしまった。

 ヴェロニカの視線が痛い。

 私は前世から恋愛下手だし、前世の意識的に色恋なんて当分先の話だと思ってる。

 変な三角関係に巻き込まないで欲しいなぁ……。

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