033 これから
ギルマスは捕縛され、ギルド職員が連行して行った。
その際ギルド内にいた怪しい動きを見せた冒険者は、私が三半規管を揺らして動けなくしておいた。
情報屋に吐かせたところ、やはりギルマスに協力していた冒険者だったようで、ギルマスが捕縛されたのを見て逃げ出すところだったようだ。
冒険者ギルドの騒動は街中に知れ渡り、一時騒然となった程だ。
そこら中で噂が飛び交っていたが、私達については誰も何も言っていなかった。
うまくライラさんが情報を隠蔽してくれたようだ。
「君達の手配書?さてね、私には何の事か分からないな」
というライラさんの男前発言で見逃して貰えたし、宿も手配してもらって、ここ数日は逃亡生活ながらも快適に過ごせていた。
父やセバルフに借りがあるからと言ってたが、それが無くてもきっとこの人は助けてくれたんじゃないかな?
ライラさんがもし困っていたら、今度は私が助けると誓った。
ライラさんと別れてから、ここの領主であるライザック伯爵に報告に向かった。
しかし、またアウレーネさんが入口で仁王立ちしていた。
いつから門番になったの、この人?
次席騎士じゃなかったんかい?
直接伯爵に会って報告しときたかったけど、絶対通して貰えないだろうなぁ……。
一度侵入してるから今度はもっと警戒されてるだろうし。
なので、手紙を伯爵の部屋に置いておく事にした。
私のスキルは収納や排出をかなり離れた位置からでも行う事が出来る。
遠距離に排出するにはそれなりに魔力を消費するが、この場合はしょうがないよね。
書いた手紙を収納して、伯爵の部屋で排出する。
すると瞬時にアウレーネさんが反応した。
しかし、何故か今回はすぐに駆けつけようとはせずにその場に止まって何かに集中していた。
暫くして突然こちらを向き、
「そこかっ!?」
え?まさか、魔力を送った軌跡を辿ったの!?
凄い執念だ……。
うわ、鬼の形相でこっちに向かって走って来たよ。
私達はダッシュでその場から逃げ出した。
さすが次席騎士だけあって足も早い。
しかしこちらは姿を隠しながら移動しているので、なんとか巻く事が出来た。
っていうか、もう会いたく無いのでこのまま街を出る事にした。
伯爵領の問題はギルマスが捕縛された事で概ね解決したと思うし、あれだけの騒ぎになったらきっとアヴドメン子爵家が探りを入れてくるだろう。
あまり長居すると私自身が危険に晒されてしまう。
「お嬢様、これからどうするつもりですか?」
アヤメが心配そうに問うて来た。
アヤメ自身も指名手配されてるもんね。
「うーん、どうしよっか?逆に人が多い所の方が紛れて身を隠せると思うんだよね」
「いや、どこに行くかじゃないです。逃げてるだけだといつまでも逃亡生活が続きますよね?何かアヴドメン子爵家に対して手を打たないとって事です」
「そうは言っても、ライザック伯爵が後ろ盾になってくれればいいけど、アウレーネさんがいるからなぁ。下手をすると獅子身中の虫になりかねない。それに今のアヴドメン子爵家は侯爵がバックにいるから、伯爵だと勝てない可能性もあるんだよね」
「じゃあ、もっと強力な後ろ盾が必要だと?」
「うん。出来れば公爵とか王族とか」
「それはさすがに無理じゃないですか……?」
まぁ私もそう思うけど。
今は何も接点が無いから空論でしかないし。
と、今まで黙って私達の話を聞いてた虎太郎が、ぼそりと呟いた。
「公爵や王族との接点を持つとなると、王都まで行かないとか……」
なるほど王都か。
妹のアリアも学園に通うために王都に向かってるんだっけ。
伯父のゲスオールと鉢合わせてしまう可能性もあるけど、確かに公爵や王族と接する機会を得るには近くに行くしかないよね。
目指すは王都の中央部——王城か。
「よし、虎太郎の案を採用!」
「え?いや、俺はちょっと言ってみただけですけど……」
王都か……なんか楽しそうな予感がするし、ワクワクしてきた。
いざ、王都に向けて出発だ!!




