032 衝撃波
不審な音にギルマスオーガは天の仰ぐ。
「なんだぁ?空で爆発だと?」
残念、不正解。
あれは爆発じゃなくて衝撃波だよ。
私はずっとギルドの上空で岩石を落下させ続けていた。
落下させ続けるって物理的にあり得ない事だけど、私の空間収納という魔法を使えば科学を凌駕して可能となる。
上方で岩石を排出して重力に任せて落下させ、何かに衝突してエネルギーが減衰する前に下方で岩石を収納する。
すると異空間に移動した岩石は時が止まっているので、落下エネルギーはそのまま維持される。
その岩石を再び上方から排出すると再び重力によって加速され、速度がどんどん増していく。
それをギルドの上空で音速を超えるまで繰り返していたのだ。
音速を超えた岩石は大気中で大きな衝撃波を生み出して、爆発したような音を発する。
幸い周囲に冒険者ギルドより高い建物は無いので、衝撃波で屋根が吹き飛んだりはしてない……と思う。
もし何か被害があったらギルマスのせいにしとこっと。
そして完成した超音速で落下する岩石は、今私の空間収納に収められた。
「何か知らんが、さっさと片付けさせてもらう」
オーガが私に向けて手を翳した。
その手の先に光の玉のようなものが生成される。
「『硬気』っ!!」
バレーボール程の大きさの光の玉が高速で私に向かって飛んで来た。
それをしゃがんで躱すが、僅かに掠って私の髪を焦がした。
「グブブ。やはりこの体だと無尽蔵に気を練れるな。俺のスキルである『硬気』でいくらでも気弾を打ち出せるぜ」
そういったオーガの背後に数十個の光の玉が浮き上がる。
あの数をこの狭い室内で打ち出されたら躱しきれない。
「くたばれっ!!」
オーガが咆哮を上げる。
しかし、私の方が一瞬早かった。
上空で収納した超音速の岩石を排出する。
異空間内の落下エネルギーが向かう縦方向Y軸を、こちらの現実空間の縦方向Y軸ではなく横向きのX軸と繋げるように排出。
ダンジョンボスの狼を倒した時と同じように重力によって加速された岩石は、衝撃波を撒き散らしながら前方へ直進してオーガの胸部を貫いた。
「ガハッ!?ば……かな……」
魔物の心臓部である核と呼ばれる魔石は、近しい形状の獣の心臓とほぼ同じ位置にある。
オーガやゴブリンなど人型の場合は、人間の心臓と同じく胸部の中央付近だ。
いかに自然治癒能力に長けていようとも、そこを破壊されれば活動停止するしかない。
驚愕の表情で私を見つめながら、ギルマスオーガは前のめりに倒れて沈黙した。
岩石はオーガを貫通した時点で再び収納に収めたけど、衝撃波で室内はボロボロになってしまった。
「大技使う時は事前に言ってくださいよ〜!」
アヤメの抗議は無視する。
事前に言ったら避けられちゃうでしょ。
岩石の衝撃波でその場にいた全員が倒れてしまっていたので、抗議されてもしょうがないけど。
見たところ皆大きなケガはしていないようだが、念の為白い水を収納から霧状に排出して掛けておいた。
私の空間収納は液体を分子レベルで取り出せるのだ。
但しめっちゃ魔力食うから、今回のように白い水を使ったとバレないように隠蔽する時ぐらいしか使わないけど。
そして胸に穴の開いたオーガにも白い水を掛けておいた。
虎太郎の首が斬り落とされた時でも効果があった程だ。
胸部を貫かれてすぐのギルマスにも効くだろうと思って、オーガの核となる部分を打ち抜いた。
それにしてもこっちの世界は生命が軽い気がする。
私が白い水を手に入れてしまったからそう感じるのかも知れないけどね。
前世の漫画で、龍に願いを言えば簡単に生き返るお話があったけど、生命を取り戻せる手段がある世界だと感覚がおかしくなってしまう。
それでなくとも私はちょっとぶっ壊れてて、前世の知識があるのに生命のやり取りに忌避感が無いからなぁ。
妹のアリアはその辺前世の人っぽいのに、私はこっちの現地民並に躊躇いが無い。
気をつけないと、簡単に闇落ちしそうだから注意しとこう。
白い水を掛けたオーガの体が光輝き、胸部の穴が塞がると共に、体は萎んでいって元の人間の姿に戻った。
どうやら白い水が光るのって、私が無意識に念を込めて魔力を注いでしまってるからみたいだなぁ。
命の危機にある人に対して使った時に光ってるので、たぶんそうなのだろう。
魔力を多く込めると回復力も上がるんだろうか?
その辺は要検証だな。
自分の体でやるのは嫌なので他人がケガした時にね。
「う、うう……」
ギルマスが目を覚まし、ゆっくりと体を起こす。
「い、生き返った……!?君は何をしたんだ!?」
ライラさんが驚いて私を見てくるが、企業秘密なので教えられません。
これ教えたら冒険者ギルドからも狙われちゃいそうだし。
いや、今私が何かやったって気付かれてるみたいだから、それだけで追っ手がかかりそうな気もするなぁ……。




