031 対オーガ
ゴブリンキングと同じく魔力を感じ取れるというのは厄介だ。
私の空間収納スキルはどうやら魔法に分類されるようで、発動時に魔力を送り込む必要がある。
その為、魔力の動きに敏感な相手には発動のタイミングが見破られるので、攻撃手段としての効果が薄くなってしまう。
しかも私のスキルの場合は不意打ちによる闘い方がメインなので、感知されると非常にやりづらいのだ。
まぁゴリ押しの力技で攻撃する方法もあるんだけど……。
「姿が見えないが、他にもいやがるな?」
周囲をジロリと睨むギルマスオーガ。
気配を消すために魔力も収納してるけど、魔力感知能力を身に付けた事で流れの違和感に気付いてしまったか。
私が隠蔽してるライラさんの姿だけでなく、隠行を使ってる虎太郎の存在までバレてる感じ。
『虎太郎の隠行はまだ甘いわねぇ』
おばあちゃんに言わせると魔力感知にすら掛からない隠行を出来てこそ真の忍だとか。
いや、今それどころじゃないから……。
オーガが私に向かって拳を振り回して来た。
まだ体の扱いに慣れないのか、動きが雑なのでなんとか躱せるけど、殴られた床の木が粉々に砕けてしまう程の威力だ。
もの凄い破壊音が響いたが、それは部屋の外に出ないように、空気を音の振動ごと収納した。
今この冒険者ギルドにいる冒険者達は低ランクの人ばかりだ。
下手に騒ぎを聞きつけてこの場に現れると足手まといにしかならないので、騒音が部屋から漏れないようにしたのだ。
それに冒険者が味方ばかりとは限らない。
先程のギルマスと情報屋のやり取りから、他にも仲間がいる可能性がある。
私と相性の悪いスキルを使う奴とかいたら厄介なので、応援を呼ばれる訳にはいかないのよ。
長引けば気付かれるかも知れないし、早めに対処しないとだね。
「アヤメ、虎太郎、私が技を溜める時間を作って」
「えぇ〜、オーガの相手するんですかぁ?」
「承知しました」
アヤメはブツブツ文句を言いながらもオーガの背後に回って蹴りを繰り出す。
虎太郎は低い位置から足を狙って短剣で攻撃を仕掛けた。
しかし、どちらも攻撃が通っている感じはしなかった。
虎太郎の短剣なんて刃が欠けて一瞬でボロボロになってしまっている。
これは時間稼ぎも期待出来ないか?
オーガも誰が一番危険なのか分かっているようで、2人を無視して私に攻撃を仕掛けてきた。
「うわっと、危なぁ!」
「ちっ、ちょこまかと!!」
2メートル以上もある巨体ながら、かなり動きが素早いので危うく攻撃が当たるところだった。
収納から盾を半分だけ排出して防御しようとしても、魔力を感知されてるのでそれを避けるように攻撃されてしまう。
なので私は、全力で躱し続けるしかなかった。
途中アヤメと虎太郎にライラさんも加わって3人で攻撃するも、僅かなダメージしか与えられない。
しかもオーガは自然治癒能力を持っているらしく、すぐに元通りになってしまうのでダメージを積み重ねる事すら不可能だった。
「グブブブ。強靱な肉体と超回復力。これだけ強くなれれば、もう魔王として君臨してもいいかも知れんな」
それは言い過ぎじゃないかなぁ?
オーガより強い奴なんて結構いると思うよ。
今この場で、私もあんたを越えるし。
「ライラさん、あれを止めるには殺すつもりでやらないとなんだけど、最悪喋れなくなってもいいかな?」
「ああ、構わない。あれはもう魔物だから人として裁く事も出来ないだろう。報告を信じて貰えるかどうかが微妙になるが仕方が無い。しかし、君はあれを倒せるのか?」
「うん、倒すだけなら問題無いよ。倒した後の処理は出来るかどうか分からないけど」
「後の処理?」
「まぁそれについてはやってみてから話すよ」
少し距離をとってライラさんと話し、許可も得た。
そして私が溜めていた技もそろそろ完成する。
オーガが余裕ぶってゴキゴキと間接を鳴らしていると、そんな音を掻き消す程の轟音が冒険者ギルドの上空から響き渡った。




