027 伯爵邸に侵入
ゴブリンの集落を殲滅したので、私達はライザック伯爵家へ報告に戻って来た。
しかし入口にはアウレーネさんが仁王立ちで待ち構えていた。
あれじゃ、入れないんですけど……。
私とアヤメと虎太郎(とおばあちゃん)は各々の隠密のやり方で姿を隠して伯爵家に近づいていた。
しかし、アウレーネさんは魔力に敏感なので、ある程度以上は接近できずにいた。
「あれはライザック伯爵家の次席騎士であるアウレーネですね。何故あんなに周囲を警戒しているんでしょう?」
「さっき話したでしょ。私が素性を明かしてないから、私の事を敵視してるのよ」
「アウレーネは真面目なので素性は明かしてもいいと思いますよ?」
確かに真面目が暴走しすぎてるだけだとは思うんだけど。
今さら信じてくれるかなぁ?
伯爵が説得してるはずなのに全然変化が見られないもの。
「お嬢……じゃなくてアイナ様。あの娘には俺の術が掛かってて、行き過ぎた正義感を発揮するようになってるんです」
「お前の仕業か、虎太郎おおおおおおっ!!」
「いや、ギルマスの指示ですって」
まったく、おかげで私は面倒な事になってるんだからね。
扉蹴破ってたぶん伯爵家からも指名手配だよ。
蹴破ったのは私が悪いんだけどさ……。
でもあのライザック伯爵ならきっと許してくれると思う。
但し伯爵に会うには、アウレーネさんをやり過ごさねばならない。
「虎太郎、その術って解けるの?」
「解くのはすぐ出来ますけど、徐々にしか治っていかないです。たぶん完全に元に戻るには2日ぐらいかかります」
だめじゃん。
しょうがない、デコイを出して誘導するか。
私は伯爵邸内の任意の場所にいくつかの魔力の塊を放出した。
「むっ!? いつの間にか侵入されただとっ!?」
アウレーネさん一瞬で反応するって、凄い感知能力だなぁ。
とりあえず誘導には成功したので、入口はがら空きとなった。
それでいいのか、アウレーネさん……。
まぁ感知能力高いから、誰か来たら気付けるつもりなんだろうなぁ。
私達の隠密に気付けないようじゃ、危ないと思うけどね。
私達は伯爵邸へ侵入して、伯爵がいるであろう場所へ向かった。
下手に収納索敵を使うとアウレーネさんに感知されてしまうので、自力で探さなくてはならない。
幸い間取りは前回索敵を使った時に覚えてたので、大凡の目星は付けてあるし何とかなる筈。
普通に気配を探りながら進んでいくと、伯爵夫人の部屋に2人の人間がいるらしいのを感じた。
そっと扉を開けて中に入ると、一人は伯爵夫人でベッドに寝ており、もう一人は目当てのライザック伯爵だった。
夫人の側で椅子に座って見守っていたようだ。
「ん!?誰だっ!?」
扉が閉まった時に僅かに音がしたために、気付かれてしまった。
部屋に入ってしまえばもう姿を見せても大丈夫だろうと、私は光の収納を解いた。
「君はリィナ嬢……良かった、無事だったか」
おおぅ、真っ先に無事を喜んで貰えるとか、なんか恥ずい。
アヤメなんて真っ先に文句言って来たのに。
「ゴブリンの集落の調査をするなんて言ってたが、思い止まって戻って来てくれたのか。一人で調査なんて危険な事はしないでおくれ」
「ゴブリンの集落なら見つけて来ましたよ」
「な、なんだって!?」
伯爵がガタリと椅子を揺らして立ち上がったために、夫人も目を覚ましてしまった。
「あなた、どうしたの……?」
「すまない、君は休んでていいよ」
「あら?お客様?」
夫人は以前の苦しんでいる様子からは考えられない程回復しているみたいだ。
呼吸も穏やかで、自力で体を起こせる程に良くなっていた。
白い水の回復力は凄いね。
「お久しぶりです。私はアヴドメン子爵の娘リィナです」
「あら、そういえば見た事がある気がするわ。あのやんちゃだった子よね?」
その聞き方だと同意しづらいんですけど……。
若干のんびりした口調の夫人を遮って、伯爵が慌てて私に問うてくる。
「それよりも、ゴブリンの集落を見つけたというのは本当かい!?」
「はい」
「そうか。では直ぐに援軍を要請するとしよう」
「あぁ、その必要は無いですよ。殲滅して来ましたから」
「そうか、殲滅……はぁっ!?」
あんぐりと口を開けてフリーズする伯爵。
「冗談は止めてほしいのだが……その目は冗談を言ってるように見えないな。本当に集落を殲滅したと?」
「本当に殲滅しましたよ」
証拠として収納からゴブリンキングの顔だけ出してみる。
しかしこれが失敗だった。
「おわっ!?」
「きゃあっ!?」
伯爵夫婦が揃って驚きの声を上げた。
うわぁ、拙いな……。
案の定バタンと大きな音を上げて部屋の扉が開かれ、アウレーネさんが現れてしまった。
「侵入者めっ!無駄な抵抗はするな!」
うーん、侵入者ってのは間違ってないからなぁ……どうしよっか。




