025 寝返る
とりあえず血が足りないので白い水を急いで飲んでみた。
すると伯爵夫人の時と同様に全身が輝き出す。
「お嬢様光ってますよ!? なんですかそれ、スキル?」
「あー、後で説明するよ」
白い水、飲み込むと光るのかなぁ?
黒ずくめの人は斬られた首元から胃に流れていって光ったとか?
まぁ、検証は後だ。
私は残っているゴブリン達の頭部付近の空間を収納して削っていく。
するとキングの魔力感知の恩恵を受けられなくなったゴブリン達は次々に倒れていった。
「ほえっ!? お嬢様、今何かしました?」
「あー、それも後で説明するよ」
「何で全部後回しなんですかぁっ!?」
アヤメの抗議を聞いている暇など無いのよ。
先程アヤメが吹き飛ばしたゴブリンだけ、魔力感知出来ない筈なのに私の空間収納による振動を避けた。
あれは次期ゴブリンキング候補かな?
ここで確実に仕留めておかないとあかん奴だ。
「アヤメ、あのゴブリン逃がさないようにして」
「もう、再会してすぐなのに人使い荒いですよぉ」
ブツブツ文句を言いながらも、ゴブリンが逃げないように立ち回るアヤメ。
逃げられないと悟ったのか、ゴブリンはこちらに向かって突っ込んで来た。
だがそれは悪手だ。
駆ける足が地面を離れた瞬間を狙ってゴブリンの喉元に剣を排出した。
咄嗟に避けようとしたゴブリンだが、かなり深めに首付近を刃が抉った。
大量に出血し踏鞴を踏むゴブリンに、とどめの空間収納で脳を揺らしてやると、今度こそ完全に沈黙した。
ゴブリンの集落にもまだ何体か残っているが、そっちはアヤメに任せる事にした。
程なくして集落を殲滅し終えて、アヤメが戻ってきた。
私達姉妹と同様にアヤメもセバルフに鍛えられているので、ゴブリンの上位種といえど大した敵では無かったようだ。
さてこれから尋問しようかと思ったところで、縄で縛られたまま沈黙していた黒ずくめの人がポツリと呟いた。
「お前、アヴドメン子爵家の養女か?」
あれ?髪の色を変えてるのに何でバレたんだろ?
「なんでバレたって顔してるな。髪の色以外は冒険者ギルドで見た手配書そのもの。そこのメイドがお嬢様と呼んでいたし、隣領との境界にある森をウロウロしていれば大体目星はつく」
ですよねー。
アヤメってば、普通にお嬢様って呼ぶから。
それにしても伯爵家の人は知らなかったのに、冒険者ギルドには手配書が回ってたんだね。
アヴドメン子爵領の冒険者ギルドから経由して来たのかも。
っていうか、この黒ずくめの人、自分の今の立場分かってる?
「そっちが負けた側なんだから、こっちの素性を探ろうとするの止めてくれないかな?」
私の言葉に思うところあったのか、黒ずくめの人は顔を逸らした。
「お嬢様、こいつは誰ですか?」
「さあ? 襲ってきたからとりあえず無力化しといた。誰なのかは、これから聞き出そうとしてたところ」
まぁ大凡見当はついてるけどね。
「なるほど拷問ですね。私がやりましょうか?」
嬉々として拷問したがるアヤメ、何か怖いよ?
「別に拷問しなくてもちゃんと情報を喋ってくれるなら、それでいいんだけど」
「えー、拷問しましょうよ。拷問じゃないと嘘の情報吐いて終わりですよ? 私拷問得意なんで、どんなド○スでもド○ムに転換してやりますよ」
まぁ確かに、多少痛い目を見せないと嘘を言うだけかも知れないね。
黒ずくめの人の性癖がどうなろうと知った事じゃないし。
「しょうがない、じゃあアヤメに任せ……」
「ま、待ってくれっ! 俺はあんたに忠誠を誓う! 何でも喋るから勘弁してくれっ!!」
急に従順になる黒ずくめの人。
格好はプロフェッショナルっぽいのに、拷問怖くて簡単に寝返るんかい。
「川の辺でおばあちゃんが『ギルマスは泥船だ。あの少女についていけ』って言ってたんだ! ゴブリンキングを単独で倒しちまうあんたが相手じゃ、おばあちゃんの言う通りになっちまう。俺はもうあっちからは手を引く。ギルマスが何を狙ってるかも全部喋るから」
おお、あっちの世界でおばあちゃんから助言があったのか。
おばあちゃん先見の明があるね。
ゴブリンキングは倒したし、ギルマスの言い逃れできない証拠も掴んでる。
泥船は近々底に穴があくだろう。
「お嬢様、この手の輩は平気で口から出任せを言います。やっぱり拷問しましょう」
アヤメ、どんだけ拷問好きなのよ?
まぁ別に出任せでも後で裏を取ればいいだけだし。
「いいでしょう」
「お嬢様っ!?」
「アヤメは黙ってて。では貴方に忠誠を誓ってもらいましょう。貴方はおばあちゃんに誓って、私に忠義を尽くすと言えますか?」
「あ、ああ! おばあちゃんに誓って、あんたを裏切ったりしない!」
「違う! そこは『ばっちゃんの名にかけて!』でしょうが!」
「え……ばっちゃんの名……?」
ちっ、やはりこの世界の人には通じないか……。
ちょっとアヤメ、何で残念な人を見る目でこっちを見てるのかしら?




