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019 泊まる?

 伯爵はごくりと嚥下すると、驚きに見開かれた瞳のまま問いかける。


「……それが起こるとしたらどれくらい先だと思うかね?」

「先程かなりの数を駆除しましたが、集落が出来てしまってるなら、ゴブリンの繁殖力を考えると一週間程度で回復する数です」

「一週間か。援軍を頼むとしてもギリギリだな……」


 他領へ援軍を頼むとしたら、通信の魔導具で直ぐに連絡出来ても、準備と行軍で近隣の領地からでは一週間はかかるでしょうね。

 それまで領内の冒険者と伯爵家の私兵で戦線を維持しなければならない。

 でも本当にキングが生まれていたら、かなり上級の冒険者でもいないと対処出来ないんじゃないかな?


「ゴブリンキングと闘える人は領内にいますか?」

「残念だが、A級以上の冒険者はギルマスが変わると共に他領へ本拠地を変えてしまったよ。私兵にも強者はいるがキング相手にまともに闘えるのはせいぜい2人。本当にキングが生まれていたら援軍が来るまでは仕掛けられないだろう」


 うわぁ……。

 冒険者ギルドは世界的組織なので国や貴族からの干渉は受けないが、別に対立している訳じゃない。

 でもここの冒険者ギルドは何かがおかしい。

 まるで伯爵家を陥れようとしているかのようだ。

 もし魔物暴走スタンピードが起きるようなら、あてにしない方がいいかもね。


「とりあえずゴブリンの集落が出来ているかの調査をして、直ぐに援軍を要請する事にするよ」

「それがいいと思います」


 さて私はどうしようかな?

 っていうか、父の友人を見捨てるなんて出来ないし、やっぱり私もここに留まって参加しないとだよね。

 でもここはまだアヴドメン子爵領の隣でしかないから、あんまり長居すると誰かが通報しちゃう可能性がある。

 特に冒険者ギルドが何やらきな臭いから、冒険者という手っ取り早くお金を稼ぐ手段がこの領では封じられる事になる。

 まぁ食糧はまだ収納にストックがあるから暫くは平気だし、何なら街で宿は取らずに野宿してればいいか。


「私の方の話はこんなところです」

「そうか、色々ありがとう。……それにしてもさすがセバルフが鍛えているだけあって優秀だね。洞察力も大したものだ。とても私の娘と同い年とは思えないよ」


 私達姉妹が執事のセバルフに鍛えて貰ってる事を知ってるの?

 まぁセバルフなら、何かあった時に頼れるように親交のあったライザック伯爵に教えていても不思議じゃないか。

 娘さんと同い年と思えないのは、私が転生者だからよねぇ。

 前世の年齢も足したら……美少女は歳取らないから足すとか意味分からないんですけど!


「じゃあ、私はそろそろおいとまさせてもらいますね」

「いやいやいや、何で出て行こうとするの!?うちに泊まりないさい!逃亡中なんて事聞いたらほっとけないよ!」


 この屋敷に泊まる?

 アウレーネさんがいるんだから無理に決まってるでしょ。


「すいません、それは遠慮させていただきます。魔物暴走スタンピードが起こった時にはお力になると約束しますので」

「だから何で!?私の方が恩があるんだから、君を追い出してしかも力を貸せなんて言う訳ないだろう!君を宿泊もさせずに帰らせたなんて事になったら、妻と娘に叱られてしまうよ」

「ですから恩に着せるつもりも端から無いですし」


 アウレーネさんがいる屋根付きの寝床より、野宿の方が安全ですからね。


「あ、そうだ。何なら今から私がゴブリンの集落の調査に行って来ますよ。早い方がいいでしょう。そうしましょう」


 私はそう言って素早く立ち上がり、応接室の扉を開けて足早に出て行った。


「ま、待つんだっ!!」


 後ろから伯爵が追いかけて私を止めようとするが、私の方が足が早い。

 ダッシュで屋敷の入口に向かおうとしたが、私の前に立ち塞がる影が。

 もちろんアウレーネさんである。


「正体を現したな!足早に逃げようとしても、そうはいかんぞ!」


 髪の色は白に変えたままだから、まだ正体現してないけどね。

 私と伯爵が話し合いをしている間に予備の剣を取りに行ってたようで、アウレーネさんは正眼に構えて私に剣を向けてくる。


「しょうがないなぁ」


 私は全力で一歩踏み込んでアウレーネさんの懐に入る。

 私の全力の動きについて来れないアウレーネさんは、一瞬私の姿を見失って視線を彷徨わせる。

 その隙をついて、先程と同じように剣を折ってやった。


「なっ!?いつの間にっ!?」


 そして素早くアウレーネさんの後ろに回り込み、そのまま屋敷の出口へと向かった。


「ま、待てっ!!」


 アウレーネさんと伯爵が追いかけてくるけど、私はさらに加速して、全力で扉を蹴破って屋敷を出て行った。

 壊れた扉の前に立ち尽くす2人を背に、私はゴブリンの集落を探しに森へと駆け出した。

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