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017 思い込み

 な、何で体が光るの!?

 やっぱりあれは傷薬だから、服用させちゃいけなかったのかな?

 でもポーションって傷口に掛けてもいいし、飲んでも同様の効果が認められてるよね。

 だからこの世界の薬ってそういうもんだと思ってた。

 魔法的な何かが良いように作用して回復する、いわばゲーム的な……。

 ファンタジー世界に毒され過ぎだったのだろうか?


 程なくして伯爵夫人の体から出ていた光は収まり、今まで苦しんでいた様子から一転、穏やかな呼吸に回復していた。

 狼や私が使った時は光ったりしなかったのに、何で夫人の体だけ光ったんだろ?

 服用したせいかな?

 何にせよ回復したようで、医者らしき老人も容態が安定した事に驚いている。


『何が起こったんだ……?まるで神の奇跡のようだ』

『今のは何だ!?妻はどうなったのだ!?』

『ご安心ください。何故かは分かりませんが奥様は回復されました。病の原因らしき部分も完全に消失しています』

『どういう事だ?一体何が……』

『お母様は治ったのね!?良かった!!』


 困惑する伯爵と、滂沱の涙に濡れる娘のユリアンナさん。

 やっぱりポーション的な使い方で合ってたんだ。

 ほんの数滴で結構効果あるんだなぁ……。

 これは、ダンジョンで一番の拾いものだったかも知れない。

 卵の方も後で美味しくいただくけどね。


 さて、向こうは無事解決したようなので、暫くしたらこっちに戻ってくるだろう。

 それまでアウレーネさんが大人しくしててくれるといいけど。

 私が耳周辺の空気をこちらの部屋のものに戻すと……


「やはり君はここで始末しておかねばならないようだな。素手で容易く剣を折る程の実力者——明らかに伯爵家に仇なす刺客だ」


 なんでそうなるのよ!?

 実力の有無と、敵かどうかは別物でしょ!

 まぁ実力を隠すってのはやましい事があるからで、事実私は現在進行形で逃亡者なんだけどさ。

 でも伯爵家に仇なすってのは完全にアウレーネさんの思い込みでしょうが。

 寧ろ私は友好的なんですけどぉ?

 まぁ武器は破壊してあるし、剣士ならもう攻撃手段は無いでしょ……と思ったら、何か詠唱始めた。

 室内で魔法使うとか、正気ですか?

 いや、さすがに直接的な攻撃魔法を使う訳が無いだろうし、補助的な魔法——私の動きを封じる系かな?

 まぁさっきのアウレーネさんとのやり取りのお陰で魔法対策はバッチリだけどね。


「彼の者を拘束せよ『茨拘束』!」


 アウレーネさんの発した呪文が、さながら厨二病の発した言葉であるかのように空しく響き渡った。

 私だったら赤面してるとこよ。

 でもアウレーネさんは目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。


「な、何故発動しないっ!?」


 残念でした。

 魔法を使うには空気中に漂っている魔素が必要になるんだよね。

 さっき私は自分の魔力を収納出来たから、たぶんその魔力の元になっている魔素も収納出来るだろうと踏んでいた。

 そしてアウレーネさんがチンタラ詠唱してる間にこの部屋の魔素は全部収納しちゃったのだ。

 自分で魔法を使うために魔力を練っていたからか、今回は私が収納を使っているのに気付かなかったみたいだね。

 アウレーネさん、めっちゃぐぬぬってなってるけど、そろそろ諦めてくれないかなぁ?


「まだやりますか?」


 ぷるぷると震える拳を握りしめるアウレーネさん。

 え?まさかそのグーで殴りかかってきたりしないよね?

 と、そこへ応接室の扉を開けて伯爵が戻って来た。


「何をしている?」


 伯爵はアウレーネさんに厳しい視線を送る。

 伯爵に進言するかと思ったけど、アウレーネさんは拳を引っ込めた。

 さすがに主に逆らってまで私に喧嘩をふっかけては来ないか……と思ったが、


「アウレーネ、少し外せ。私は彼女と2人きりで話がしたい」

「き、危険です!こやつは得体が知れませんっ!!」


 あー、私の正体に見当がついてる伯爵と、漠然と怪しいとしか思って無いアウレーネさんじゃ、意見が合う訳ないよね。

 しかし伯爵家当主は伊達じゃない。


「いいから外せ」


 有無を言わさぬ圧力でアウレーネさんを退出させた。

 出て行く際にめっちゃ睨まれたよ。

 あれはたぶんドアの所で聞き耳立ててるだろうなぁ。

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