表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/40

015 伯爵

「そこまでになさい、アウレーネ。それ以上恩人に無礼を働く事は私が許しません」


 扉を開けて、この伯爵家の令嬢であるユリアンナさんが入室して来た。

 質素ながらも上品なドレスを着ており、品の良さが窺える。

 やたらとギラギラした光り物ばかり身に付けていた伯父の娘であるヴェロニカとは対照的である。


「し、しかしお嬢様、この者はきっと何かを企んでいます!」


 今まさに、ここから早く逃げることを企んでますけどね。

 しかしアウレーネさんは伯爵令嬢ユリアンナさんの強い眼光に押し負けて、渋々矛を収めた。

 いや、こっち睨まないでよ。

 完全に敵認定されてしまったなぁ……。


 そして執事さん案内の下、私達は応接室へと移動した。

 それなりに広い応接室だが、調度品などは寧ろアヴドメン子爵家の方が豪華なぐらいだった。

 本当に質素倹約なんだなぁ。

 領民の税金を私服の為に使わないのは立派だと思うけど、他の貴族に侮られるんじゃないの?

 ライザック伯爵は善政を敷いている事で有名だが、その実領地経営能力が低いと見られかねない。

 延いては国にとって利益をもたらさない貴族であると上位貴族に思われる可能性だってある。

 だからこそ貴族達はどれだけ善良であろうとも、装いまで質素にしてはならないのだ。

 故に、私から見たライザック伯爵家は、人としては素晴らしくとも貴族としては物足りないという印象だった。


 応接室にて席を勧められたので、2人掛けのソファーに腰掛ける。

 向かいのソファーにはユリアンナさんが少し身を寄せて腰掛ける。

 ん?まさか、その隣に誰か来るの?

 すると私達が腰掛けるとすぐに入口の扉が開いた。


「おや、待たせてしまったかい?」


 そこに立っていたのは、少しユリアンナさんに面差しが似ている男性。

 髪の色は茶色いが、それ以外は親子ではないかと思う程似ている。

 まぁ、このタイミングで来るって事は親子なんでしょうけど。


「君が娘を助けてくれた冒険者か。礼を……」


 娘って事は、やはりこの人が伯爵か。

 伯爵は何故か目を見開いて固まってるけど……まさか、私の正体がバレた?

 髪の色を白く変えているとはいえ、私は以前にも父と伯爵が会っている場に同席した事がある。

 幼い頃の面立ちを覚えられてても不思議じゃないか……。

 私の方はぼんやりとしか覚えてないけどね。


「お父様、どうかされましたか?アイナさんとお会いした事が?」

「アイナ……?い、いや、初対面だな。うん」


 おや、何故か知らないふりをしてくれるみたいだ。

 ならば乗るしかない、この小波スモールウェーブに!


「初めまして伯爵様。冒険者のアイナです。助けたとおっしゃられる程の事はしていません。護衛の方々が闘いやすくなるようにお手伝いした程度ですので」


 立ち上がり、恭しく頭を下げる。

 伯爵も私の意を察してくれたのか、特に反応はしなかった。

 しかし、部屋の隅に立っているアウレーネさんだけは眉間に皺を寄せていた。


「兵士達からも報告は受けている。君がいなかったら危なかったと口々に言っていたよ」


 まぁ皆助かって良かったよね。

 それ自体はとても良い事をしたと自分でも思う。

 しかし、現在の伯爵邸にお邪魔している状況はいただけない。

 特にアウレーネさんに目を付けられているのが良くない。

 お礼も言ってもらったし、もう終わりでいいよね。

 帰っていいかな?


「恩人に何もお礼をしない訳にはいかないので、今夜の晩餐に招待したい。いかがかな?」


 ノーサンキューです。


「申し訳ございません。私は急ぐ旅ですので、辞退させていただきたく思います」

「貴様っ!伯爵様のご招待を断る気かっ!!」


 だから何でアウレーネさんは私をここに止めようとするかな?

 危険人物だと思ってるなら遠ざけないとでしょ?

 まさかここで処分した方が安全って事?

 尚のこと逃げたいんですけど!!


「アウレーネ、失礼ですよ!」

「し、しかしっ!」


 そして女性騎士アウレーネさんはまた伯爵令嬢ユリアンナさんに咎められる。

 学習しないのかな、この人?

 そんなやり取りが行われる中、突然応接室の扉が勢いよく開けられる。


「申し訳ありません!旦那様っ!奥様がっ!!」


 血相を変えたメイドさんが叫ぶと、伯爵家の人々の顔色が変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ