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012 索敵

 アヴドメン子爵領の南の森を抜けた先にあるのは、ライザック伯爵領。

 伯父のゲスオールのような無能な領主ではなく、国内のあちこちから有能と評価される素晴らしい領主だ。

 父が生前親交があったのだが、今では全くと言っていいほど交流は無い。

 確か私達姉妹と同い年の娘がいたと思うけど、一度会った程度なので顔も思い出せない。

 もっとも現在逃亡者となっている私が領主と面会なんてする事も無いだろうし、問題無いけどね。


 さて、先程ダンジョンで一つ面白い発見をした。

 白い大狼を倒した後、突き刺さった武器を収納して回収しようとした時に、ふと頭の中に収納しようとしている武器のイメージが流れ込んで来た。

 私の収納は中に入っているものを取り出す時に、頭の中に収納されているもののリストがイメージされる。

 どうやらそれが、収納する寸前でも行われるらしいのだ。

 試しに落ちている武器を収納しようと・・・・・・だけしてみた。

 実際には収納しないのだが、収納しようとした物に対して僅かながら私の魔力が当てられる。

 するとその武器の形だけでなく、質感や重さ、更にはひんやりとした表面の温度までが脳内にイメージされたのだ。

 これはもはや第二の触覚と言っていいレベルだろう。

 収納しなくても、収納しようとしてみるだけで、そこにある物質の詳細を手探りしたかのように感じ取れる。

 これを利用して、私は自分の周囲に魔力を巡らせて、周囲にあるもの全てを収納しようとしてみた。

 初めは情報量が過多になって酔ってしまったが、徐々に慣れてくると、常に周囲の気配を探れるようになったのだ。

 これは気配察知に便利という事で、今は察知範囲を広げれるように頑張っている。


「狼の魔物が2匹、森から出て私の方に迫ってるね」


 収納出来ないものも、逆に収納出来ないからこそどういう形なのか判別出来る。

 何故なら空気は収納出来るから、それを避けるように私の収納に違和感が伝わるのだ。

 生命体は収納出来ないからこそ、私の収納範囲に入ればどこにいるか一目瞭然という事になる。

 一目どころか目をつむっても相手の位置が分かるって、もはや武術の達人クラスだよねこれ。

 私はかなり訓練してるからある程度の殺気は感じ取れるけど、これなら殺気を消してる人の気配も読み取れるもんね。


 そうこうしているうちに後ろから狼が2匹同時に飛びかかって来た。

 そして同時に串刺しになる。

 飛びかかってくる系の魔物は対処が楽でいいわ〜。

 進行方向の先に武器を半分出すだけでいいし。

 完全に絶命したところで狼の体を収納に入れる。

 ダンジョンの外の魔物はアイテムドロップとかしないから、どこかで解体しないとなのだ。

 でも今はそんな悠長な事してたら追っ手に捕まるかもしれないので、とりあえず私が闘った痕跡を隠す為にも倒した魔物は全部収納に入れてしまっている。

 容量は、感覚的には某卵型ドーム1個分ぐらいは収納できそうだし、まだ余裕があると思う。


 そろそろ子爵領から出て伯爵領に差し掛かるかな?と思った矢先、私の収納索敵に人と魔物が争っているような感覚が過ぎった。

 現在の私の索敵範囲は100mぐらいなので、そんなに遠くではない筈だけど……。

 キョロキョロと周囲を覗うと、少し先の木が疎らに生えている付近で、豪華な馬車を囲むように人と魔物——ゴブリンが闘っていた。

 貴族の馬車か……嫌な予感がするし、相手がゴブリン程度なら助けなくてもいいかな?

 と思ったんだけど、どうやら様子がおかしい。

 先頭で闘っている女性を始め、護衛らしい騎士達は皆手練れみたいなのに、何故かゴブリン相手に劣勢になっているのだ。

 何かデバフでも掛けられてるのかな?

 よく見ると闘っている人達の足下にはゴブリンの遺体が山積みになっている。

 そして斬った先にまた新しいゴブリンが次々と湧いて出てくるのだ。

 近くにゴブリンの集落でもあったのかも知れない。

 あれは拙い。

 武術の基本は足裁きだ。

 それが足下をゴブリンの亡骸で埋め尽くされていく度に封じられて行く。

 数の暴力——繁殖力が旺盛なゴブリンらしい闘い方だ。

 個が勝てなくても群で勝つ。


 しょうがないなぁ。

 あんまり逃亡者としては貴族に関わりたくないけど、見捨てるのも後味が悪いよね。

 まぁサクッと助けて、さっさと逃げよう。


 念の為、髪の色だけは変えておく。

 収納魔法で髪に吸収される筈の光の波長を、髪に当たる寸前で収納して、逆ベクトルでそのまま放出する。

 光は吸収されたスペクトルによって色が変化する。

 黒髪は髪に当たった光の殆どを吸収して、僅かにしか反射しないので黒く見える。

 逆に髪に光を吸収させずに全て反射させれば白く見えるのだ。

 これによって本来美しい金色に輝いていた私の髪は、雪を被ったような白く透き通った色へと変わった。

 髪の色が違うだけでもかなり偽装になる筈。


 私は闘っている人の足下に転がっているゴブリンデブリを収納していった。

 急に足下が開けた事で一瞬戸惑う護衛達。


「私が足下を掃除します!貴方達はゴブリンとの闘いに集中して!」


 私の言葉に我に返った護衛達は、余計な返事もせずに私を信じて連携を取ってくれる。

 倒されて転がる邪魔なゴブリンを私が回収していく事で、効率良くゴブリンを撃退していった。

 いかにゴブリンの集落が近くにあろうとも無尽蔵に出てくる訳では無いので、1時間程闘い続けた後で襲撃は収まった。

 さすがに闘い易くしたとはいえ長時間の戦闘は堪えたらしく、皆肩で息をしている。

 なんか私に戦闘は無理だと思われたのか、こちらに来たゴブリンも全部排除してくれてたから、余計疲れたのかもね。

 そんな人達を尻目に私はその場をすぐに後にしようとした……んだけど、ガッシリと肩を掴まれてしまった。


「待ちたまえ」


 ちっ、逃亡失敗……。

 最も激しく戦闘を行っていた紅一点の女性騎士が真剣な眼差しを向けていた。

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