011 お詫び
え?ちょ、待ってよ……。
出口は!?
出口が出てないのにダンジョン崩壊の地震が始まってるんですけど!
このままじゃ生き埋めに……ならなかった。
そういえばこのダンジョンは森型だから、天井無かったし。
地震が進むと、空になっていた湖は無くなり、周囲の木々の並びが変化して行く。
元々この辺は森林だったのが一部ダンジョン化していたようなので、ダンジョン化した部分が元の森林に戻っていくだけだった。
ダンジョン崩壊についても聞いてただけで実際に見た事は無いから、こんな風になるなんて知らなかったよ。
暫くして地震も収まって、普通の森に戻ったみたいだ。
「ダンジョンクリアの報酬が無精卵だけかぁ……。まぁこのダンジョンは新しく発生したばかりみたいだったし、ボスにもすぐ会える程度だったから、こんなもんか」
独り言ちて周囲に気を配ると、遠くの方で人の声が聞こえた気がした。
やばい、追っ手かな?
一先ず自分に当たる光を空間収納で通過させ、姿を消してみる。
そこに現れたのは、いかにも冒険者といった格好の4人組だった。
男性の剣士が2人と、回復職っぽい女性と、魔導師っぽい女性。
子爵家の私兵でこんな人達は見たこと無いから、たぶん追っ手では無さそうだ。
彼らは何かを探すような素振りを見せている。
「報告にあったのはこの辺だろ?」
「そうだな。新しいダンジョンで森林タイプらしい。入口は見つけづらいって話だったから、よく目を凝らさないとかもよ」
「目印のついた木のすぐ近くって聞いてたのになぁ。これって見つけられないと依頼失敗になるのか?」
「別の奴が見つけた場合は失敗になるが、そもそも無かったら子爵家の私兵の見間違いって事になるかも知れん」
「まぁ安い依頼だったし、失敗しても違約金も大した事無い。夜になる前に戻ろうぜ」
「そうだな。無いものを探すってのは報酬と難易度が釣り合ってない。時間によって出現する入口って可能性もあるが、それなら俺達が探した時間には出なかったと報告すればいいだけだしな」
「賛成。私ももう疲れたし、そろそろ帰ろう」
私がダンジョンを攻略しちゃったせいで、この冒険者達は骨折り損だったみたいだね。
なんか申し訳無い。
お詫びとしてダンジョンでドロップしたアイテムをくれてやろうかな。
卵だけは私が美味しくいただくのであげないけど。
「ん?おい、なんかここに狼の牙が山盛りになってるぞ」
「うおっ、マジか?何だろこれ?何かのまじないか?」
「ちょっと鑑定してみるね。……普通の狼の魔物の牙みたい。でも誰がこんなところに集めたんだろう?」
「人間がこんな事するかな?ちょっと知性がある魔物とかだとやりそうだけど」
「そもそもこの牙、綺麗すぎる。まるでダンジョンのドロップ品みたいな……」
「やっぱりこの近くにダンジョンがあるって事か?」
「いや、ダンジョンが近くにあったとしても、ここにドロップ品を置いておく意味とかあるか?」
「何だよ、謎が深まるばかりだな。どう報告したらいいんだ?」
あら?
ダンジョンで拾った狼の牙セットを分かりやすく譲ってあげたつもりだったけど、意図が伝わってないみたい。
そりゃあ、突然牙が山積みになってたら不審に思うよね。
しゃーない、メッセージも添えておくか。
地面の土を文字の形に収納して、冒険者達に伝えたい事を書き記した。
「な、何だっ!?急に地面に文字がっ!!」
「え?『お詫びです。差し上げます』?これを貰ってもいいって事?」
「うおっ!『はい』ってリアルタイムで返事来た!?ち、近くに何かいるのかっ!?」
逆に混乱させちゃったかな?
しかし冒険者達は理解出来ないなりに納得したようで、牙を貰ってこの場から去って行った。
どう報告されるのかちょっと気になるけど、たぶん彼らは子爵領の冒険者ギルドから来てる人達だから、もう会う事もないだろうなぁ。
ダンジョンの事を冒険者ギルドに報告したのって、たぶん私を追って来た子爵領の私兵だろうし。
つまり報告先の冒険者ギルドも子爵領内のギルドの筈。
私がこれから向かうのは隣の領地の冒険者ギルドだもんね。
彼らが去った後、ざっと歩きながら周囲を探ったけど追っ手の姿は無かった。
もう数日は経ってるから、こちらの方角の捜索は諦めたのかな?
それなら好都合と、私は隣領へと歩を進めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アヴドメン子爵領の冒険者ギルドでは、受付嬢が困惑した表情で依頼の報告を受けていた。
「あの〜、虚偽の報告をされますとペナルティが付きますよ?」
「嘘じゃねーって!」
「報告内容は真実です。実際体験した私達ですら信じられないですけど……」
冒険者達は頑張って説明するものの、あまりにも突拍子も無い出来事な為になかなか信じて貰えない。
「何なら真偽の魔導具で私達が嘘を付いてないか調べて貰っても構いません」
「……そこまでおっしゃるなら信じますが。確かに牙はダンジョン産のもののようですし」
「そもそもダンジョンは無かったんです。新しいダンジョンだったのなら、もう攻略されてしまって消えたんじゃないですか?」
「新しいダンジョンでも、普通はCランク以上のパーティでなければ早々攻略なんて出来ませんよ」
「じゃあたまたま通りがかったCランクパーティがいたとか?」
「うーん、そうでしょうか?」
この話は尾ひれが付いて、後に『森の精霊の悪戯』と呼ばれるようになった。




