24.旅立ち
エピローグ。ちょっと短いです。
アインたちがクインの邸宅に戻って二週間が経過しようとしていた。
アインとゲイングは鍛錬を続け、デルカとミディアはリティを鍛え、ウェンディは神に祈りを捧げ、ルインはひたすら邸内の雑用をこなす日々だ。
夜になれば夫婦が静かに身を寄せ合い、未婚組が酒盛りを始めるのも変わらなかった。
そんな日々に、ようやく終止符が打たれた。
クインが帰宅したのだ。
クインは再び眉をひそめ、鼻を摘まんだ。
「……マリンダが居ないのに、なぜこうも応接間が酒臭いんですか」
魔導術式で瞬く間に匂いを飛ばし、応接間に皆を集めた。
「バスタッシュ王国がゲイル王国を降しましたよ」
クインは開口一番、そう告げた。
「予定通り、ゲイル王国の領土はバスタッシュ王国が併合するらしいです。功労者はゼーグル将軍だそうなので、彼の管轄となるでしょう――リティシア様、もし名乗り出れば彼の側室にされると思いますが、基本方針のままで構いませんか?」
リティは微笑みながら応える。
「私はアインの妻です。他の人の妻になる気はありません」
クインが微笑みながら頷いた。
アインがクインに尋ねる。
「戦場はどうなったんだ?」
「私たちが門を閉じるのと時を同じくして、突然ゲイル王国の兵が瓦解したそうです」
ゲイングがクインに尋ねる。
「魔女はどうした? 一緒じゃなかったのか?」
「途中で分かれました。今頃は住処に戻っている途中じゃないでしょうか」
「封神装置の調整はすぐに終わったんだろう? なんでこんなに遅くなったんだ?」
「そのことについてはあまり話したくありません。彼女の求めた対価を払っていた。それだけです」
顔をしかめ、目をそらして実に嫌そうに、クインが吐き捨てるように告げた。
――他人に触れられたくないこともあるだろう。
一同はその話題にはこれ以上触れず、そっとしておくことにした。
アインが大きく息を吐いた。
「――ふぅ。これでようやく、俺も肩の荷が降りた。嫁さんも貰っちまったし、これからどうするかねぇ。リティはウェンディたちと共に行きたいと言っていたな」
リティは微笑みながら、静かに頷いた。
アインがゲイングに振り向く。
「ゲイング、お前たちはこれからどうする?」
「俺たちは少し路銀を貯めようかと思う。港町ウェスティンで世話になった商人が居る。そこに少しの間、厄介になろうかと、ウェンディと相談していた。好待遇で腕の立つ用心棒を探している商人だ――どうだ、アイン。お前たちも一緒に雇われてみないか?」
アインはリティを見る
「リティ、お前はどうしたい? あそこで商人の用心棒なら、今のお前を見てリティシアだと気づける奴は居ないはずだ」
リティは髪を短く切り、旅ですっかり日に焼けていた。連日の訓練で筋肉も付き、一目で王族の姫君と判別するのは難しいだろう。
「……私はそこでウェンディと行動を共にしたいと思います。ウェンディの迷惑でなければ、ですけど」
リティがちらりと上目遣いでウェンディを見た。
ウェンディはリティの目を見て、無表情で応える。
「こちらこそ、よろしくお願いします……先輩」
そのウェンディの瞳から喜びを感じとったリティは、会心の笑みを浮かべた。
「やった! それじゃあ決まりですね!」
ゲイングは、三人から六人への大所帯となった一行の賑やかさに、苦笑を浮かべるのみだった。
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「なぁクイン、報酬が多すぎやしないか?」
旅立ちの日、アインは餞別として手渡された革袋の中身を見て、そう告げた。
「およそ半年分、正規の護衛費用です。それにリティの支度金が含まれているだけですよ――仮にも王族、この程度の支度金では全く恰好が付きませんが、今回は出費も多かった。これが今の私の精一杯です」
「おまえ、金持ちだったんだな」
クインが不敵に笑う。
「仮にも貴族ですからね」
リティがクインに告げる。
「クイン様、いままでありがとうございました」
「リティ、どうか健やかに。ご家族の分も、精一杯生きて幸せになってください」
「……はい、必ず」
二人は固く握手を交わしていた。リティにとって、バスタッシュ王国は近寄り難い国になった。
もしかすると、もう二度と会うことはないのかもしれない――そんな思いを、互いに胸に秘めていた。
リティの手を放した後、クインはアインと向き合った。
静かな瞳で、クインがアインを見上げる。
「アイン、リティをよろしくおねがいします。彼女を不幸にしたら、マリンダを頼ってでも追いかけますから、そのつもりで」
アインは不敵な笑いでそれに応える。
「任された。あんたを不安にはさせないさ」
クインの瞳が、極寒の空気を伴う。
「……リティを死なせることのないよう、くれぐれも手加減を忘れないようにしてください」
アインはその視線にたじろぎ、言葉を返す。
「……すまん、それは努力する、としか約束できない。リティが魅力的すぎて、己を抑えきれん」
二人は苦笑と共に固い握手を交わしていた。
リティを幸福にできるのはこの男だけ――ならばクインにはその言葉を信じるしかないのだろう。
クインは最後に、ウェンディとも向き合っていた。
「あなたの道行きに、創世神の加護があらんことを。いつかその心が救われる日が来ることを祈っています」
ウェンディが薄く微笑んで応える。
「……ありがとうございます。クインさんの呪いが解ける日が来ることを、私も創世神様に祈ります」
ウェンディは旅の中で、創世神にクインの解呪が出来るか尋ねたことがあった。
創世神は”その時が来れば、彼は自ら解呪するだろう”と告げた。今はその時ではないのだと。
クインはウェンディの笑顔で察した――彼女の心は、着実に快癒に向かっている。一時は絶望視されていた彼女が、こうも回復を見せたのだ。
そして彼女の言葉で、彼女と創世神のやりとりを察した――ならば、自力で解呪して見せよう。蒼の賢者の名に懸けて!
飛び切りの少年らしい微笑みをウェンディに返した後、クインは踵を返して邸宅に戻っていった。
クインを見送ったアインがゲイングに振り返る。
「じゃあいくとするか! しばらくはよろしく頼むぜゲイング」
「あんたと俺が居れば、大抵のことはなんとかなる気がするな」
「竜や神に比べれば、大概のものはたいしたことじゃないさ」
「違いない」
活き活きとした男たちが、不敵に笑っていた。
その横で、新妻二人が肩を並べていた。
「うちの夫、もう少しあの暴れ癖をなんとかしたいですね。特に夜に暴れられると、こちらの命が危うくなります」
「うちの夫は、もう少し私を女として扱ってもいいと思うんです。このままでは子を成すなんて、いつになるか分かりません。どうしたらいいと思いますか? 先輩」
「……二人の悩みを合わせて半分にすると、丁度いいんですけどね」
「……本当にそうですね」
陽気な男たちと比べ、割と深刻な悩みを相談する新妻たちだった。
その後ろで未婚組の二人が肩を並べて黄昏ている。
「いいわねぇ、新妻を得て活き活きしちゃって」
「しかも幼な妻だものね。彼らに付いて行くには若さが必要だろうけど、それにしても限度があると思うわ」
「……今日も飲み明かしましょうか」
「いいわね。クインさんから餞別でお酒も貰ったし、スパッと飲み切りましょう」
こちらはこちらで、酒飲み友達として意気投合していた。
それぞれが馬に跨り、ゲイングが号令をかける。
「では、ウェスティンに向かう!」
その声とともに、朝焼けの中、六人を乗せた四頭の馬が南に向かって疾走していった。
二段階形式のエピローグです。
24話で満足した方はそこで終わっても良いと思います。「彼らは旅立った~FIN~」です。
ゲームで言えば、ウェンディのNormal Endです。短編時とは途中から話が変わってるので一概には言えませんが、本来はここで終了してました。
25話は賛否ありそうな内容の上、推敲してたら該当パートが9000文字を超えたので24話から分割しました。長い? いやだってウェンディが止まらないんだもの……分割するにも微妙な長さだし。
大商人ウェストンの存在は、短編時には完全に省略された裏設定なので、新規の後日談です。ウェンディのTrue Endが綴られます。アニメの円盤で言えば円盤特典回ですね。彼女が真に望む結末を知りたい方は次の話へお進みください。
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