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邪教の姫~無感情なお姫様は今日も神に祈りを捧げる/子供扱いしないでください!~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:邪教の姫と亡国の王女

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18/25

18.獣人の住む森

今回は恋愛パート無しです。







 バスタッシュ王国に宣戦布告をしたゲイル王国は、全兵力を招集し、王都の前に集結させていた。

 ゲイル王国の王、ゴードン・ゲイルは、大きな声で兵士たちに呼びかける。


「我らが神が、諸君らに力を授けてくださった! 今、諸君らは己の身から湧き出る活力に戸惑っているかもしれない! だが恐れるな! 我々は無敵の軍隊となった! 何千、何万の敵兵であろうとも恐れる必要はない! 敵はバスタッシュ王国だ! 強大な国家に思えるだろうが、それすら我らの敵ではないと知れ! ――全軍、進め!」


 ゲイル王国の総兵力は五千。その全てが隊列を組み、バスタッシュ王国へ向けて進んでいく。

 その様子を見た参謀の一人が、ゲイル王に疑問を呈する。


「陛下、守備兵を一人も残さぬなど、愚の骨頂です。全軍で敵国に攻め入る用兵など、前代未聞です」


 ゲイル王が胡乱な目付きで参謀を見る。


「我が軍は精強な無敵の兵士なれど、数が足りん。五千の兵を持ち込んでも、バスタッシュ王国五万の兵士を全て潰すのに長い時間がかかる。守備に兵を割いていては、攻め落とすまでの時間がかかり過ぎる。第一、千や二千を守備に割いて、それがどれほど意味がある。何をするにしても数が足りぬならば、攻める事に集中させる。それくらい分かれ」


 参謀が反論する。


「ですが! 我が軍を迂回して王都を落とされたらどうするのですか! 帰る城を失いますぞ!」


 ゲイル王が不敵に笑う。


「ククク……我が神が守ってくださる。その心配はいらん――そうか、貴様は我が神の洗礼を拒否したのだな。兵の一部も拒否したようだが、それでは理解できなくとも仕方がない。だが洗礼を受けた兵たちの姿を見よ! 勇猛果敢に前に進んでいく。何一つ不安を覚えていない」


 参謀は進軍していく兵士たちを見た。

 一部の将校や、兵士の四割――二千人が洗礼を拒否した。だが残りの者は、あの禍々しい存在を受け入れ、力を得たらしい。勇ましく国境を目指し進んでいく。

 その目は獰猛で、既に正常な精神を持っているとは思えなかった。

 洗礼を拒否した者たちはそんな味方すら恐れ、ただ進軍に付いて行くだけだ。

 参謀が小さく呟いた。


「糧食すら満足な量がないというのに……どうなっても知らんぞ」





****


 ワレンタイン王国が進軍を始めた事を察知したバスタッシュ王国では、国境付近に一万の軍を布陣した。

 先陣五千、後詰五千――圧倒的な兵力差で思い上がった小国を叩き潰し、力の差を見せつけるのだ。

 久々の実戦という事で、兵士たちは意気軒昂、士気は充分高いと言えた。どうあっても勝てる戦、後は思う存分蹂躙するだけなのだ。


 バスタッシュ王国軍の指揮を執るゼーグル将軍が、高台から兵たちを俯瞰してぼやく。


「陛下のお考えは理解できるが、ゲイル王国相手に大人げない戦力だな」


 傍の参謀が同意する。


「過剰兵力ですな。偵察からの報告で、ゲイル王国は五千の兵をこちらに差し向けている様です。半数を迂回させて王都を陥落させる手もありますが、如何しますか」


「陛下は全軍を以て、正面から叩き潰せと仰せだ。五千といえばゲイル王国の全軍だろう。それを叩き潰してから、悠々とがら空きの王都を占拠するだけだ」


 参謀が頷く。


「分かりました。ワレンタインの兵士は弱兵として知られています。ゲイルと名を改めたところで、それが変わる訳ではありません。衝突すれば一両日中にけりがつくでしょう」



 バスタッシュ王国軍がその脅威を思い知るのは、それから数日後だった。





****


 火竜の棲む山脈に向かう一行は、途中の野営でクインから魔導具の説明をされていた。

 それは装飾のない鈍色に輝く細い腕輪で、魔石が一つ埋め込まれている。それを一つずつアインとゲイングに手渡された。


「魔導術式を一つ、付与することができます。これに、剣の切れ味を高める魔導術式を込めました。竜種相手でもいくらかの効果を期待できるでしょう」


 アインが尋ねる。


「発動方法は?」


「その魔石を割ってください。それによってあらかじめ込められた魔導術式が発動します。持続時間は五分ほどでしょうか――これは、私がお二人を補佐できないような状況に陥ったときの保険です。普段は私が直接、魔導術式を付与しますので、軽率に使うことのないようにお願いします」


 アインとゲイングが頷き、右腕に腕輪を装着した。そのままそれぞれの剣を振り、感触を確かめている。


「……動きの邪魔にはならんな。問題ない」


「こちらもだ」


 クインが静かに忠告する。


「それなりに高価なものですし、頑丈なものではないので、防具代わりに使うことのないようお願いします」


 アインとゲイングが頷いた。


 ミディアがクインに尋ねる。


「私たちの分はないの?」


「先ほど言ったように、高価な品です。あの街では、二つ見つけるのがやっとでした。込める術式も、吟味した結果です――できれば、全員に火竜の息吹を防ぐ術式を込めて渡したかったところですが、仕方ありません」


 ゲイングが苦笑いで応える。


「賢者様は、本当に保険が好きだな」


 クインは澄まし顔で返す。


「保険はあるに越したことはありません。打てる手は打てるだけ先に打つ。それだけですよ」


 アインが尋ねる。


「バスタッシュ王国にも、保険は打ってあるのか?」


 クインが首を横に振った。


「あの時点では状況がどうなるか、予測が出来ませんでした。私ほど古代遺物に詳しい者も居ません。そんな彼らに、ゲイル王国の脅威をいくら伝えても無駄でしょう。ですが、神の力を得た精強な兵士とはいえ、弱兵として知られていた元ワレンタイン王国軍五千の兵士が、精兵としても名高いバスタッシュ王国軍五万の兵士を降すのは無理があります。一人一人が強かろうと、連携行動のできない兵など、大した脅威にはなりません。万が一、思った以上に手強く時間がかかったとしても、我々が対策を持ち帰れば間に合うはずです」


 アインが疑問に思い尋ねる。


「ゲイル王国が勝てないと思っているのに、それに対抗する手段を求めていたのか?」


 クインは静かに淡々と応える。


「私たちの行動自体が保険なのですよ。古代の神の力を得た兵士がどんな存在になっているのか、私にも予想はつきませんでした。万が一に備えたのです。そしてマリンダも”今のうちに対処するべきだ”と助言した。ならば、我々はこの保険を継続して成果を持ち帰り、神を封印するだけです」





 街道を港町から十二日程北上したあたりで山岳地帯に入った。街道は途切れ、丘の上から辺りが一望できた。


 クインが山脈の麓を眺めている。


「あの麓に、火竜が居るはずです」


 眼下には麓の間に広がる大きな森があった。


 ミディアが尋ねる。


「この先、馬は使えないわ。どうするの?」


「この辺りに、集落があるはずです――あそこですね。そこで馬を預かってもらい、徒歩で進みましょう」


 クインが指さした先には、森の傍に小さな村があった。

 一行はそこに馬を向け、進んでいった。


 前金で謝礼と共に馬を預け、付近で情報を探る事にした。

 丁度、森の狩りから帰ってきたばかりの村人を捕まえ、話を聞くことにした。


 ゲイングが村人に尋ねる。


「この辺りに火竜が居るって話を聞いて来たんだが、何か知らないか?」


「ああ、森の奥、山の麓に居るって話は聞くね。姿を見たことはないが、時折、それらしい吼え声が風に乗ってくる。だがあの森に深入りするのは止めた方がいいな。俺たちでも奥までは入らないんだ」


「何故だ? 森に何かいるのか?」


 村人が眉をひそめた。


「森の奥に獣人が住み着いてるんだよ。時折、村の近くまでやってくることがある。どうも、火竜を崇めているみたいだな。火竜の住処を目指すなら、避けては通れないはずだ」


 ゲイングが腕を組み、顎に手を当てて思案しだした。


「獣人か。厄介だな――どんな奴だ?」


「牛だ。牛の獣人だよ。大柄で力が強い。俺たちじゃ歯が立たないんで、見かけたら逃げるようにしている」


「そうか、助かった。これは少ないが謝礼だ」


 ゲイングは銀貨を一枚、村人に手渡した。

 村人はホクホク顔で別れの挨拶をして去っていった。


 アインがゲイングに尋ねる。


「あんたは牛の獣人を相手にしたことはあるのか?」


「ドロッセウという獣人だろうな。大柄で力は強いが、それだけだ。熊の獣人のように鋭い爪をもってるわけじゃない。多少の知能があるが、それもたかが知れてる。一対一なら、恐れる相手じゃないさ。問題は相手の数だ。どの程度の数が居るのかで対応が変わる――クイン、あんたはどう思う?」


 クインも俯いて思案を始めた。


「……ゲイングさん、あなたなら今の戦力で、どう対応を考えますか? 参考意見が欲しい」


「んー、ミディアやデルカでも、正面から相手取るのは難しい相手だ。俺とアインで相手をする事になるだろう。ミディアとデルカはウェンディやリティの護衛を兼ねて下がってもらい、弓で援護してもらうことになるはずだ。あとは前に出る俺たちが数を減らしていくしかあるまい」


 アインが尋ねる。


「クインとルインはどうするんだ?」


「魔導士とその弟子だ。自衛ぐらいはできるだろう? ドロッセウは魔導耐性もない。魔導で簡単に無力化できるはずだ」


 クインがその言葉に反応して顔を上げた。


「魔導耐性がないんですか。であれば、集団で襲われた時には私が相手の数を減らせるはずです」


「どうするんだ?」


「獣人たちを眠らせます。指定した範囲に、眠りの雲を発生させる魔導術式です。それほど強い術式ではありませんが、耐性がないのであれば効果は充分望めるでしょう――ただし、前に出るあなた方が巻き込まれないように注意してください。この術式は人を選べません。紫色の雲を見かけたら、それに近付かないでください」


「いきなり魔導術式を使われても困るな……方針を決めよう。多数を相手どるときは、クインが指揮をしてくれ。俺たちはそれに従って戦おう。だが魔導術式を使うまでもない、少数の相手の時は、俺たちが独自の判断で動いて獣人を排除する。これでいいか?」


 クインが頷いた。


「わかりました。そうしましょう。必要であれば、私が指揮を執る事を宣言します。それ以外は皆さんの判断に任せます」





****


 それ以上の目ぼしい情報は得られず、一行は馬から荷物を下ろして各々が自分の分を担いだ。

 旅慣れないリティの荷物は、アインが背負っている。


 ミディアが呆れてアインに声をかける。


「甘やかし過ぎじゃない?」


「途中で体力が尽きても困る。それに、リティの荷物はほとんどが糧食と水だ。大した量じゃない」


 出発前に力尽きさせた罪悪感からか、アインは過保護なほどリティを補佐していた。

 既にリティの体力は万全に戻っている。腰には短剣を帯び、背中には弓矢を背負っていた。


「少しくらいは持てますよ?」


「気にするな。罪滅ぼしだと思ってくれ。それよりも、歩きなれない場所で転ばない様に気を付けろ」


 ウェンディはゲイングとデルカに補佐されながら歩いている。

 やはり荷物はゲイングが持ち、ウェンディの手を引いて転ばない様に支えていた。


 クインの荷物もルインが背負っている。

 クインは長杖を片手に、山道を歩いていた。


 森に入り、ゲイングが周囲を見渡して呟いた。


「こんな場所に牛の獣人が居るなんてな」


 アインがそれに応える。


「普通は違うのか?」


「牛の獣人は草食だ。大抵は平原に生息する。この辺りでは、奴らの餌も多くないだろうに……まぁ、迷宮にも居るくらいだ。そこに比べれば餌は多い方だろう」


 森の中では警戒担当のミディアとデルカが先行し、その後をアインとゲイングが続く。その二人に引率されるようにリティとウェンディが続き、最後尾をクインとルインが歩いていた。



 しばらく歩いていると、ミディアが腕で一行を制し、小さく声を上げた。


「止まって! ……居るわよ。この先、二十メートルぐらいね」


 アインが尋ねる。


「何体だ?」


「……一体だけね。他には居ないみたい」


 アインとゲイングが顔を見合わせ、荷物を下ろし始める。

 各々の剣を抜き放ち、アインがミディアに告げる。


「じゃあ行ってくる。警戒は続けておいてくれ」


「分かったわ。気を付けて」



 アインとゲイングは、ミディアの指し示した方角に向かって、静かに木陰に身を潜めながら進んでいく。

 すぐに彼らの目に獣人の姿が捕えられた。

 大柄の人間と同じ程度の体格、どこで手に入れたのか、手には長剣を持っている。


 アインとゲイングが目で合図し、ゲイングが地を駆け獣人に近づいていく。

 アインは別方向から獣人の背後を目指して迂回していった。


 ゲイングの急襲に驚いた獣人が、その一撃を受け止めた。

 二人の剣が押し合い、力比べとなる。ゲイングの剛腕も、獣人を押し切る事は出来ないようだった。

 その隙に背後に回ったアインが静かに獣人に接近し、その首を背後から跳ね飛ばした。


 ゲイングが剣を鞘に納めながら呟いた。


「二人がかりだと楽なもんだな」


「あんたが力で押し切れない相手だ。確かに腕力だけで恐ろしくはないが、一人だったら面倒な相手だな」


 ゲイングが獣人の持っていた剣を拾い上げ、確認していく。


「……だいぶ古い剣だな。大方、襲った人間が持っていた物を再利用してるんだろう」


「ならば大量に持っているとは思えんな。剣がないなら、だいぶ相手をしやすい」


 アインとゲイングは一行の元に合流し、先を急いだ。


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