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邪教の姫~無感情なお姫様は今日も神に祈りを捧げる/子供扱いしないでください!~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:邪教の姫と亡国の王女

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10/25

10.夕食後

ようやく恋愛を匂わせる段階にやってきました。

とはいっても先にこっちのお姫様です。あっちの姫の恋愛パートはもう少し先になります。無感情なので表に出していませんが、この時点でも彼女は彼女なりに既に思うところはあります。






 和やかな夕食の時間を終え、アインはゲイングから部屋番号を教えてもらっていた。


「何かあったらいつでも来てくれ」


「ああ」


 ゲイングはデルカとウェンディを連れ、部屋に戻っていった。

 和やかな空気の中でも、ウェンディは最後まで、あの一瞬以外に感情を見せなかった。



 部屋に戻ったアインが、椅子に腰を下ろす。

 続いてミディアとリティもベッドに身を投げた。


「ふぅ。一時はどうなることかと思った」


 最初はアインの理解の外に居た存在だったウェンディも、クインが解説してくれたことで多少理解する事が出来ていた。

 彼女は狂信者のように見えるが、傍には確かに神と呼べる存在が居て、彼女はその神を頑なに信仰している――それだけなのだ。

 ただ、何故彼女があれほど無感情なのかは最後まで分からなかった。個性と呼ぶにしても逸脱していた。


「不思議な子でしたね」


 リティも同じ感想を抱いたようだった。

 特に同性で年齢が近いリティは、理解しようと努めていた。


「悪い子ではありません。ですが、理解するのが難しい子です――ただ、見た目ほど感情がないという訳ではないみたいです」


「そうなのか?!」


 アインが驚いて尋ね返し、リティが頷いた。


「ウェンディは、あの夕食の時間を楽しんでいる様でした。つまり、感情があるんです。他人と表現方法が異なるので、理解するのが難しいだけなのではないでしょうか」


 アインがミディアを見た。


「ミディアは、ウェンディの感情を理解できたか?」


「んー、リティ程じゃないけれど、なんとなく感じる部分はあったわ。やっぱり年齢の近いリティの方が、理解は早いみたいね。私はもう少し時間が必要よ」


 アインが感心したように溜息をついた。


「女ってのは凄いな。何をどうしたら、あの無感情な顔から感情を感じ取れるのか、俺には見当もつかん」


 ミディアが微笑む。


「あなたにそんな器用な真似を期待はしてないわ。理解できなくても、彼女に感情がある事を知っていればいいのよ」


「そんなもんかね……じゃあデルカの事はどう思ったんだ?」


 靴を脱ぎながらミディアが応える。


「よいしょっと――彼女は同年代の女性として、普通に友人になれそうね。相方を補佐する立ち位置も同じで、共通点も多い。力を合わせて行けるはずよ」


 前に出ることしか知らないアインやゲイングを補佐するミディアやデルカは、旅の中でも似たような立ち位置に居る事が夕食中の会話で分かっていた。

 補佐が二人に増えるのならば、それはこの旅において頼もしい事だろう。

 それは前に出るアインも同じことが言えた。前に出ても背中を預けられるゲイングが居る。今まで自分と並ぶことができる男など居なかった。感じたことのない頼もしさだ。

 リティは既にウェンディの事を理解しつつある。ウェンディにとっても、年齢が近いリティは良い友人になれるだろう。感情表現が他人と異なるウェンディにとって、貴重な存在となれるはずだった。


「こうして考えると、俺たちは出会うべくして出会ったのかね」


「創世神様のお導き、ですか?」


 リティが茶化すように言葉を挟んだ。


「――それだ。なぜウェンディは、その言葉を口にする時だけ普通の少女と同じように微笑むんだ?」


 リティも小首を傾げた。


「私にもそこまではわかりません。想像ですが、微笑みを零さずに居られないほどの、余程の歓喜が心を満たすのではないでしょうか」


 服をほとんど脱ぎ捨て、薄い下着のみを纏ったミディアがリティに声をかける。


「先にシャワー浴びるわね。それともリティが先にする?」


 リティが呆気に取られて首を横に振った。


「いいえ! そこまで服を脱いだミディアさんが先に浴びてください!」


「そう? 悪いわね。つい癖で――じゃあ先に浴びてくるわね」


 そういうとミディアはタオルを手に浴室へ消えていった。

 まるで男のアインが居ないかのように振舞ったミディアを、呆然と見送ったリティが呟いた。


「アインさん……ミディアさんは、いつもああなんですか?」


「ん? シャワーのことか? そうだな。俺より先に浴びるのが普通だな。ミディアは髪が長くて乾かすのにも時間がかかる。俺はいつでも構わない。リティも先に入りたければそうするといい」


 平然と受け答えをするアインを、驚愕の眼差しでリティは見ていた。

 恋人でも夫婦でもない、二十代中盤の若く魅力的な女が下着を晒したというのに、アインには一切動じた気配がなかった。

 そんなことに全く興味が無いと言わんばかりだ。無理をして虚勢を張っている訳でもなく、心の底から興味が無い様子だ。

 同性であるリティの目から見ても、ミディアは美人で、女の魅力に溢れる身体の持ち主だ。普通の男であれば、心を乱されない方がおかしいとさえ言える。


「あのミディアさんの下着姿を見て、男として何も思わないんですか?」


「男として? ――ああ、魅力的な女ではあるだろう。だが、だからといってミディアは俺の女という訳ではない。ならば、性欲に惑わされることもない。甲板でも言ったが、俺は仲間に手を出すほど女に飢えた覚えはない」


 ”自分の女ではないから興味が無い”と言い切ったアインを、呆然とリティは見ていた。

 確かに、自分の女ではない女に獣欲を抱くべきではないだろう。だからといって、その通りに体現する男の話など聞いたことはない。己の獣欲を理性で完全に制御しきっているとでもいうのだろうか。

 ”これが自分という更に年若い女性であったらどう感じるのか”という好奇心が、リティの中で首をもたげた。

 ミディア程ではなくとも、自分の身体は女性的な魅力に溢れていると思っている。男が女の若さをどう評価するかによるが、加点次第では十七歳の自分は二十代中盤のミディアを凌駕してもおかしくはないだろう。その程度の自負は持っていた。同年代で並ぶ物は滅多にいない、それなりに自慢の身体だ。

 リティは、今度は恐る恐る尋ねてみた。


「……じゃあ、私が同じように下着姿になっても、平然としてるんですか?」


 アインが首を傾げた。


「当たり前だろう? リティも俺の女という訳ではないし、俺は子供に手を出すほど女に飢えた覚えもない。いつか必要になれば、子を成す相手を選び、相手にも選んでもらってから事に及ぶ。それだけだろう?」


 アインから見ると、世の男たちが誰彼構わず女と見るや、手を出していく心理の方が理解できなかった。

 互いに相手として認めあった男女が時と場所を選んで事に及ぶ――それだけの、簡単な理屈の筈だった。


 アインが心から真面目に返答している――そのことをリティは理解した。

 この男は、本当に己の獣欲を理性で完全に制御できる男なのだ。稀有な存在と言えるだろう。

 同性愛者という訳ではないし、女に興味が無いわけでもない。それでも理性で己を律してみせている。

 リティは心から納得した様に頷いた。


「鋼の理性をアインさんは持ってるんですね……なるほど、これなら相部屋でも何の心配もなさそうです」


 その後、ミディアがシャワーから上がり、ミディアが共に居るならば、と試しにリティも思い切って下着姿になってみたが、やはりアインはミディアの時と変わらず、リティの事に興味を持たずにのんびりと椅子でくつろいでいた。視線を寄越す気配すらない。

 自慢の女の魅力を下着姿で晒しているというのに、それが一切通用しない男――リティは複雑な心境に居た。変な目で見られたい訳ではないが、まるで自分の魅力を否定された気分にもなる。


 リティはぽつりとミディアに告げた。


「ねぇミディアさん、これはこれで、女としての矜持が傷つきますね」


 ミディアが笑って応える。


「そうでしょう? でもすぐに慣れるわ。アインだって同性愛者や無性愛者という訳じゃないの。ただ理性で押さえつけてるだけよ。さすがに、夜のベッドで全裸になってみせると、アインでも慌てるのよ?」


 アインがジロリとミディアを睨み付けた。


「前も言ったが、そういうはしたない姿は自分の男の前でだけ見せろ。それ以外の男の前で見せるもんじゃない――まったく、リティに変な遊びを教えるなよ?」


 リティがきょとんとミディアに尋ねる。


「変な遊びってどういうことですか?」


 ミディアが微笑んでリティに応える。


「アインがどこまで我慢できるか、リティくらいの年齢の時に試したことがあるの。夜中のベッドに全裸で忍び込んだら、大慌てで飛び退いてたわ。”そんな姿を晒すな”って思い切り怒られたのよ。何回か繰り返したけど、それでも手は出されなかったわね」


 楽しそうに笑って話すが、王女であるリティにとっては衝撃的な話だった。

 婚前の若い女が全裸で歳の近い男のベッドに潜り込む――それはもう、悪戯を通り越して誘惑したと言っているに等しい。貴族子女ではありえない話だ。

 しかもアインは、それを飛び退いて叱りつけて終わらせたという。これも、性欲旺盛な時期の、歳の若い男ではありえない話ではないだろうか。それも何度でも誘惑を跳ね返した――鋼の理性を超えた何かだ。


「アインさん、本当に性欲があるんですか?!」


 余りにも衝撃的な過去話に、リティは思わず声を上げていた。口にしてから失礼過ぎたと、慌てて口を押える。


 アインがむすっとして応える。


「あるに決まっているだろう。俺は男だ。その事は忘れないように行動してくれ」


 自慢の身体を下着姿で曝け出した自分を目の当たりにしても平然としておきながら、アインは言い切った。その言葉から説得力を感じる事が出来なかった。


 思わずリティは確認の為に尋ねてしまう。


「でも、私たちに手は出さないんですよね?」


「当たり前だ。何度も言わせるな」


「じゃあ、今の私の姿をどう思ってるんですか?」


 アインの目が、下着姿のリティを見た。

 反射的にリティは、自分の身体を守るように手で覆い隠した。


「どう思うか? そうだな、若くて魅力的な女ではあるだろう。だが伴侶以外の前でそんな薄着になるのは、褒められた行為じゃない」


 アインは今、まじまじとリティを見ていた。リティは最初は思わず身構えてしまったが、不思議な感覚もあった。

 リティはその視線に、嫌らしいものを感じていない。身の危険を微塵も感じないのだ。それが不思議だった。

 自然と体を覆い隠していた腕が降りていったが、こうも曝け出してさえ危機感を感じない。着替えで同性の使用人に下着姿を見られている時と大差ないと言っていい。

 ”自分は正常な男だから注意しろ”と言いつつ、”自分の女ではないから”という理性だけでここまで獣欲を封じ込めてる男――では、彼の女だったらどういう行動を取るのか。もしかしたら、本当は特殊な性的指向の持ち主で、条件に当てはまらない自分たちは興味の対象外なのではないか。


 思わず胸に浮かんだ疑問がリティの口をついた。


「もし私がアインさんの伴侶だったら、私のこの身体をどう思ったんでしょうね」


「もし伴侶だったら? そうだな……こんな年の離れた伴侶を作るとは思えないが、船を降りて二人きりになった時、存分に堪能するだろうな」


 アインにとって、リティの身体は性欲の対象であると吐露した。つまり、アインは不能でも同性愛者でもなく、無性愛者でも特殊な性的指向でもない。その上で、”自分の女ではない”という理由だけで、今こうして平然と下着姿のリティを前にしているし、リティは一切の危機感を感じていないのだ。

 なにより、例え伴侶でも、この船旅の間は全く手を出さないと断言した。三人の相部屋だからだ。事に及ぶには適さない場所と言えるだろう。それを理性で理解し、船上では手を出さないのだ。

 リティに取ってこんな男は初めてだった。耳にしたことすらない。貞操教育を受ける中で、世の男の獣性はしつこく教えられてきた。社交界で具体例もよく耳にした。それをアインは己の理性だけで完全に封じ込めているのだ。

 なんとも不思議な男だと言えた。ウェンディも不思議な子だと思ったが、この男も大概だ。

 この男の存在が、今までより更に興味深いものに思えて来ていた。”もっとこの男を知りたい”と思う自分が居た。


「私、ミディアさんが”絶対に大丈夫”と保証してくれた意味を理解しました」


「わかってくれた?」


 ミディアとリティが愉しそうに顔を見合わせているのを、アインはきょとんと見守っていた。





****


 アインがシャワーを浴びに行き、ミディアとリティが二人で向かい合っていた。

 シャワーから上がったばかりのリティは、タオルで髪を乾かしている。短くなったので、一人でもすぐに乾くだろう。ミディアは髪が長い分、まだタオルで乾かしているが、リティと同じ頃には乾くだろう。


「ねぇミディアさん。私ぐらいの年齢で、全裸でベッドに潜り込むのは、相手がいくらアインさんといっても勇気が要りませんでした?」


 ミディアは笑って応える。


「それはそうよ。襲われる覚悟をしてから行動に移すんですもの。結果は、想像以上で愉しかったけれどね。女で慌てるアインなんて、あそこまでしないと見る事は出来ないわ」


 リティはその言葉に引っかかりを覚えた。

 ”襲われる覚悟をしてから”――それはつまり、襲われても構わないと思ってベッドに誘惑に行った事になる。

 自分と変わらない年齢で、アインになら襲われても構わないと覚悟したミディアの心を、リティは容易に想像できてしまった。

 それは本当は悪戯などではなく、別の結果を期待していたのではないだろうか。聞いてはいけない気がするが、確かめておきたい気持ちが勝り、ミディアに尋ねた。


「……もしかしてその時、ミディアさんは――」


「そこから先は、言わないのがマナーよ? リティは私に気兼ねなく行動していいわ」


 ミディアに言葉を遮られ、その微笑みにリティはそれ以上何も言えなくなってしまった。

 ”気兼ねなく行動していい”と言うのなら、遠慮をする必要はないのだろう。

 まだ自分の気持ちに確証はないが、アインという男に惹かれつつある自分を、年上のミディアに見透かされてしまったようだ。

 いつか自分も行動に移す日が来るかもしれない。その時、どんな結果になるのだろう――そんな思いを胸に抱きつつ、髪をタオルでぬぐう。


 二人の女は、黙って己の髪を乾かし続けていた。





****


 ゲイングとデルカ、ウェンディが部屋に戻った。


「どうやら、嬢ちゃんの事はある程度理解してもらえたみたいだな」


 安堵の溜息と共に、ゲイングが木の椅子に腰を下ろした――ゲイングやアインのような巨漢がソファに腰を下ろすと、体重でソファが大きく歪んでしまう。それを避けて固い椅子に座るのだ。同伴者が居る旅を長く続ける間に、自然と身についてしまった気遣いだった。


 デルカが無表情のウェンディを見て尋ねる。


「どう? ウェンディ。あちらのリティちゃんとは仲良くなれそう?」


 ウェンディは静かに頷いた。


 これまでの旅路で、二人はウェンディの感情や言いたい言葉をなんとなく察することができるようになっていた。

 今のウェンディは、リティに出会えたことを喜んでいるようだ。


 デルカはそれに微笑んで応える。


「よかったわね。ウェンディと歳の近い女子なんて、旅で同行する機会があるとは思わなかったわ。あちらも事情があるのかしら」


「まぁそうだろうな。あのリティとかいう嬢ちゃんは、動作に気品がある。貴族か――下手すれば王族だろう。それがあんな姿で旅をしている。賢者とやらも、おそらく貴族だ。あいつは特に油断がならない。子供に見えるが、老獪な魔導士を相手にしている気分だ。見た目通りの年齢じゃないんだろう」


 冒険者としての経歴が長いゲイングとデルカは、その経験から彼らの事をおおよそ察していた。

 ちょっとした身体の動きや会話の空気で、相手の素性を全てではなくとも把握する事が出来るのだ。


「あら、それじゃアインさんは? 馬があってそうだったけど」


「あいつか? あいつは俺と似た、不器用な男だな。だが、背中を預ける事が出来る男だ。頼もしく感じているよ」


 どちらも互いに、愚直に前に出て剣を振るう事しかできない男だ。己の中に信条を持ち、それに背く生き方を選べない。

 仮にアインと敵対するようなことがあるとしたら、その信条が衝突するときだろうが、そういことにはならないだろうという確信がゲイングの中にはあった。共に人の道に反する事を嫌う性分だろうという、共感めいたものを感じていた。


「似た者同士か……それじゃあ、私と同じ苦労をミディアさんはしてきたのかしら」


「俺たちの補佐をすることか? 確かに、お前にはいつも世話になってばかりだな」


 デルカが笑って首を横に振った。


「そっちじゃないわ。やっぱり理解できないのね」


 女としての矜持が傷つく相手を相棒に持つ苦労を、デルカも今までしてきたのだ。そんな男に惹かれてしまうという苦労を。

 あの手この手で誘惑してみても、デルカはゲイングの理性という壁を崩すことは遂にできなかった。

 だがデルカは、アインの方が筋金入りだという手応えを得ていた。ミディアたち三人が相部屋だと聞いて、心の中で天を仰いだくらいだ。

 長年、共に旅をしてきたアインとミディアだけでなく、更に年若く魅力的なリティが相部屋でも問題がないほどの鋼の理性――そんな男に惹かれながら共に旅をする女の苦労を、ゲイングは理解しないだろう。

 それでもゲイングはまだ、アインに比べれば隙があった。特に酒が入ると理性が弱まるのか、ミディアに触りたがった。それを知って以降、ゲイングは酒を飲まなくなったのだが。

 アインも酒は嗜まないと言っていた。理性が薄れる事を嫌うのだろう。

 そういうところも、やはり似た者同士なのだとデルカは感じていた。


 苦笑するデルカの様子に首を傾げたゲイングが、気を取り直してウェンディに尋ねる。


「なぁ嬢ちゃん、この後の事は、神様は何か言ってるのか?」


 ウェンディは首を横に振った。


「創世神様のお言葉はまだありません。ですが、必要な時になれば必ずお言葉をくださいます。安心してください」


「そのお言葉が、もう少し早ければ助かる、という話だ」


 ゲイングが苦笑で応えた。

 本来、ゲイングたちの稼いだ路銀で、こんな二等船室は借りられない――この部屋はウェストンからの餞別だ。船着き場で乗船券を買おうとしたら、ウェストンからこの部屋の乗船券を手配されたと言われ手渡されたのだ。自分たちが辞意を告げてから、慌てて手配したのだろう。

 契約通りの報酬に加えて、こんな餞別まで貰ったのだ。いつかこの恩を返さねばならない。筋は通す。それが信条だ。


 ――或いは、ウェストンに雇われることもまた、創世神とやらの導きだったのかね。いつか戻って来れると良いんだが。


 ゲイングがふと気が付くと、ウェンディの瞳がゲイングの瞳をまっすぐ見ていた。


「大丈夫、その心配はいりません。必ずその機会が訪れます」


「それは今、神様が言ったのか?」


 ウェンディが頷いた。


「そうか……神様がそう言うなら、信じる事にするか」





****


 クインとルインも部屋に戻っていた。


 二人でソファに座り、持ち込んだ魔導書を読みながら過ごしている。


「お師匠様、あの女の子は何者なんすか? なんで神様の言葉を聞けるんすか?」


 不意に尋ねられたクインが、少し間を空けて応える。


「――読書中は静かにしてください。彼女は多分……いえ、これはそのうち確かな事が分かるでしょう。不確かなことを口にするのは止めてきます」


 賢い者は不確かなことを口にすべきではない――それは時に、自分の判断を惑わしかねないからだ。だからこそ、必要がなければ確証を得られるまで考えを口にしようとしない。勿体ぶってるわけではなく、己で己を惑わすという愚行を犯したくないだけなのだ。


 ”東の魔女”であれば、彼女の力について詳しく知っているはずだった。聞き出せるかはその時にならなければわからないが、今回の事態を収束するのに必要であれば手を尽くそうと、クインは考えていた。





八人を乗せた船は、テオリーチェの港町アルトワを目指し進んでいった。


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