73,自由の指輪
黒龍は人化するとシア達に事情を話し出した。黒龍の名前はクロームといい、この南大陸で子育てをしようと地下深く眠っているところをがんじがらめに縛られ、さらに卵をバロムに卵質とされてしまったために魔物を無限に創り出していたとのことであった。
「この鎖の素材と魔法封じの腕輪の素材は一緒だな」
「プルートの足枷とも同じように思えるな」
「そうすると……黒幕は一緒だな」
「マグマの中だったり、冥界だったり、地下深くだったり、どこでも出てくる奴だな」
「そういえば、ガッツを封じていた腕輪も見てくれ。同じかもしれない」
「冒険者ギルドにあるんだよな?」
「ああ、カルグスのギルドに預けたよ」
「調べるのはノイマンが得意そうだな、頼むぜ」
「任せてくれ、秘密を解き明かしてやるさ」
「なあ、この鎖を加工すると凄い防具ができるかもしれないぜ」
「アラガン、どういうことだ?」
「魔法が無効になる防具が作れるかもしれないな」
「ああ、色々試してみろよ」
男性諸君が未知の防具に思いを馳せていた頃、女性諸君は別のことをしていた。
「お母さんがクローム……クローズとか?」
「クロから離れましょうよ」
「コスモスは花の名前だったわね……クロバラとか」
「それって可愛くないなあ……クロチンは?」
「だからクロから離れましょう」
「皆さん……ありがとう。まさか助けてもらっただけではなく、名前まで考えてくれるとは思わなかったです」
「だって、ずーっと卵質とられて名前も考えられないなんて酷いよ」
「そうそう、名前って一生使うからね。みんなで考えようよ」
「それにしても可愛いね。黒龍って生まれたては少し茶色っぽいですね」
「他の龍は知らないけど黒龍は生まれてから成長して魔力が増えてくると段々と色が濃くなってくるの」
「そうなんだ、この色のままではないんですね」
「ねえエマ、こういう色って何色だっけ?」
「うーん、茶色ではないな……小豆色?」
「あっ、アズキちゃんとかどう?」
ルーナがそういった瞬間に黒龍の子供の体が一瞬光った。
「今のは何?」
「この子が今の名前を気にいったようですね。アズキと名付けます」
「おお、アズキちゃん、気に入ってくれたの~」
かくして南の大陸に巻き起こった未曾有の大災害は無事に解決したのであった。ダンジョンを閉鎖し、新たに生活の拠点を考えたクロームにエルフの女王アルマが土地を提供した。この南大陸にはエルフしかいないため、アルマが禁じれば龍の素材を取りに誰かが出向くこともない。しかもアズキは生まれた時からルーナに抱かれており、人間に全く抵抗がなかった。そのためアズキは人見知りせずにエルフの里ですくすく成長し、のんびり屋のエルフに似てのんびりした性格の黒龍になったという。クロームとアズキはこの南大陸で受けた人間とエルフに恩を返すために、クロームは世界樹の守護龍となり、アズキはエルフの守護龍となったと伝えられる。
帰りはクロームが送ってくれた。飛龍のエアパスほど速度はでないが黒龍は黒魔法に優れていて、重力を上手く調整して飛ぶ。そのため全く揺れがなくクロームの背中の上は快適そのものであった。
ある程度飛んだところでシアとルーナは先に転移をしてマリアナの元に帰った。マリアナに世界樹の宝玉を握らせて皆の帰りを待つ。やがて皆を乗せたクロームがマリアナの家の前に降り立った。
全員がクロームとアズキの顔を見る。クロームは全く緊張もせずにマリアナに挨拶をしていた。またアズキは人化したマリアナに抱かれてスヤスヤと眠ってしまったのだ。
「ふふ。我の腕の中でスヤスヤと赤子が眠っておる……普通は心臓が止まるのだがな。シアだけが我が抱いても喜んでおったよ。クロームといったな。このアズキに我の加護を与えよう。この子が一人で飛べるようになったら連れて来るようにな」
「アズキがマリアナ様の加護を……。親子で助けてもらっただけではなく、名前まで考えていただいて、住む場所まで与えてもらって、さらに古代龍マリアナ様の加護を我が子に……。この御恩は一生忘れません」
クロームはアズキを背に乗せて何度も振り返りながら感謝を口にして南の大陸へ帰って行った。
「良かったね。大成功だな」
「ああ、これでマリアナさんがシアとルーナの結婚式に来ることができるな」
「ふふ。良かったね」
「よし、では早速マリアナさんの指の大きさを測らせてください」
「……我の指の大きさ?」
「はい。シアとルーナの亜空間収納に素材が沢山あります。俺がマリアナさんの指輪を作ります。人化しているときにそれをしておけば大丈夫です。龍の体をしている時はマリアナさんの魔法で体につけてください」
そう言うと、アラガンは鍛冶道具をシアとルーナの亜空間収納から取り出した。
アラガンは指輪の台座を頑丈な素材で作ると、世界樹の宝玉を丁寧に嵌め込んだ。さらに指輪の側面に緻密な文字でシアとルーナ、マリアナの名前を絡めるように彫ると裏側に、
「心優しきファインアースの守護龍マリアナへ。愛し子の友人より」と刻みマリアナに手渡したという。
この指輪によって悠久の時を生きるファインアースの守護龍マリアナは自由を得た。その後マリアナは世界各地で人々に愛される存在となり、ルナテラス同様に人々からの信仰をも集めたのであった。畏怖される存在から信仰される存在へ。人々はこの指輪を「自由の指輪」と名付けたという。
自由の指輪をつけたマリアナは上機嫌であった。
マリアナにとってこの日ほど人が自分を大事にしてくれていることを感じた日はなかったであろう。そのマリアナが本気で怒りをあらわにしたのが、冥王龍プルートの話であった。冥王龍プルートはマリアナによればどこまでも孤独な龍なのだという。世界に必ず必要でありながら誰からも認知されることがない孤独な龍。マリアナはそんな孤独なプルートが誰かに痛めつけられていたことに本気で怒りをあらわにした。
「人は完璧な存在ではない。間違いそして苦しむものだ。だが死の瞬間まで生き抜き次の世に旅立ち、また新たに生を謳歌する。その生命の循環を妨げるなど許されるものではない。しかもあの孤独な龍がたった一人で傷ついておったなどと……邪神の仕業に違いない。我が八つ裂きにしてくれるわ」
「……母さん、邪神なの?」
「プルートから聞いておるかもしれんが普通は命があるものは冥界には入れん。そこに入り込めることだけでも神同様の力がある証拠だ。それに冥王龍プルートは我の眷族。そのプルートの動きを封じるなど普通ではないぞ」
「そういえばマグマの中に入ってガッツの動きを封じたり、地下深くに眠っているクロームを鎖で縛ったり……普通ではないよね」
「おそらく、ルナテラスの力が落ちているのもそいつのせいであろうな」
「そうなの?」
「うむ。世界樹を痛めつけたり、生命の循環を妨げたり、それは主神ルナテラスの力を削ぐのと同じことなのだ。我もこのファインアースの守護龍としては黙っておれんな。そういえばアラガン、プルートを縛っていた鎖はあるか?」
「マリアナさん、これです」
マリアナはその素材を厳しい目で見た。しばらく黙って見ていたが、
「詳しくはルナテラスに聞かねばわからんが、この素材は神界の素材だな」
そう言うと、厳しい顔でアラガンに鎖を返したのであった。




