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 プルートによると、ダンジョンは元々人間に龍を攻撃させないように創り出したものだという。龍の素材は貴重であり様々な効果があるため、古来より人間は龍を見つけ次第、落ちている鱗や皮などを持ち帰ろうと群がって来るのだ。龍は強大な存在であり人間が挑んでもどうしようもなかったが、それでもエルフや獣人達は龍に挑むことが多かった。


 年月を経て成長し十分な力を身につけた龍は自分の身を守るために地下空間に移動し、空間を拡張してそこに住むことが多くなった。だが、龍が地下空間に移動するとどうしても地表までに穴が開きひびが入る。すると人間だけではなく魔物も入ってくる。そこで自分の眠りを邪魔されないように魔力でダンジョンを作り出して深層になればなるほど強い敵を置いて追い返すようにしているのだという。

「ではダンジョンの宝箱とかはどうなっているのですか?」

「ほとんどがその階層で亡くなった者達の持ち物が出るようにしてあるな」

「魔物はどこから連れてくるのですか?」

「龍が眠ろうとする場所は必ず龍脈が通っている。それを使えば魔物など龍脈術で簡単に作り出せる」

「龍脈術?」

「うむ。人間には使えぬが、龍は龍脈を通って流れる魔力を使って様々な物を実体化させることができるのだ」

「だからダンジョンの魔物は消えるんだ……」

「ダンジョンは魔力を吸収するからな。亡くなった者は魔力に変わるのだ。人間も亡くなれば魔力に代わって吸収される」

「宝箱がひたすらにはずれなのは……?」

「それはただ運が悪かっただけだな」

「そうですか……」


 そこまで話をしたとき、プルートは人化した。シアとルーナの目の前に銀色の立派な髪をなびかせた目つきの鋭い壮年の男性が立っていた。

「久しぶりに人化したな。シアとルーナ、礼を言うぞ。異常のあった入口を見に行きたいのだが、一緒に行ってくれるか?」

 そう言うと、シアとルーナを連れて少し開けた場所に案内をした。そこにはいくつかの丸い穴が壁に開いていて、生暖かい空気が流れていた。だが、そのうちの一つからは空気が流れてこない。

「詰まっているのか……?」

 不思議そうな顔をして、プルートはそのうちの一つに手を当てて中にある何かを吸収し始めた。一瞬何かに気が付いたようであったが、プルートはそのまま吸収を続け、最後に一つ頷くとシアとルーナに向き直った。

「冥界に来るべき魂が他に流れていた。かなりの魂が盗まれている。君たちが地上に戻ったらマリアナ様にそう伝えてくれないか」

「魂を盗むのですか?」

「うむ。理由はわからない。だが冥界に通じる道を捻じ曲げることができる何かがそうしている」

「それって相当力がある存在ですね」

「ああ、かなりの力と知識がないとできないな。だから我も不覚を取ったのだ。君たちも気を付けた方がいい。これは我からの礼だ。受け取ってくれ」

 そう言って、プルートはシアとルーナに黒い指輪を渡した。

「その指輪は冥界に行こうとする魂をそのまま肉体に戻す効果がある。仮に誰かが死んだとき、肉体が消滅していなければその指輪の力で復活させることができる。目安は死んでから一時間くらいだな。上手く使ってくれ」

「そんな貴重なものを……ありがとうございます。でもどうやって帰ろう……」

「そうだね。転移かな?」

「いや、世界樹の根を使え。君たちなら世界樹が中に入れてくれるだろう。それで帰れるはずだよ」

 それを聞いたシアとルーナが世界樹の根に触れると世界樹の中に入り込み、魔力の奔流がシアとルーナを優しく運んでくれた。しばらくそのまま身を任せていた二人であったが、不意に世界樹から投げ出されるように外に出された。二人が確認するように見渡すと、アルマをはじめとするエルフ達が一斉にシアとルーナに跪いていたのである。

「アルマさん、どういうことですか?」

「あの、居心地が悪いのでやめて欲しいです……」

「先ほど精霊からお告げがあったのだ」

「お告げですか?」

「うむ。『シアとルーナはこのユグドラシルの永遠の友である』そうお告げがあった。ユグドラシルとは世界樹のこと。シアとルーナはエルフにとっては神の友人と同じなのだ」

「神の友人……」

「シアとルーナの居心地が悪いのなら畏まることはやめておこう。だが君たちのおかげで世界樹の力が復活し始めたのはわかる。我らエルフは覇者を敬い、君たちの覇道に全面的に協力することを世界樹に誓うよ」

 エルフ達はアルマがそう言うと、再度一斉にシアとルーナに頭を下げた。そしておもむろに立ち上がると立ち去って行った。


「ふふふ。跪かれて居心地が悪いとか、シア君とルーナさんらしいですね」

「イルマ先生、笑い事ではないですよ」

「そうそう、緊張してしまいます」

「でも、シア君が覇者となって、ルーナさんが覇者の妻になれば、この星に住む人々は全てが貴方たちに跪くことになるのよ。慣れておいた方がいいわね」

「そういう初々しいところも寸劇のネタになりそうね。それで世界樹の実はあったの?」


 エマの質問を受けてこれまでの話をしたシアに全員が一様に複雑な表情をみせた。

「世界樹の宝玉を手に入れたのは良かったけど……」

「冥界から魂を盗むとか……」

「人間程度の存在ではないな……」

「ちょっと想像を絶するな……」

 その時、一人のエルフが駆け込んできた。

「またしても魔人が攻め込んできました」

「……ごめんなさい。シア君達、手伝ってもらってもいいかな?」

「いいですよ。でもどこから来るのかな?」

「なあ、シア、魔人をわざと逃がしてみろよ」

「さすがノイマン。後をつけるのか?」

「正解、シアなら追いかけられるだろう」

「小太郎が小さくなって追いかけるのだ~」

「わかった、やってみるよ。頼んだぞ。小太郎」


 こうしてノイマンの提案で魔人をわざと逃がすことにしたシア達は魔人が攻撃してきた場所に到着した。魔人は先ほどと同じく地上からサイクロプスとゴーレム数百体、空から魔界コウモリと魔人がひとり。地上の敵は全く先ほどと一緒であった。シアは作戦通り、地上の敵を脳筋組に任せてから小太郎を待機させると、ルーナと二人で空に飛んだ。

「なぜ世界樹に力が戻っている。世界樹の結界が強くなっているではないか。バロム様にどう報告すればよいのだっ!」

「人間に負けちゃいましたって報告すればいいんじゃないの~」

「そうですよ。バロム様、ちびっちゃいました~」

「……貴様ら、誰がちびるのだっ」

「名無しの権兵衛さんしかちびる奴いないだろ」

「ちび兵衛にしましょうか」

「貴様ら、許さんっ!」

 そう言ってこちらに向かってきた魔界コウモリの首をシアは神威で軽く斬り落とした。そしてわざとらしく、魔人の背中を致命傷にならないように浅く斬りつける。地面にもんどりうって投げ出された魔人は、地上でゴーレムが凄まじい勢いで瓦礫に代わって行くのを放心状態で眺めると脱兎のごとく逃げ出した。その後を小太郎が音もなく追いかける。

 やがて魔人は地表に開いた穴に飛び込んだ。

 その光景をシアは口角を上げて見ていたという。



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