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69,世界樹

 うず高く積み上げられたゴーレムの残骸の周りにおびただしいサイクロプスの死骸。その前にルーナの結界に囚われた魔界コウモリと権兵衛。シア達が権兵衛を尋問しようとしていたその時、遠巻きに見ていたエルフ達が一斉に跪くと、後ろからイルマそっくりの女性が現れる。

「誰かと思えばイルマなのね……」

「久しぶりね。アルマ姉さん」

「どれくらい経つかしら。500年くらい?」

「800年ぶりかな。父さんたちは元気にしているの?」

「……亡くなったよ。そこの魔人に殺されたの」


 アルマの話によると、この30年くらいの間に何度も魔人達から攻撃を受けたという。最初は魔法が通用したため難なく撃退していたが、最近は魔人達に魔法が通用しなくなり、苦戦を強いられていたらしい。魔人達は世界樹の結界に守られた場所までは侵攻することが出来なかったが、最近世界樹の力が急激に衰え始め、それ以降は数日おきに攻撃をされ、激戦の中でイルマの父は亡くなったそうである。

「ではエルフの王は誰なの?」

「母さんが嫌がったからね。私が女王になったのよ。もうハイエルフは私たちだけね」

「……そうなの。今日は教え子たちを連れてきたのよ」

「その子たちね。特にその黒髪の子は桁違いの魔力をもっているわね」

「後でじっくり紹介するわね。ところでこの権兵衛はどうしましょうか?」

 そこでアルマは権兵衛に向き直った。


「私達は貴方たちのことを魔人と呼んでいるの。目が真っ赤になっている以外はそれほど人間と変わらないからね。何が狙いでどこから来たの?」

「我らを人間などと同じにするな。魔人だろうが何だろうが好きに呼べばいい。狙いは世界樹を腐らせることだ。魔の国から来た。さあ、質問に答えたぞ。さっさと殺せ」

「世界樹を腐らせる……何の意味があるの?」

「簡単だ。この星を浄化する世界樹が腐れば穢れがこの星を支配する。我々にとってはその方が過ごしやすいからな。その程度のこともわからんのか」

「ふーん。魔の国の入口はどこにあるの?」

「……」

「そこは聞かれたら都合が悪いわけね。ロシアン帝国?」

「ロシアン帝国はヒルダ様がおられる。我々バロム様の配下はロシアン帝国とは関係がない」

「ヒルダにバロム?」

「呼び捨てにするな。あのトラッシェがしくじったせいで……」

「トラッシェ?」

「奴がフライブルク王国を攻め滅ぼしていれば済んだものを、人間の剣士などに……」

「姉さん……おそらくそのトラッシェというのはカールに倒された悪鬼王のことじゃないかな?」

「トラッシェ如きが王を名乗るとは……奴など魔の国では下から数えた方が早いわ」

「では権兵衛はそのトラッシェよりも偉いの?」

「……」

「黙っているということは下なのね」

「くそっ、魔法封じの腕輪を魔界コウモリに装着していればこんな人間に不覚を取らなかったものを……」

「魔法封じの腕輪……」

「ゴーレムとサイクロプスが付けていた腕輪だな」

「ノイマン君、回収したの?」

「はい。ゴーレムとサイクロプスがなぜ魔法を防げたのか……興味がありましたので」

「さすがフライブルク王国一の脳……秀才ね」

「イルマ先生、脳筋って言おうとしましたよね?」

 その時、ルーナの結界の中で大爆発が起こった。自爆したのであろうか権兵衛と魔界コウモリは粉々になってしまっていた。

「……まだ聞きたいことはあったけどしょうがないか。イルマたちもいらっしゃい。歓迎するわよ」

 シア達はアルマに連れられてエルフの里に入っていった。アルマの家は大きめの木の窪みを空間魔法で拡張しただけの造りであった。家の中にも調度品などは一切なく、必要最低限の生活必需品だけが置いてある。その簡素な家に入るとシア達は自己紹介を行い、南大陸に来た目的を話した。

「世界樹の雫は沢山あるから渡してあげられるけど、世界樹の実が取れなくなっているのよ……」

「実が取れない?」

「世界樹が弱っているのが原因だと思うのだけど、どうすれば世界樹が復活するのかがわからないの」

「権兵衛は世界樹を腐らせると言っていたけど、どうすれば世界樹が腐るのだろう?」

「それがわからなくってね。世界樹の精霊も現れないのよ」

「姉さん。世界樹の精霊は世界樹の上空にいるのよね?」

「そうよ。空でも飛ばない限り会えないから無理なの……、あっそうか飛べる子がここにいるわね」

「シア君、ルーナさん。世界樹の上空に飛んで行って精霊と話してもらってもいいかな?」

「私からも頼むわ。世界樹を復活させないと世界が浄化できないの。エルフだけの問題ではないのよ。この星が瘴気に包まれて終わってしまうと星は滅亡する。シア君、ルーナさん、頼めないかな」

「わかりました。では二人で行ってきます。権兵衛のような連中がまた来るかもしれないので、小太郎を残しておきますね」

 そう言うと、早速シアはルーナの手をつないで世界樹の上方に向けて一気に飛び立っていった。


「イルマ、あの子達はどうなっているの。魔力は桁外れだし空も飛べる。あなたが800年前に精霊に言われて探しに行った『世界を救う人』というのは、あの子達のこと?」

「そうね。シア君もルーナさんも、ここにいるアーサー君、アラガン君、ノイマン君、エマさん、皆が『世界を救う人』だと思っているの」

「全員が……『世界を救う人』?」

「姉さんは50年程前にルナテラス様からあった予言のことは知っているよね?」

「知っているけど……イルマは予言があったときはこの南大陸を出ていたから知らないはずでしょう。何故知っているの?」

「あのシア君はルナテラス様から直接予言の子だと言われているの。予言には覇者と共にある友についても書いてあったでしょう。その友が彼らなのよ」

「ルナテラス様から直接……覇者と共にある友……」

「ここにいる彼らは覇者の友。覇者が『世界を救う人』なら、彼ら覇者の友も『世界を救う人』になるでしょう」

「……そうか。あのシア君が覇者なのか……」


一方、シアとルーナは快調にぐんぐんと高度を上げていった。雲を突き抜け、空気が薄くなってきたころ、シアは二人を覆う大きく頑丈な結界を作ると結界ごと上昇させていった。

「シア君、ここはどこだろうね……」

「うん。下にあるのがファインアースだろうね……」

「まだ世界樹は続いているね……」

「そうだね。もう少し頑張ろうか」

 いつしかシアとルーナは大気圏を突破して宇宙空間にたどり着いていた。だが、ファインアースから伸びる世界樹はかなり細くなっていたがまだ続いていたのだ。だが、いずれ終わりが見える。

「シア君、ここが終わりみたいだね」

「……何もないね」

「先端に靄があるけど……」

「触ってみようか?」

 シアとルーナはそっと手を伸ばして先端に触れる。すると二人の魔力がぐんぐん吸い取られていき、世界樹の先端に付いている靄が小さな蝶に変化した。その蝶は薄っすら明滅しながらシアとルーナの周りを飛ぶと、

「ありがとう……」

 と二人に礼を言った。



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