68,脳筋組
シアとルーナが小太郎にまたがって上空に飛び立ったのを確認したイルマの横をアラガンが弾丸のように突進する。アラガンが真っ赤なサイクロプスが振り下ろす巨大な棍棒をドライブシールドで受けた。アラガンが受けていなければイルマはサイクロプスの棍棒で押しつぶされていただろう。サイクロプスは額に一本の角を持った身長3メートルほどの巨人で目が一つしかない魔物である。力は強いが知性は無く魔法は使えないと考えられていた。
アラガンが大楯でサイクロプスの攻撃を受けたのを見てイルマは反射的にサイクロプスに風魔法を放った。高速の真空の刃がサイクロプスに命中する。だが、イルマの放った魔法はサイクロプスに命中する寸前に消えてしまう。
自分の放った魔法がかき消えたことに驚き動きが止まったイルマの脇を、二つの風が通り抜けた。
アラガンが持つドライブシールドは物理攻撃なら八割、魔法攻撃なら五割のダメージを跳ね返せる。サイクロプスも自分の攻撃を跳ね返され吹き飛ばされていた。その吹き飛んだサイクロプスの脳天をエマのシャイターンが一息で貫き絶命させていた。さらにその隣でノイマンが軽やかに宙へ飛び上がり、後ろに隠れていたもう一体のサイクロプスの脳天にかかと落としを決めて瞬殺してしまったのだ。気がつけば周囲には数十体のサイクロプスが湧き出すように現れていた。イルマが横を見るとアーサーが全身に闘志を漲らせながら油断なく周囲を見渡していた。
「イルマ先生、大丈夫ですか?」
「アーサー君、ありがとう。完全に油断したわ、面目ない……」
「魔法が効きませんでしたね」
「サイクロプスなんてこの大陸にはいないはずなのに……」
「理由はわかりませんが、魔法を主体として戦うイルマ先生とは相性が悪いですね」
「……そうね。魔法が通用しないと難しくなりますね」
「では、俺たち脳筋組が行ってきますよ」
「……脳筋組?」
「一番の脳筋はノイマンですけどね。イルマ先生は周囲に気を付けて観察しておいてください。何か手掛かりがあるかもしれません」
そう言うと、アーサーはライオネスを振り回してサイクロプス達を一刀両断しながら仲間たちの元に駆けていった。
エマの形の良い唇が口笛を吹くように軽くすぼむ。ほんの少し「しっ」と軽く息を吐けば、悪魔の槍シャイターンがサイクロプスの額に、心臓に風穴を開けていく。
イルマを守るようにアラガンが大楯を構えて鉄壁の守りを見せる。イルマを攻撃しようと前進してきたサイクロプスがアラガンのドライブシールドで弾き飛ばされると、アーサーが容赦なく大剣ライオネスを振り下ろし両断する。
ノイマンがその巨体を縦横無尽に動かす。右腕から放たれた手刀がサイクロプスの首を両断すると、その勢いを利用して左脚から旋風脚を放つ。胸から上がなくなったサイクロプスを横目に一歩前に出ると、ノイマンの大きな拳に装備されたオリハルコン製のナックルが火を噴く。胴体に風穴を開けられたサイクロプスを払いのけるとその後ろにいたサイクロプスの腕を取り関節を決めて脳天から地面に叩きつける。アーサーが言うようにノイマンは見事な躍動を見せていたのであった。
周囲のサイクロプスを片付けて進んで行くとゴーレムが現れた。まずは試しと言わんばかりにノイマンはゴーレムの足を殴りつけた。膝の関節を粉砕されたゴーレムが倒れそうになる。一撃で関節を破壊したノイマンは気を良くしてさらに反対側の膝を破壊する。その後はだるま落としのように、ゴーレムの腰を砕き、腕を砕き最後に胸に埋まっている魔石を抜き取る。ノイマンはゴーレムの集団にそのまま突進していった。
「イルマ先生、ノイマンが一番脳筋でしょ?」
「エマさん。ノイマン君は流石にクレインの直弟子ね。戦い方がそっくりだわ」
「次はアーサーが脳筋ぶりを見せてくれますよ」
「アーサー君が?」
「ほら見てくださいよ」
アーサーは敢えてゴーレムが密集している場所を狙った。最初にゴーレムの両足をライオネスで切断すると、一気に飛び上がり胴体と首を両断した。地面にうず高く積みあがるゴーレムの残骸の上に降り立ったアーサーはその位置から別のゴーレムの首を飛ばす。倒したゴーレムの残骸を足場にして周囲のゴーレムを斬り飛ばし続けたのだ。アーサーがゴーレムの残額の山を築き上げていくのをエマとアラガンは楽しそうに眺めていたのだった。
みるみるうちに数を減らすゴーレムたち。時おり襲ってくるサイクロプスをアラガンとエマが瞬殺し、無敵の砦に守られながらイルマが上空をみると、見たこともない魔物の上に人が乗っていて世界樹に突撃しようとしていたのだった。その前に小太郎に乗ったシアとルーナが立ちふさがる。
「お前らは何のために世界樹を傷つけようとするんだ?」
「ふん。我々魔の者にとっては世界樹など何の意味もないのだ」
「意味がない?」
「何も知らんのか。小僧。我々魔の者は澱みに生まれる存在。世界を浄化する世界樹など邪魔でしかないのだ」
「へぇー、つまりお前たちは不潔なんだね」
「シア君、あまり近づくと臭い息がかかってしまいますね」
「くさい~ くさい~」
「……貴様ら、殺してくれる」
その瞬間にシアの体から強大な魔力が発せられた。一気に動きを止めた宙に浮かぶ謎の連中の前に小さな黒い球が発生した。その玉は一気に謎の連中たちを吸込むと消滅してしまったのだ。信じられないものを見たその男は目を見開いていたが覚悟を決めたようにシアに向かって魔物ごと突撃してきた。その男をルーナが結界で囲い込む。
「シア君、捕まえたけどこのまま連れていく?」
「そうだね。色々と聞きたいこともあるしね。おいその魔物はなんて言う名前なんだ?」
「……魔界コウモリだ」
「安易なネーミングセンスだな」
「センスないね。まあ見た目はそのままでかいコウモリだからしょうがないか」
「それで、魔界コウモリの上にいる不潔なお前はなんて言うんだ?」
「……不潔ではない。我に名などない。好きに呼べ」
「では権兵衛だな」
「シア君、いいセンスだね」
「ごんべ~」
「下も終わったみたいだし合流しようか」
シアは魔界コウモリの上に乗った権兵衛をルーナの結界に閉じ込めたままイルマ達と合流したのであった。




