67,南大陸
フライブルク王国から南の大陸へ行くには空路しかなかった。フライブルク王国のある大陸の南側の海域は渦巻く海流が船を押し流してしまうのだ。そのためシア達はエアパスに乗って南の大陸を目指していた。クレインは冒険者ギルドの仕事があるため同行できなかったが、イルマが引率をしてくれたためシア達は安心して南の大陸へと渡れたのである。
南の大陸に渡るとイルマは海岸沿いの開けた場所にエアパスを降ろした。それ以上内陸に入り込むとエルフが驚き警戒してしまうからだという。そこから世界樹までひたすら歩いて行くことにした。
「イルマ先生はどうやってこの南の大陸からフライブルク王国に行ったのですか?」
「私はまずはロシアン帝国のある西の大陸に渡ってから、北の大陸まで旅をして、北の大陸から東の大陸に渡って、それから南下してフライブルク王国に着いたわね」
「それはぐるっと回り込むような感じですね」
「そうね。普通はそれしかできないのよ。南の大陸と東の大陸は渦巻く海が遮っているし、西の大陸と東の大陸の間は途轍もなく広い海があるからね。海路は無理なのよ」
「北の大陸には比較的簡単に行けるのですか?」
「……そうね。強ければ、行けるわね」
「魔物ですか?」
「北の大陸には龍が多いからね。普通は無理よ」
「龍が多い?」
「貴方たちなら大丈夫よ。一度北の大陸にも行ってみなさい」
「イルマ先生、もう一つ質問していいですか?」
「ノイマン君、どうしたの?」
「シアはマリアナさんよりも魔力があるのに、マリアナさんのような威圧感のようなものを感じないのはなぜですか?」
「それはシア君の魔力が人間の魔力で、マリアナさんのは古代龍の魔力だからね」
「魔力の質の問題でしょうか?」
「そうね。本質みたいなものかな……」
「本質?」
「そう。マリアナさんはファインアースの守護龍として悠久の時を生きている存在でしょ。人間にとっては神にも等しい簡単に触れていい存在ではないのよ。おそらく人間の魂の奥底にマリアナさんへの恐れがあるのだと思うよ。逆だと分かり易いかな。ノイマン君が腐ったものを見ると無意識に気分が悪くなったりしないかな。そういうことだと思うのよ」
「……ああ、逆に考えると分かり易いですね。バーバリアン王国で悪鬼たちが共食いしているのを見たときはおぞましくて震えが止まりませんでした」
「つまり人間はあまりに畏れ多くてマリアナさんを本能的に怖がっているんだね」
「あんなに心優しいのに……」
「マリアナさんって辛いと思うんだよね。マリアナさんはいつまでも生きるけど、シアは先に死んでしまう。自分が愛した存在が必ず自分より先に死ぬんだ。これほど辛いことはないよ……」
「厳しいな……。命があるうちにできるだけ大切にしないといけないよな」
「あれ、あの先に誰かいますね?」
「見慣れない者が来たからエルフが見に来たようね。ちょっと挨拶してくるから待ってってくださいね」
そう言うと、イルマは一気に森の奥に入っていった。
数十分ほどすると、イルマは数名のエルフを連れてシア達の下に帰ってきた。エルフの外見の特徴としては美形で耳が長いことをあげることができる。だが、ハイエルフになると美形であることは共通しているが耳は少し短くなり、イルマなどは人間よりも少し長いだけであった。また基本的に菜食を好み痩身が多い。身体能力は高く森の中を風のように駆け抜けることができ、魔力も人間の数倍はあった。さらにほとんどのエルフがこの南大陸から出ることなく生活しており、人間よりも何倍も長い寿命をしているせいか性格ものんびりとしていた。
イルマは連れてきたエルフ達にシア達を紹介していた。エルフものんびりと受け答えをしていたが、突如としてエルフ達の顔つきが厳しくなった。
「皆さんどうしたのですか?」
「……世界樹が危機を知らせている」
「危機を知らせている?」
「……仲間たちが世界樹の里に集まっているようだ」
「……君たちも来てもらっていいだろうか?」
「わかりました。我々も世界樹の里に行こうと思っていましたので大丈夫ですよ」
「……ここからだと丸二日くらいは走ることになる」
「えっ、丸二日走る???」
「……我々について来ないと道に迷ってしまうだろう。里の周辺は攻撃を防ぐために結界を張り巡らせて迷路にしてあるからな」
「わかりました……頑張ってついていきます……」
イルマによるとエルフは世界樹からのメッセージを聞くことが出来るらしい。イルマも世界樹からのメッセージを確かに受け取ったそうだ。ただ、
「迷路になんて800年前はなっていなかったわよ」
と、言っていたので森の中が結界で迷路になっていることは知らなかったようだ。
それからはひたすらに走った。森の中を移動するエルフの速度は非常に速い。彼らは鬱蒼とした木々の隙間を無人の平地を走るように移動するのだ。全員が身体強化を行い、先導するエルフの後ろをひた走る。ハイエルフのイルマ、森の中で育ったシア、小太郎の背に乗るルーナとエマ、極限空手の達人であるノイマンはエルフに余裕でついていけたが、アーサーとアラガンにはかなりの苦行であったようだ。アーサーの身体能力は非常に高いが、性格が一本調子のために曲がりくねった道ではどうしても足を取られたり障害物にぶつかったりしてしまう。本人はこれも剣の修行だといってめげずにいたが、かなりきつそうであった。またドワーフのアラガンは、力は強いが足は速くない。身体強化をしても右に左に体を動かすのは苦手そうだった。そのため時おり先行するシアの後方でアーサーがもんどりうって転び、アラガンが大木に激突する破裂音が響き渡っていた。
やがてシア達の前方に途轍もなく大きな木が見えた。それを木と言っていいのかわからない。なんせ木の直径だけで数キロメートルはあるのだ。その木は雲を突き抜け空を支えているようにすら見えた。徐々に大きな存在が近づいて来ると、全員が魔力の乱れを感じた。
「今の感じたか。魔力が大きく乱れたが……」
「ああ、何かがあるな。それにかなりの魔法が飛び交っているな……」
「急ごう、世界樹に攻撃している者達がいるようだ」
すると突然先導するエルフが前方に魔法を放った。そこには数百の魔物たちが世界樹に向けて火魔法を放ちながら進んでいたのだ。世界樹の方向からは風魔法と水魔法でエルフ達が迎撃をしていたが、その魔物たちはエルフ達が放つ魔法をものともしていなかった。それを見たイルマ先生が舌打ちをした。
「……エルフとは最高に相性が悪い相手みたいね」
「イルマ先生、奴らは何ですか?」
「詳しくはわからない。ただ言えるのは、奴らは魔法を無効化出来るということね。それでいて奴らは森の中で火魔法を使っている……エルフは水魔法で山火事を防ぎながら風魔法で木を切り倒して、その木で敵を押しつぶそうとしているみたいだけど効果は薄そうね」
シア達が視認できる距離に近づいて観察すると、魔物たちは数十メートルの巨体を持つ頑丈なゴーレムであった。そのゴーレムにエルフが魔法を当てても吸収されたようにかき消えてしまう。そのゴーレムが口から火炎を吐きながら進んでいたのだ。また、シアとルーナの魔力感知にはゴーレム周辺と上空にも他の存在が感じられていた。
「イルマ先生、上空とゴーレムの周辺にも何かがいますね」
「ゴーレムの周辺はともかく、上空は厄介ね。シア君、ルーナさん、上空の敵は頼んでいいかしら」
「わかりました。地上の敵はお願いします」
そう言うと、シアとルーナは小太郎にまたがって上空に飛び立ったのであった。




