66,墓石
号泣していたイルマとクレインが落ち着いてからマリアナは続けた。
「最初にカールを森の入口で拾った時は死にたがっておったよ。自分の命には価値がない。自分のために人が死ぬ。自分を生かすために父も兄も死んだと。回復魔法をかけて助けたら、なぜ助けたのだと斬りかかってきたな」
「……」
「死ぬつもりで挑んだがそれでも命が助かってしまった。なら腕を上げてからもう一度挑めと言ってやったら黙りこんだな。カールは力を欲したよ。だから我はいくつかの古代龍の秘儀を授けた」
「……」
「カールがさらに修行をして腕を上げたとき、ルナテラスがふらっとやってきた。その時ルナテラスが星詠みをして死にたがっていたカールの寿命を教えたのだ。何があってもそれまでは死ねないとな。それから奴はロシアン帝国に挑むどころかこの森から出ようともしなかったな。誰とも関わろうとはしなかった」
「……」
「カールが関わって死なずにいられるのは古代龍だけだ。よくそう言って酒を飲んでいたよ。我はそんなカールが不憫でしょうがなかった。奴は自分の人生を楽しむこともせず自分のことを死神のように思っておったよ」
「……」
「どれだけ強くなろうと、どれだけ大きな組織を作ろうと、どれだけ力のある友人を持とうと意味がない。自分を害するために幼子が自爆してくる光景は地獄だと言っておった。奴は自分を殺すために自爆してきた幼子のために木彫りの像をいくつも作り冥福を祈っておった」
「……」
「そんな死にたがりのカールがシアを連れて帰って来たのだ。驚いたよ。そしてその日からカールも我も変わったな……カールは生きたいと、もっと生きてこの子の未来を切り拓いてやりたかったと、なぜ自分の小さな心にこだわって、友を遠ざけ、子の未来を妨げる者を排除しなかったのだと、後悔ばかりしておったよ……」
「……」
「我も変わった。我のように悠久の時を生きる者は一々個人に感情移入などしないのだ。ひと眠りすれば50年が過ぎる。熟睡すれば1000年が過ぎるのだ。誰かを思ってもすぐに死んでしまう。だが、我はカールが連れて帰ってきたシアに感情を全て持っていかれてしまったのだ。それからカールと残された時間の中でシアにできる限りのことをしてやろうと話をした。カールは文字通り残りの人生を全てシアのためだけに捧げた。その大事なシアをそなたたち友人たちに預けたのだ」
「……」
「そなた達から離れたことをカールは後悔しておった。間違いだったと、何度も口にしておった。明日、墓に案内してやろう。イルマ、クレイン恨み言の一つでも言ってやれ。お前たちにはその資格がある。今日は休むがよい」
次の日、マリアナは全員を引き連れてカールを埋めた森で最も大きな木がある場所まで行った。カールを埋めた場所をマリアナに教わるとイルマとクレインは土に手を当てて目を瞑り地面を撫で続けた。どれほど経ったであろうか。イルマとクレインは目を合わせて頷きあうとイルマが強大な魔力を込めて大石を創り出してカールの埋まっている土の上に置いた。クレインはその石を睨み付けると精神統一をしてからナックルを手に付けて高速で石を殴り文字を彫り始めた。
「カール・ガイウス・ペルサス、クレイン・イグナイト、イルマ・スプリングス 三名の友は共に眠る」
そう彫るとシアに声をかけた。
「シア、イルマと話をしたんだが、俺が死んだらここに埋めてくれ。友達を一人にしておけないからな」
「シア君、私はハイエルフです。寿命も長いでしょう。だから私が先なのかシア君が先なのかはわかりません。ただ私の人生で最も輝いていた時に共に過ごしてくれた彼らと共に眠りたいと思います。私が死んだらここに埋めてください」
そこまで言うとイルマとクレインはマリアナを促してマリアナの家に戻った。
その日は誰もが口数が少なくなっていた。
少ししんみりした気持ちがあったのであろうか。だが、エマがその雰囲気を壊そうとひとつの提案をした。
「この間、シアとルーナに言ったことを覚えてる?」
「それって結婚の話?」
「そう、シアもルーナも聖教会の教えだと来年には結婚ができるようになるでしょ。その結婚式は王都の大教会ですることになるだろうし、聖女マリア様が司祭を務めてくれるはずだよね」
「うーん、確かにローマン聖教国とフライブルク王国に転移門が出来たからね。聖女マリア様がフライブルク王国にある大教会に来ることは簡単になったな」
「ねえ、マリアナさん。そのシアとルーナの結婚式にフライブルク王国に来てもらえませんか?」
「……我がシアとルーナの結婚式に行くのか?」
「はい。こうして人化されていてもマリアナさんの強大さはひしひしと伝わってきます。おそらく心優しいマリアナさんは、人間たちを怯えさせないように人里離れて暮らしていると私は勝手に思いました。違いますか?」
「……我が人里に行くとな、いくら気配を押し殺していても弱い生き物は古代龍の気配だけで心臓が止まってしまうのだよ。そなたたちだけならまだしも、老人や子供たちなど国にいる他の者はそうはいかんだろう。無理だな……」
「シア、マリアナさんの気配を抑える魔法を作れないかな?」
「母さんの気配を抑える魔法……」
「うん。そうすればマリアナさんもシアとルーナと一緒に暮らせるし、二人の間に出来た子供たちもマリアナさんとずっと一緒に過ごせるようになるよ」
「……シア、何とかならないか?」
「アーサー……」
「ああ、俺たちも協力するぜ」
「ノイマン……」
「いつもみたいに考えてみろよ、絶対に出来るさ」
「アラガン……」
「それなら、南の大陸に行きましょうか?」
「イルマ先生、南の大陸ですか?」
「世界樹の実を使うのですよ」
「世界樹の実……」
「はい。最初に強化合宿をした時のことを覚えていますか?」
「アーサーが水晶を触って倒れたやつですね」
「はい。あの水晶は世界樹の実なのです。その水晶に魔法をかけて触った人の魔力を別空間に逃がすように作りました。マリアナさんの無限に湧き出る魔力もあの実を利用すれば抑えることができるかもしれません」
「……母さんの魔力を別空間に放出するのですか?」
「いいえ。そのまま別空間に放出しようとしてもマリアナさんの魔力なら別空間が壊れてしまいます。ですが、世界樹の実を通していくと通した魔力は世界樹に還元することができます」
「それは魔力を亜空間に逃がすのではなく世界樹に還元させるということですか?」
「そうです。亜空間とはいっても容量があります。容量以上に詰め込めば破裂してしまうでしょう。ですが、魔力を世界樹に還元すれば破裂する心配はありません」
「よし、シア。行こうぜ南大陸へ」
「ああ、考えていてもしょうがない。まずは行動しようぜ」
「南大陸に行っている間に他の方法を思いつくかもしれないだろ」
「子供の結婚式に親が出席出来ないのはダメよ。親孝行しなさい」
「シア君、お母さまにこれ以上寂しい思いはさせたくないです……」
「シアよ。お前いい友人持ってるじゃねぇか。甘えてやれ」
「シア君。私が引率しますよ。学園の最後の行事です。行きましょう」
「そなたたち……我のために……」
「ありがとうみんな。母さん、絶対に結婚式は来てもらうからね」
かくして、イルマの提案のもとに、シアと友人たちはマリアナをシアとルーナの結婚式に参列させるために、南大陸に行き世界樹の実を手に入れることとなったのである。




