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62,入口

 シア達が隣の部屋に大量の悪鬼たちが集結したことを感じ、緊張感を高めるなかでノイマンが何かに気付いた。

「なあ、おかしくないか?」

「隣の部屋ってどれだけ広いのかって話だよな?」

「ああ、あの数の悪鬼たちが入れる部屋っておかしいだろう?」

「確か、あの部屋の扉は向こう側を覗き込むことが出来るよな」

「気を付けて覗けよ、ノイマン」

 ノイマンが慎重に覗き窓から扉の向こう側を確認した瞬間、またしても光景が変わる。そこは大量の悪鬼たちが集結していた扉の向こう側であった。しかもまたしても大量の悪鬼たちがピラミッドの真下から這い上がってくる気配がする。

「不味いな。扉の向こう側に飛ばされたか」

「だが、あの大量の悪鬼たちはいなくなっているな」

「でもこの気配はさっきと一緒ね。すぐにこの部屋を悪鬼たちが埋め尽くすわ」

「何かでかい井戸みたいな穴が開いているな。ここから奴らは来るのか?」

「井戸に石版があるな、シア、この古代文字を読んでくれ」

 ノイマンが叫んでシアを呼ぶ。ノイマンが指さす先の文字をシアは読み上げた。

「この井戸は魔の国への通路なり。認証石に火、水、光、闇、土、風の順番に魔力を流せ。さすれば通路の入口は塞がれよう」

「さっきの扉と同じだな。早くしようぜ」

 先ほど同様にアーサーが認証石に順番に魔力を流すと、またしても石が光り井戸が崩落して消滅した。すると、シア達がいる部屋と扉の向こう側が一つの空間へと溶け合い、最初にシアたちがいたように白一色の神殿のような場所に変化した。その白一色の空間に先ほどの棺が浮かんでいる。


「さっきは古ぼけた神殿のような感じがしたが、今は新築のように見えるな」

「作りたてのまっさらな感じだな」

「でも最初と違って、今度はアーサーの棺があるわね」

「……だからエマ。俺じゃないって」

「とりあえず、アーサーの棺のところに行ってみようか」

「……俺じゃないのに」

 シア達が棺に近づくと、棺の蓋が音もなく開いた。

「……アーサーの棺が勝手に開いたな」

「アーサーが化けて出てくるかな~」

「小太郎まで……」

 蓋が開いた棺をシア達は警戒しながら覗き込んでみた。

 棺の中には鎧を着用し、兜を被り、黄金の面を被った人間が横たわっていた。

「眩しいくらいの黄金の面だな……」

「アーサーが成金趣味に染まったのか……」

「センスがないね~」

「うん。どうせなら全部黄金にすればいいのにね」

「面の部分にしか黄金に出来なかった経済的事情があったんだろうね」

「なるほど。アーサーも苦労したんだね」

「……お前ら……いい加減にしろよ」


 すると、棺の中に横たわっていた人が急に起き上がった。流石に驚いたシア達はアーサー以外の全員が脱兎の勢いで棺から離れたが、

「おい、アーサーも下がっとけよ。何があるかわからないぞ」

「アーサー、下がれって」

 シア達が棺のそばで動かないアーサーに声を掛けた瞬間、棺から立ち上がった人の面が外れる。その人がゆっくりと目を開くとアーサーの背負うライオネスが勝手にその人の手に飛んで行った。微動だにしないアーサーの目の前に、アーサーに酷似した人物がライオネスを手に掲げた。

 その人はライオネスを嬉しそうに眺めると、アーサーに重なり合い、溶けあうようにして消え去った。そしてアーサーはその場で崩れ落ちる。

「ちっ、アーサーっ!」

 シア達がアーサーに駆け寄ると、アーサーは少し首を振ったが元気そうに起き上がった。

「アーサー、大丈夫なのか?」

「すまない……心配をかけたな。大丈夫だよ」

「一体何だったんだ?」

「簡単に言えば、あの棺の中にいたのは俺だったんだよ」

「?????」

「昔の俺……、前世の俺だな……」

「アーサーの前世?」

「ああ、この腕輪を忘れていることを思い出したんだ」

 確かにアーサーの左手首に見慣れない腕輪が嵌っていた。その腕輪は黄金に輝き表面には象形文字のような模様が刻まれていた。

「かつての俺はこの腕輪を失くしたおかげで悪鬼たちに殺された。この大陸にある魔の国の入口を塞ぐために、この地にピラミッドを建設しようとしていた矢先だったらしい」

「ということは、このピラミッドは魔の国の入口を塞ぐために、アーサーの前世が作ったのか?」

「正確にはルナテラス様の指示によって俺の墓として作られたものだ。ルナテラス様は俺の墓をここに作るように人々に神託を出して、魔の国の入口を魔皇龍が封印したんだ」

「何でアーサーの墓にしたの?」

「俺が前世を生きていたときは今よりも人口が少なく、この大陸には一つしか国が無かった。その国の王が俺だった。だから俺の墓という名目が良かったのだろうね」

「何となくは理解できたけど、その腕輪は何だ?」

「この腕輪は魔封じの鎧が入っているんだ」

「魔封じの鎧?」

「腕輪はシアの財布と一緒だよ。容量はそれほどでもないけど亜空間収納ができるようになっている。中に魔封じの鎧が入れてあったんだ。その魔封じの鎧は普通の鎧としても優秀だけど、特に魔の国にいる連中の攻撃をかなり防ぐ効果があるんだ」

 そう言うとアーサーは腕輪に触れた。次の瞬間、シア達の目の前には黄金を基調にした西洋甲冑に身を包んだアーサーがライオネスを手に現れたのであった。

 その腕輪は中に鎧や剣を収納するだけではなく、触れれば一瞬で装備をさせる効果があった。そのためアーサーは背に大剣ライオネスを背負う必要もなくなり、魔封じの鎧も一瞬で装備ができるようになっていたのだ。


「まあ、良かったんだろうな。その腕輪は便利そうだしね」

「ああ、その魔封じの鎧もいい感じだしな」

「今度その魔封じの鎧を改造させてね。パワーアップさせたいよ」

「ええ、これでアーサーも少しは垢抜けましたね」

「でも汗臭いのはすぐには治らないよ、エマ」

「ルーナが酷い……」

「ここに居てもしょうがない。あの扉から出るとしようか」

 シア達はこの空間にぽつんと一つだけ存在する扉を開けて外に出た。


「救世主様、無事にお帰りになられましたね。我々砂漠の流れ者一同、お慶び申し上げます」

「あれ、これでこのダンジョンは終わりなのか」

「そうみたいね。アーサーが化けて出てきただけだったわね」

「アーサーが化けた~」

「小太郎……」


 その後、アーサーは勝手な推測だと前置きをして、さらに話を続けた。アーサーによればおそらくダンジョンの中で、実際に過去に戻っていたのではないかとの話であった。過去に戻って魔の国の入口を封印したことで、ダンジョン内の悪鬼たちが現れて来ることができず、現在は何もいない状態になっているのではないか、というのがアーサーの推論であった。

 また、砂漠の流れ者たちは、その日以降は名を名乗るようになり、その後は旧バーバリアン王国の全土を巡って穢れた水源地を封印して回った。やがて彼らは数を増やし新たに国を築いたと言われる。


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