61,ピラミッド
エリナの妊娠が発覚し全員で喜びを分かち合った次の日、アーサーはシアに告げた。
「フリージアに戻る前に、砂漠の遺跡に行こうか」
「アーサー、戦争は終わったんだぞ。一旦帰って報告しなくてもいいのか?」
「報告なんか後からでもできるさ。それよりも砂漠の遺跡にいる人たちを救う方が先だろ。それにバーデン男爵が王宮に飛燕鳥で報告を送ってくれた。気にすることは無い」
「……わかった。では俺たちはこのまま砂漠の遺跡に戻って長老が言うダンジョンに挑むとするか」
「俺もアーサーに賛成だな。人々を救う方が先だと思うよ」
「そうね。ではダンジョンに潜る準備をするために買い物に行きましょう」
「……エマは買い食いがしたいだけだろ?」
「……ばれてる」
「まあいいや、今日は買い物でもしてゆっくりしよう。明日エアパスに頼んで砂漠の遺跡に向かおうか」
今日は休みにして明日砂漠の遺跡に向かうことを決めたシアにブルースが話しかけた。
「シア、頼みがある」
「ブルースさんが俺に頼みですか?」
「ああ、お前たちが出陣前に作った巨大な壁があるだろう。あれを利用して砦にしたいのだが、硬すぎて全く加工が出来ない。少し手伝ってもらえないだろうか」
「わかりました。そういうことなら手伝いますよ」
シア達がランドリーに通じる道の前に創り出した大きな壁は、20万の兵士が突撃しても壊れない強度を想定したものである。その壁の一部を小太郎が穴を開けて通行できるようにしていたが、普通の人が壁を加工するのは不可能であった。そこでシアは買い物をエマとルーナに任せ、アーサー、アラガン、ノイマンを連れて壁に赴きブルースの意向に従って、ただの頑丈で巨大な土壁を砦として利用できるように改造したのであった。特にアラガンとノイマンは異常に張り切って壁に装飾まで施していた。その後ランドリーはフライブルク王国の玄関口として、主に大陸を行き来する商人たちによって栄えることになるが、この時シア達が改造した砦は「覇者の砦」と名付けられ、交易の街ランドリーのシンボルとして後世に残ったのであった。
次の日の朝、ルーナが転移してオースティンから呼んできたエアパスに乗り込むとシア達はバーバリアン王国の西にある砂漠の遺跡に向かった。遺跡に到着すると砂漠の流れ者たちに案内されて長老の部屋に辿りつく。
「救世主様……どうか、かつては人間だった者達に死の救いを与えてやってください」
「……わかりました。準備はできていますので、ダンジョンの入口に案内していただけますか?」
「救世主様。ダンジョンにはこの部屋にある水晶を触ればすぐに入ることが出来ます。私は誰かが間違えてダンジョンに入らないようにこの部屋で水晶を見張っていたのです。ダンジョンを攻略されたら以前見ていただいた扉が開くと魔皇龍の言い伝えにあります。我々砂漠の流れ者は救世主様達のお帰りをお待ちしております」
そう言うと、長老の背後に置いてあった木箱をどけた。そこには人の頭くらいの大きさの水晶が置かれており、頷く長老に軽く手を挙げてからシア達は全員で一斉に水晶に触れたのであった。
水晶に触れたシア達が現れたのは古びた神殿のような場所であった。周囲は白一色に磨き込まれた大理石でできており、繊細な彫刻が施されている大きな柱が天井を支え、天井からは白銀の光が絶え間なく降り注ぎ荘厳さを醸し出していたのであった。
「……想像していたのと違うな」
「うん。いきなり悪鬼たちがうじゃうじゃ出てくると思っていたよ」
「あの奥の扉に向かえばいいのかな?」
「それしかないよな。でも扉が二つあるな」
「まずは行ってみようよ」
シア達が扉に辿りつくと、アーサーがそのうちの一つに手をかけて開けようと試みるが開かない。そこでもう一つの扉を開こうとすると、こちらは簡単に開いたのであった。
「この開いた扉を進めということなのかな?」
「でもここがダンジョンだとすれば罠の可能性があるぜ」
その時にアラガンが扉の間に石版が嵌っているのを見つけた。
「何か文字が書いてあるな……ノイマン読めるか?」
「……古代文字だと思うけど、……この古代文字は知らないな」
ノイマンが頭を抱えて唸っているところにシアが石版を覗き込む。
「開けし扉は牢獄への入口。閉ざされし扉は救いへの入口。正しき道は救いへの入口。認証石に火、水、光、闇、土、風の順番に魔力を流せ。さすれば救いへの入口が開かれん」
「……シア読めるの?」
「うん。よくわからないけど懐かしい文字だね。普通に読めるよ」
「シア君の前世に使っていた文字かもしれないね。……日本だっけ?」
「そうなのかな。自分ではよくわからないけどすらすらと読めたね」
「では、その通りにしてみようよ。認証石ってこの取っ手の上の石かな?」
「魔力を順番に流すんだよな。まずは火の魔力を石に流してみよう。おっ、火の魔力を流したら石が赤くなったぞ」
「アーサー、そのまま順番にやってみろよ。シア、次は何だ?」
「次は水だな。アーサーが水の魔力を流したら赤と青に光ったな……」
アーサーがシアの指示に従って順番に魔力を認証石に流し込むと、赤、青、白、黒、黄の五色が渦巻くように認証石の表面を光らせていった。最後に風の魔力を流すとそこに緑の光が足しこまれ、カチッと鍵が開くような音がした。アーサーが全員の顔を一瞥してから扉に手をかけてから開く。その瞬間にシア達は……砂漠に居た。
「ここってダンジョンの中だよな?」
「ああ、扉は確かに開けたが一歩も動いていないぞ」
「外に飛ばされたのかな?」
「ああ、でもあれを見てみろよ」
「誰かが戦っているのか?」
「見に行こう」
シア達が先に進むと、誰かが悪鬼たちと戦っている姿が見えた。
「あの人は一人で悪鬼たちと戦っているのか?」
「それも上半身裸のままだぞ」
「相当追い詰められていたのか、鎧を準備する時間がなかったのか。どちらにしても危ないな、助太刀しよう」
シア達が駆け出し助太刀をしようとすると、悪鬼王らしき者の剣が胸を貫く。
その瞬間に、砂漠の景色は一変し静かな月夜に変わる。
「えっ、あの人いなくなったな……」
「悪鬼たちもいないよ」
「……どうなっている?」
「あの人は、さっき悪鬼王にやられた人ではないのか?」
シア達の目の前には黄金の台があり、そこに先ほど悪鬼王に刺された人が横たわっていた。シア達が恐る恐るその黄金の台に近づきその人の顔を見ると、
「……アーサー?」
「いや、俺はここにいるぞ」
「でもアーサーに瓜二つだぜ……?」
「ああ、アーサーはこんなに黄金の装飾品をつけたりはしないからね」
「そうね。どちらかというとむさ苦しいからね」
「……エマ。むさ苦しいのか……俺って」
「時々ちょっと汗臭いかもしれませんね。シア君の汗はいい匂いですよ」
「ルーナまで……」
その時、また景色が変わり、またしてもシア達は砂漠にいた。
「今度はなんだろうな?」
「何かを作っているみたいだね」
「……大きな石を積み上げているな」
「ピラミッドを作っているのか?」
「ローマン聖教国の聖女マリア様は、ピラミッドはお墓だったって言ってたよね」
「じゃあ、このピラミッドはアーサーの墓なのか?」
「アラガン……、俺を勝手に殺すなよ。俺はまだ生きているよ」
またしても景色が変わる。今度は完成したピラミッドの前に棺が置かれていた。
「この棺の中には、やはりアーサーがいるのかな?」
「……俺じゃない」
「おい、棺が浮かんだよっ!」
「本当だな。アーサーの棺が勝手に浮かんでいるな」
「……シアまで、……俺じゃないって」
「あれ、アーサーの棺が進んでいくね」
「……ルーナ、……俺じゃないって」
「そうだな。アーサーの棺に付いて行ってみよう」
「ノイマン、だから棺の中は俺じゃないって」
アーサーの叫びを無視してシア達は棺の後を追った。棺はシア達を先導するかのようにピラミッドの通路を進んでいく。
「この道の先はあの部屋だな」
「うん。長老のいた部屋だね」
「棺が部屋に入って止まったね」
シア達が棺を追いかけ部屋に入ると、部屋の入り口が閉まった。その刹那ピラミッドの真下から大量の悪鬼たちが這い上がってくる気配を感じた。
「ちっ、全員気を付けろ、凄い数だ」
「囲まれたら厄介だな……」
シア達が臨戦態勢に入った時、悪鬼たちはシア達がいる隣の部屋に集結したのであった。




