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60,命

 悪鬼王が振るう剣がシアの結界を打ち据える。金属を叩くような硬質な音が響き渡るとシアがルーナの方向に弾き飛ばされた。次の瞬間にルーナの背後に転移した悪鬼王がルーナの結界を打つ。弾き飛ばされたルーナはシアと激突して止まった。その時、シアがルーナに耳打ちをした。

「ノイマンが何か考えたみたいだね。小太郎に全員乗って何か合図してるよ」

「うん。あの方向を隠して欲しいのかな?」

「不意打ちでも計画しているのかな……」

「試してもらおうか」


 すると、シアはルーナをノイマン達の方に弾き飛ばした。それを見た悪鬼王が勝ち誇ったように嘲笑いながらシアに言う。

「この崇高なる存在である朕に勝てぬと知って女を逃がしたか。しかもあの女はご丁寧に色付きの結界まで張って姿を隠し、自分だけ助かろうとしているではないか。貴様も哀れな男よ」

「ルーナさえ生き残ればそれでいいのさ」

「自己犠牲など何の役にもたたんぞ。貴様は見どころがある。今降伏するなら朕の崇高なる血を直接分け与える栄誉をくれてやろう」

「あのキュリオスとケチャックとかいう王子たちには直接血をやったのか?」

「ああそうだ。キュリオスとケチャック、それにイブラの三人には朕が直接血を授けた」

「その割には大したことがなかったな」

「ふん。あ奴らに朕が血を与えたときは、まだ朕も悪鬼王として誕生してはいなかったからな、だが喜べ。至高にして究極の存在となったこの朕の血はその時とはわけが違う。今なら貴様は朕の眷族ともなれるであろう」

「へえ~、それで悪鬼王さんは最初どうやって悪鬼になったのだ?」

「ふむ。あれはもう50年以上前になるが、魔の国から至高なる悪鬼王様がこのバーバリアン王国に降臨されたのだ」

「50年以上前……」

「先代の悪鬼王様は朕に永遠の命を与え、この大陸の覇者となる使命を授けられたのだ」

「へえ~、それでその至高なる悪鬼王様とやらはフライブルク王国で消え去ったわけだ」

「朕は先代の仇をとらねばならぬ。あの忌々しいカールはもう死んだと聞いたぞ。フライブルク王国に朕を打ち倒せる存在はもうおらぬのだ」

「それじゃあ、父さんを恐れて今まで攻めてこなかったわけだ」

「ひれ伏せっ! 愚か者っ! 恐れていたのではない。悪鬼王となるには2000万の悪鬼たちの血と肉と、50の原種の悪鬼の血と肉が必要なのだ。この五十年、ひたすらに悪鬼を増やし、魔の国から原種の悪鬼を呼び寄せていたのだ」

「原種の悪鬼って魔の国から来るのか?」

「魔の国の入口はロシアン帝国にある。原種の悪鬼たちは年に一度、海を渡りこのバーバリアン王国に数名がやってくるのだ」

「ロシアン帝国に魔の国の入口があるのか……」

「知りたいことはそれだけか。覚悟が決まったであろう。朕の血をすすり眷族となれ」

「結構時間稼げたかな。知りたいことも大体聞けたし……」

「……何?」


 シアがルーナを弾き飛ばしたふりをしてノイマン達の方向に行かせると、ルーナは天まで覆うかのような白い不透明な結界を張った。その結界に隠れながらノイマン、アーサー、エマ、アラガンは小太郎の背中に乗り上昇すると、悪鬼王の上空に巨大な水球を創り出していた。彼らはその水球に光魔法を込めると、シアが悪鬼王と話をして気をそらし時間稼ぎをしている間に、悪鬼王の至近距離までその水球を近づけていたのであった。


 シアが悪鬼王との話を中断した瞬間、巨大な水球は悪鬼王の上で破裂した。悪鬼王は天から降り注ぐ水の強烈な圧力を受けて地面に這いつくばる。全身の皮膚がただれ、口と鼻から入り込んだ水が悪鬼王の体を内部から焼き焦がす。悪鬼王がどうにか顔を上げて前を向いたとき、シアが神威を振り下ろすところが見えた。そしてその光景は悪鬼王が最後に目にしたものとなる。


 悪鬼王が消滅し、シア達は互いの無事を確かめ合いながらハイタッチを交わした。

「ありがとう、助かったよ。思いのほか動きが早くて捉えきれなかった」

「ええ、ちょっと苦戦したね。助かったよ」

 シアとルーナが礼を言う。

「感謝しろよ、シア、ルーナ。ノイマン基金のおかげだぜ」

「ノイマン基金?」

 その後アーサー達はシアとルーナに作戦を思いついた経緯を説明し、互いの健闘を称えあった。かくしてシア達はバーバリアン王国での戦闘を終えたのである。

 

 その後、シア達は王宮に足を踏み入れたが早々に退散した。

 悪鬼王達の食事となる予定だったのか、人間の形をした悪鬼たちがまな板の上で捌かれており、正視できる状態ではなかったのである。さらに、王宮には財宝などは全く残っておらず、代わりに人骨が積み上げられており、その人骨に死出虫がわいて凄まじい悪臭を放っていたのだ。

その後シア達は王宮を出ると帰還する前に、狂ったようにバーバリアン王国の王都を巨大魔法で粉々にすると、跡形も残さず消し去った。


シア達は帰還する前にランドリーに立ち寄った。意識不明であったバーデン男爵の容態が気になったのだ。

「ただいまー、お父様の具合はどう?」

 エマが元気よく屋敷の扉を開ける。すると、元気そうなバーデン男爵とブルースが出迎えてくれた。エマは安心した表情でバーデン男爵に抱き着き、回復を祝ったのである。だが、

「ああ、エマ。エリナが少し寝込んでいるからな。そっとしておいてくれ」

「……お母さまが?」

「うん。原因がわからんのだよ。エマたちが出発してからすぐに私は回復したのだが、今度はエリナが寝込んでしまったのだ……」

「また魔力病……?」

「いや、それはない。魔力は毎日のように調整しているからね。だからエマたちが帰ってきたら診てもらおうと思っていたのだよ。夕食前には起きてくると思うからその時にでも診てやってくれないか?」


 その日はバーデン男爵家に全員が泊まることにして、夕食前にエリナが起きてくるのを待っていた。

「ルーナ、お母さまを連れて来たの。診てもらっていいかな?」

 エマが母のエリナを連れてルーナのところにやってきた。エリナの顔色は悪く、吐き気が収まらないらしい。皆が心配そうに見守る中、ルーナは慎重にエリナの体に魔力を浸透させていった。すると、

「……シア君、すごく変なものがあるの。見てもらっていいかな?」

「変なもの?」

 そうルーナに言われたシアがエリナに魔力を浸透させていく。しばらく硬直したように動きを止めたシアであったが、何度も頷くと心配そうに見守るエマの方を向いた。

「エマ、おめでとう。弟か妹がエリナさんのお腹の中にいるよ」

 その言葉を聞いた瞬間に、全員の動きが止まる。そしてエマがシアに確認する。

「シア、間違いないの?」

「ああ、確実にもう一つの命がここにあるよ。体調が悪いのは悪阻だろうね。時期が来ればおさまると思うよ。エマ、ブルースさん、バーデン男爵、おめでとうございます!」

 そう言ってシアが拍手をすると、アーサー、ノイマン、アラガン、ルーナ、小太郎が一斉に拍手喝采をはじめて祝福をした。

「……いや、病弱だったエリナが回復したのでな……つい」

「……ちょっと、この歳での妊娠は恥ずかしいかもしれませんね。でも嬉しいです」

 その後は恥ずかしそうに照れるバーデン男爵と嬉しそうなエリナ、エマ、ブルースの姿をみて、全員が久しぶりに幸せな気持ちで夜を過ごすことが出来たのであった。


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