57,作戦
スワロフ砦の悪鬼たちを殲滅し、互いの無事を確認したシア達はそのままバーバリアン王国の王都に向かっていた。途中でいくつかの村を見つけたが全てがもぬけの殻になっており、何の気配もなかった。
「この村も人がいないな」
「ああ、それにこの井戸の水を見てみろよ」
「さっきの村もこんな色していたな……」
「どこから見ても血の色よね……」
「おい、あれ見てみろよ」
アラガンが指さすその先には、小さな集落があり、そこから人が続々と出てきて街道に向かって歩いていた。だが、
「あれは悪鬼達だな」
「倒すか?」
「いや、全員が王都の方向に向かっていないか?」
「……そうだな。この地図だと、あの道は山間の隘路になっている。その先はバーバリアン王国の王都に一直線のはずだ」
シア達はその小さな集落も確認したが、やはりもぬけの殻になっていた。
「王都にバーバリアン王国全土から悪鬼が集まっているとか?」
「可能性はあるな……」
「右から別の悪鬼が来ているな」
「人数は……20人か……捕まえて尋問してみるか?」
「あれくらいの人数ならルーナの結界で囲い込めば逃げられないだろう」
「ああ、試してみようか」
シア達は気づかれないように回り込むと悪鬼たちを一網打尽にして結界に閉じ込めてから話しかけた。
「えーと、悪鬼の諸君、聞きたいことがあるのだが?」
「……私たちは悪鬼などではございません。ただの農夫でございます。このようなご無体なことはおやめください」
「悪鬼ではない?」
「……はい。我々のどこが悪鬼に見えますか?」
「まあ、見た目は人間だからね……」
「シア、しばらくそのまま閉じ込めておけよ。悪鬼なら共食いをはじめるはずだ」
「それもそうだな。さすがはノイマン」
シア達は悪鬼たちを結界に封じ込めたまま放置し、その場で一泊することにした。朝起きたシアが結界の中を見ると、共食いをはじめていた。取り急ぎルーナとエマに見ないように伝えてから、シアはアーサー、ノイマン、アラガンと悪鬼たちに話しかけた。
「やはり悪鬼じゃねぇか。村人を装ってもわかるのだから、質問に答えてくれるかな?」
「……何が知りたい。殺すなら早く殺せ」
「なぜ王都に向かっている?」
「……悪鬼王様がお生まれになるのだ。そのために我らは呼ばれたのだ。バーバリアン王国中の悪鬼たちが王都に集結する。そこで儀式を行うことで悪鬼王様が誕生するのだ」
「儀式とは何をするのだ?」
「集めるのだ。大量の悪鬼たちの血と肉を。それを混ぜ合わせてから原種の血をたらせば悪鬼王様が誕生する」
「大量の悪鬼たちの血と肉って。ではお前たちは……」
「我々は悪鬼王様の血と肉になるのだ」
「……原種とは?」
「……魔の国からこられた至高のお方たちだ。俺たちは元々人間だ。至高のお方たちの血を分けてもらい悪鬼となっただけだ」
そこまで話をすると、悪鬼たちは口をつぐんだ。それからは何も話をしなくなったためシアは彼らを処分すると、バーバリアン王国の王都に向かって進み始めた。王都に到着するまでの数日間に何回か同じことをしてみたが、返ってくる答えは全て同じであった。
「悪鬼王と言えば、カール様が三日三晩カール平原で戦った奴だな」
「そうだな。だとすればかなりの強さだ」
「あの再生する悪鬼たちは原種なのかな?」
「どうだろう……ただ、ふつうの悪鬼たちは再生しないからね……」
「あの分裂は厄介だな……」
「うん。ノイマン、何かいい方法はないかな?」
「……そうだな。奴らは致命的な傷を負うと液状化するだろう」
「そうだな。その液が別々の場所にあると数が増えるんだよね」
「なら、まとめるかぁ」
「……その手があるな。まとめてから一気に消し去ればいいか」
「全員結界は使えるからな……作戦を考えよう」
シア達は原種の悪鬼対策を考えてから、さらに最悪の事態も想定した。バーバリアン王国全土から悪鬼たちが王都に集まっているとすれば、既に大量の悪鬼たちが集結していることが予想できる。悪鬼王誕生にどれだけの悪鬼たちが必要なのかは不明であったが、既に悪鬼王が復活していてもおかしくはないのだ。そこで王都に乗り込む前に徹底的に対策を講じることにしたのである。
やがて遠目にバーバリアン王国の王都が見えてきた。その時ノイマンが気付いた。
「王都周辺に川が流れていないな……」
人間に限らず、生物が生きるために水は必要不可欠である。古来より人は水が豊かな場所に集まり生活をしてきた。豊かな水は豊かな自然を生み、豊かな自然は豊かな生物たちを育む。人は知恵をつけて井戸を掘り地下水で生きることを覚え、水辺から離れても生活する手段を得ることが出来たが、井戸を掘るよりは川を利用した方が圧倒的に手間はかからない。王都のように大勢の人間が集まることを前提に開発された場所なら、必ず近くに湖などの水源地が存在し、川などを利用して街の中に水を引き込んでいるはずであった。
アーサーがノイマンの言葉を受けて続けた。
「随分長い間、フライブルク王国とバーバリアン王国は断交していたからな、正確な情報ではないが、バーバリアン王国は数十年前に王都を移転したと聞いたことがある。以前の王都は山脈から流れる水が流れ込む大きな湖に隣接するようにあったと聞いたが……」
「なるほど……。水が無くても生きていけるのか、それとも水を必要としないのか」
「……いや、水が邪魔なのかもしれないね」
「エマ、それはどういうことだ?」
「あいつらは液状化すると水に溶けるでしょ。でもそれだけで王都を移転してまで水源地から離れる必要があるのかと思ったのよ」
「確かに、水源地から離れるように王都が移転したように思えるな。それにこの王都がある場所は岩盤がかなり硬いはずだ。地下水を汲み上げる井戸を大量に作ることは考えにくいな」
「アラガン、このあたりは地面が硬いということか?」
「ああ、俺たちドワーフは鉱脈を探すときに地面の硬さを測るんだよ。鉱山の街カルグスで育ったものなら誰でも知っている。俺も大体でしかわからないが段々と硬くなってきたなとは思っていたんだ」
「そう考えると、悪鬼たちは水を苦手にしていると考えることができるな」
「でも、悪鬼たちに直接水魔法を打ち込んでも効果は少なかった……。火魔法の方が断然効果があったよな」
「……どういうことだろう?」
「ねえ、シア君。イルマ先生は学園で悪鬼に聖水をかけたら力が落ちたと教えてくれたでしょう。綺麗な水は悪鬼たちには毒になるとか考えられないかな?」
「……綺麗な水が悪鬼たちは毒になるか、あり得るね。ここまで近づくと実験している時間がないけどな」
「俺たちの後ろからも悪鬼は来ないしな。もう全部王都に集結したと考えていいかもしれないね」
「そうなると……」
「そうね、作戦を少し変更しましょうか。ダメならさっきの作戦でやればいいからね」
シア達はバーバリアン王国の王都を目の前にして、新たに作戦を立て直し、王都に集結した大量の悪鬼たちを一気に葬り去ろうと考えたのである。




