52,友と共に
彼らが出陣の決意をし、ルーナがオースティンに転移をしてエアパスを呼びに行くと、
イルマ校長とクレインも王宮に駆けつけてきた。
「……シアたちが行くのか?」
「……シア君たちが戦争に?」
クレインとイルマは互いに困惑すると同時に、彼らを止められないと悟ったのか自分たちも一緒に行って戦うと言い始めた。だがシアは、
「エリザベート様の馬車を襲った犯人が王宮に攻撃をしてきたらどうするのです。俺たちが安心して戦えるように背後を守っていてください」
と、クレインとイルマの参戦を拒否したのだった。やがてエアパスが王宮の上空に到着すると、シアとルーナは無言でエアパスの背中に転移し、アーサー、エマ、ノイマン、アラガンは順番に小太郎の背中に乗ってエアパスに乗り込んだ。シアがエアパスにランドリーへ向けて飛び立つように指示すると、エアパスは雲を斬り裂き一直線にランドリーへ向かった。このとき彼らを見送った後イルマは
「あの子たちの手を血で穢してしまった」
と、言いながら号泣したという。
エアパスはランドリーへ到着すると不測の事態に備えてオースティンへ向かった。仮にバーバリアン王国がオースティンを不意打ちしても、エアパスがいれば防ぐことが出来る。そう考えたシア達はエアパスに礼を言うとバーデン男爵家に向かった。バーデン男爵家に到着するとエマが早速母のエリナに声を掛けた。
「お母様、お父様の具合はどうなのですか?」
「それがおかしいのよ。私もエマたちに回復魔法を教わったから何度もかけているけど回復しないのよ」
「回復魔法で回復しない?」
「傷は浅かったのよ。回復魔法をかけると傷口は塞がって治ったように見えたのだけどね、意識が戻らないの。診てもらっていいかな?」
ルーナがバーデン男爵に魔力を浸透させて様子を見ると、
「シア君、傷は治っているはずだけど、すごく弱っている……」
「この症状は毒だね。ルーナ、体中から毒を消し去るつもりで魔力を浸透させてごらん」
「毒を消し去るつもりね。やってみるね」
ルーナが毒を消し去るつもりで魔力を浸透させると、バーデン男爵の血色が良くなった。その時、バーデン男爵家の庭でブルースの怒声が響き渡った。
「貴様が裏切ったのかっ!」
「バーバリアン王国は20万の大軍で攻めてくるんだ。もう終わりなんだよこんな国」
「貴様っ!」
「それにバーバリアン王国にはロシアン帝国がついている。バーバリアン王国はロシアン帝国の支援を受けてこの大陸を制覇するのだ。最初にバーバリアン王国は山脈を越えたこのフライブルク王国を制圧して後顧の憂いを失くすのだ。その後は邪教を広めるローマン聖教国に攻め入り滅ぼしたら、周辺の小国は何も言わずにバーバリアン王国に従属する。そうすればこの大陸はバーバリアン王国が制圧するのだ。わかったら早く殺せっ!」
その瞬間にブルースは男の首を飛ばした。
「アーサー、今の話聞こえたか?」
「ああ、バーバリアン王国にはロシアン帝国がついている……」
「ローマン聖教国も滅ぼすと言っていたな?」
「ローマン聖教国はバーバリアン王国の向こう側にある。このフライブルク王国からはバーバリアン王国が邪魔をしていて国交を樹立するのが難しいのだ」
「ではローマン聖教国がどうなっているのかはわからない、ということか」
「ただ、砂漠の流れ者たちが中継して、親書を持ってくるな」
「砂漠の流れ者?」
「バーバリアン王国の東側には砂漠があるんだ。そこに砂漠の流れ者と言われる民族が住んでいる。彼らは敬虔な聖教会の信者でな、聖教会の親書を砂漠を越えて、さらに山脈を越えてフライブルク王国に持ってくるんだ」
その時、ブルースが部屋に入って来た。
「そのローマン聖教国から砂漠の流れ者がきて、バーバリアン王国が攻め込むことがわかったんだよ」
「ローマン聖教国が教えてくれたのか?」
「そうだ。そこにはシアのことが書かれていたよ」
「……俺のこと?」
「ローマン聖教国は国境に頑丈な砦を築き上げている。常備軍を聖十字軍というが、その兵が5万ほど国境を守っている。だが、バーバリアン王国が50万の兵で攻め込んで来ているらしい。そこでルナテラス様に祈ったらシア・ペルサスが救いに来るから耐えろと言われたそうだ。また、ルナテラス様はシア・ペルサスに伝言をしてくれと言ったらしい」
「俺に伝言を……?」
「ああ、ルナテラス様からの伝言らしい。バーバリアン王国はロシアン帝国を操る魔の者……。魔を誅してください……そこまで言ってルナテラス様のお告げは消えたそうだ」
「はっきりとわからないね……?」
「それに魔を誅してくれって?」
「ではバーバリアン王国は……?」
「わからないね……」
「けど、悪鬼みたいな奴がいることだけは確かそうね」
「どちらにしてもぶっ飛ばすしかないってことだな」
「こういう時のノイマンはやはり脳筋だな」
「でも、それしかないよな」
「いや、その前にできることをしておこうよ」
「シア、何をするの?」
「今のローマン聖教国の話を聞いて思いついたんだけどね、バーバリアン王国が進軍してくるのはあの山脈の間にある大きな街道だよね。その街道が平原に出るからそこがいつも戦場になる」
「確かに、そうなるわね。平原からこのランドリーに続く道は狭くて道の両脇は崖になっているから、このランドリーは守りやすいのよ」
「ああ、だからね、ランドリーに続く道の前に土魔法で大きな壁を作ってやろうかと思ったんだ」
「壁を作るの?」
「なるほど、砦にするのか。そうすればランドリーに侵入することはできないな」
「お前たち、そんなことしたら壁の向こうにいる奴が退却できないぞ」
「退却の心配はいらないよ。ブルースさん」
「……シア、どういうことだ?」
「壁の向こうには俺と小太郎が行く」
「……シア、お前」
「……シア、俺たちに訂正しろ」
「ああ、何のために来たと思っている」
「一人でかっこつけるなよ」
「シア君はかっこつけなくても、カッコいいです」
「寸劇のネタ欲しいから、壁の向こうには付いて行ってあげるよ」
「……みんな……ありがとう。では……」
「ああ、全員でやろうぜ」
シア達は戦場となる平原からランドリーに入る道を封鎖した。20万の兵士が例え全力でぶつかっても絶対に壊れない強度で作られたその壁は後世まで残り、人々はシア・ペルサスの強大さを壁に触りながら実感したという。
シア達はさらにランドリーの周辺にも不測の事態に備えて壁を作った。出来る限りの対策をとったシア達は早めに就寝すると、朝早くから戦場となる平原に向かった。その場所に立った時シアの胸にかつての記憶が甦る。ハンジンを殺しそのまま戦った場所。数多くの人を殺し、その命を奪った後何も考えられなくなった場所。ルーナの胸にすがりつき声がかれるまで泣いた場所。泣いていた自分を友人たちが抱きしめて一緒に泣いてくれた場所。その時の光景はいまだに瞼の裏から離れることがない。
皆も同じ気持ちだったのだろうか。自然に彼らは肩を組んで集まっていた。これからも、この先も道が続く限り、命がある限り友でいようと誓い合う彼らの視線の先に、バーバリアン王国の旗を掲げた軍が現れたのであった。




