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42,龍殺し

 ノイマンの武道着も素晴らしい効果があった。ノイマンの素早さが急上昇したのである。ノイマンは身体強化が出来るため普段から相当早く動けるが、この武道着を着用することで身体強化をした状態からさらに早く動けるようになっていた。おそらく一般的な人だとノイマンの動きを目で追うことは難しい。残像が見えれば御の字であろうか。


 71階層は灼熱地獄であった。地面からマグマが吹き出し歩く場所がない。

「一気に難易度が上がったな。どうする?」

「流石に今までのように魔法なしというわけにはいかないな」

「だけど、ここまで来たからな……」

「じゃあ、歩けるように道だけは魔法で固めよう」

「そうだな。それがいい」

 シア達は魔法でマグマを冷やし固めるとその上を歩いて行った。

「まずは火の鳥だな。あれは水属性をまとわせてから攻撃しろ」

 それを聞いたアーサーが大剣に水属性を纏わせて攻撃をすると、火の鳥は一気に蒸発した。

「階層そのものが灼熱だと、やはり火属性の敵が多いのかな?」

「かもしれないね。小太郎様、宝箱をお願いします」

「いいよ~ あれえ~?」

「ミミックだっ!」

 小太郎がミミックを弾き飛ばして瞬殺したのだが、その瞬間シア達を地震が襲う。

「ちっ、罠か、離れるな、固まれ」

「床が抜けるぞ、天井も落ちてくる。結界で全員を囲うから固まれ」

 シアが全員を一塊にして結界で覆う。ダンジョンそのものが崩壊する勢いで崩落した。


「全員無事か?」

「ああ、揃っているみたいだな。油断するなよ」

「何かいるな……」

 ルーナが光魔法で明かりをつけた瞬間、シア達は一斉に魔物達に襲われた。

「モンスターハウスのど真ん中かよ」

「だが、これくらいなら……」

「いけるな」

 それからしばらくシア達はモンスターハウスで戦い続けた。だが、

「何か、敵が強くなってないか?」

「うん。同じ敵なのにだんだん強くなっているな」

「また、地震よ。集まってっ!」

 シアが結界で全員を覆うとまたしてもダンジョンが崩落した。


「かなり深く落ちたな」

「うん。大丈夫か」

「だが、ここは……」

「広いな、それに空があるぞ……」

 シア達の目の前には青空が広がり、先が見えないほど広大な平原が広がっていた。

「……あれを見てみろ」

「あれは……地龍か……」

「それにゴーレムだな。50ぐらいはいる。それもでかいな3メートルくらいはあるぞ」

「地龍が首を起こしたな。あいつ全長どのくらいあるのかな?」

「わからんが……ゴーレムが来たな」

「シアと小太郎は右から頼む。俺たちは左から行こう。最後に中央で合流しよう」


 ノイマンの指示で二手に分かれたシア達はゴーレムを両端から攻撃する。

 右からシアの神威がゴーレムを斬り裂き、小太郎が頭を弾き飛ばす。

 左からはアーサー達が着実に一体ずつゴーレムを倒していた。

 ゴーレムの攻撃をアラガンが受け、反撃の楯がゴーレムに衝撃を与える。ゴーレムがひるんだところに、足の関節をノイマンが指示すると、左をアーサーが大剣で切り付け、右をエマが槍で射抜く。ゴーレムが足をなくして態勢が崩れた瞬間、ノイマンが胸に飛び掛かり魔石を抜く。ルーナは空を自在に飛びながらゴーレムの注意を仲間たちからそらし、牽制を続けていた。


 ゴーレムが数を減らし続け、残り数体になった時、急に空が暗くなった。

「逃げろ。地龍が踏みつぶしに来たぞっ!」

 シアの叫び声がすると全員が全力で逃げだした。身体強化をした状態で一気に数百メートルは逃げたはずであったが間一髪であった。特に大楯を持っており動きの鈍いアラガンは目の前数十センチの地面がいきなり陥没し、その衝撃で吹き飛ばされた。

「アラガンっ!」

「くそっ、飛ばされたが無事だ。このくそ地龍、これでもくらえ!」

吹き飛ばされたアラガンは大楯を背負い、鋼鉄製のハンマーを手にして魔力を浸透させると地龍の足を殴った。


「矮小な人間どもよ。またしても貴様らか」

「……またしても?」

「この額の傷を忘れたとは言わさんぞ……、貴様らは許さん」

「ランドリーでブルースさんに連れられていった時の地龍か」

「ああ、しっぽを巻いて逃げて行った臆病な地龍だ」

「泣きながら、ママ~って叫んで逃げて行ったヘタレの地龍ちゃんね」

「おしっこもちびっていたよね~」

「弱い地龍ほどよく吠えるっていう諺がありますよ」

「怖がりのチンピラほど格好だけでいきがるからな」

「ちゃんとお風呂に入ってますかぁ、臭いますよ~」

「何の臭いかな~」

「アーサー、地龍ちゃんが傷つくから、怖くてう○ち漏らした臭いとか言っちゃダメだよ」

「でもさぁ、臭いよね」

「そりゃあね、う〇ち臭いけどね~」

 シアは仲間たちが口々に地龍を煽りだしたのを聞いてあっけにとられていた。

 その時、アーサー、アラガン、エマ、ルーナが言う。

「シア、小太郎、この臭い地龍は俺たちで倒させてくれ」

「……わかった。ただ、危ないと思ったら介入するからな」

「助かる。シアがいてくれるから、思い切りいけるな」


 そう言うと、いつの間にか集まっていた仲間たちは全員が地龍の頭に登り始めた。その間、何故か地龍は全く動かない。全員が額に集まると一斉に攻撃をはじめた。

 エマが思い切り魔力を通して剛性を極限まで高めた槍で額を突き続ける。アーサーも同様に大剣で切り付け続ける。アラガンが狂ったようにハンマーで叩き続け、ノイマンは殴り続ける。そして……

「あれぇ、地龍ちゃん、もうちびっちゃたの?」

「地龍ちゃん、そんなに大きな体なのに、矮小な人間の攻撃が痛いの?」

「地龍ちゃん、痛かったら泣いてもいいのよ。ママ~って」

「あれぇ、また逃げちゃうの。地龍ちゃんは弱虫なのねぇ」

 そう、地龍ちゃんが動こうとすると、ルーナが耳元で地龍ちゃんを煽るのだ。

 煽られた地龍ちゃんは意地になって動かない。シアは小太郎とその光景を呆れた思いで見ていた。

(……小太郎、相手は地龍だぞ。普通人間が勝てるわけがないのだが……)

(でもさぁ、あの額の鱗割れてきているね~)

(それにしても、煽ると地龍は動かなくなるんだな)

(いつもシアと小太郎はすぐにやっつけちゃうから知らなかったね~)

(あいつら魔力は使っているけど、魔法は封印したままだな……)

(よくあんなに連続で攻撃を続けるね~)

(でも一番怖いのは……)

(……ルーナだね~)


 シアと小太郎の目には一心不乱に地龍ちゃんの額を攻撃する仲間よりも、耳元で地龍ちゃんの心を抉り続けるルーナが最も恐ろしく映った。


 地龍ちゃんに対する攻撃は数時間ほど続いた。

 数時間も攻撃を続ける仲間たちも凄かったが、その間地龍ちゃんの心を抉り続けるルーナの煽り言葉の多彩さが最も凄かった。やがて、

「うっしゃ、鱗が落ちたぞ」

「全員で一気にやろうっ」

「せーのっ!」

 龍の急所を守る一番硬い額の鱗を剝がした彼らは一斉に攻撃を繰り出した。

 エマの槍が、アーサーの大剣が、ノイマンの拳が、アラガンのハンマーが地龍ちゃんの剥き出しの急所を一気に攻撃する。そしてルーナが突き刺さったままの皆の武器に一気に強烈な魔力を通した。その瞬間、シアと小太郎が座って観戦していた場所が地震で揺れる。

「小太郎、倒したみたいだな」

「凄いね、人間が地龍を倒しちゃったよ」

 やがて、地震がおさまると流石に疲れて地龍ちゃんの上でへたり込む仲間たちの元へとシアと小太郎は駆けつけた。

「凄いな、感心したよ」

「凄かったね~」

「前回は逃げられたからな、よかったよ」

「ああ、馬鹿にすると動きが止まるのを覚えていてよかったな」

「前は体力が持たなかったけど、今回はいけたわね」

「私は耳元で囁くだけだったので、楽をさせていただきました」

「でもさぁ、こいつはどうやってここに来たのだろう?」

「そう言えばそうだな。この巨体が通れるところなんてないよな」

「わからんが、考えてもしょうがないよ」

「見ろよ、地龍ちゃんが消えていくぜ」

「地龍ちゃんのおかげで、俺たちも龍殺しになったぜ」

「そうね。ちょっとは胸を張ってS級冒険者を名乗れるね」

「お前たちは凄いよ、自信をもっていい。記念に額の鱗は回収したよ」

 消えゆく地龍ちゃんを眺めながら、シアは仲間たちに賞賛を惜しまなかった。


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