39,生きた証
実際のノイマンの戦い方は脳筋というよりも武闘家のようであった。ノイマンは頭脳明晰なだけではなく反射神経が異常に優れていたのだ。しかも頭の回転が異常に早いために敵の動きの先の先を読み、最小の手数で敵を倒し続けたのである。40階層から50階層まではリザードマンだけではなくゴブリンキングやオーガキングも出てきたが全く危なげなかった。
そのまま快調に50階層までたどり着いたシア達は少し休憩することにした。ボス部屋がなかなか開かず、しかも長蛇の列ができていたのである。どのパーティーも重装備でしかも人数が多いために順番待ちの行列も長くなっていたのだ。エマが数えるとシア達の前に38人もいた。シア達が休憩していると前に並んでいた人達が話しかけてきた。
「君たちもここまで来たということはA級以上なんだね?」
「そうです。俺はSS級で、彼らは全員がS級ですね」
「SS級って……まだ若いのに。君たちは凄いな。いいお宝は出たかい?」
「うーん、鋼鉄製の剣、鋼鉄製のハンマー。鋼鉄製のナックル……」
「……全部はずれじゃないか」
「えっ、全部はずれ……」
「ああ、40階層のボス部屋で俺たちがとったのはこれだよ」
「綺麗な槍ですね……」
「ああ、持ち帰ってから見てもらわないとわからんが、ミスリルとオリハルコンで出来ているような気がするな」
「ミスリルにオリハルコン……」
「俺たちは鋼鉄だよな、ひょっとしてノイマンのナックルはミスリルとか?」
「いや、正真正銘の鋼鉄製だな……、悲しいが……」
「あとは30階層ではこの剣が出たよ」
「それは?」
「この剣を振ると、火炎攻撃ができるんだ。魔力の消費もないし高く売れるな」
「30階層は……鋼鉄製のハンマーだったな……」
「俺たちはA級だからここまでしか進めないが、君たちはもっと深くまで進むのだろう?」
「そうですね。とりあえず進めるだけ進みます」
「なら、この先は敵も一気に強くなるが、お宝も凄いらしいから期待しておけよ」
「……そうします」
「では、俺たちの順番が来たようだ。お互いに頑張ろう」
そう言うと、その人はシア達に拳を差し出した。シア達は順番にその人の拳に自分の拳を軽く合わせて健闘を祈った。
「早いな……」
「ああ、もう扉が開いたな」
「行ってみるか」
シア達はこれまでと同じように気軽にボス部屋に踏み込んだ。すると、小太郎が一気に飛び出して叫ぶ。
「毒だ~」
その声を聞いたシアが全員を包み込む結界を張る。フェンリルの小太郎に毒は全く無意味である。シアにも毒は全く効かない。だが、ルーナ、エマ、アーサー、ノイマンたちはいくら強いとは言ってもただの人間でしかない。アラガンはドワーフであり人間よりは多少は毒に耐性があるかもしれないが、どこまで耐えられるのかは未知数である。そこで結界を張ったシア達に小太郎が言う。
「これって、さっきの人だよね。同じ匂いがする~」
シア達の目の前にあったのは紫色に変色しながら徐々にダンジョンに吸収されつつある白骨遺体であった。
一瞬でシアの頭に血が昇った。ほんの数分前まで拳を合わせた人が今や白骨と化している。神威を抜くとシアは弾丸のように飛び出して目の前にいたポイズンドラゴンをみじん切りにした。ポイズンドラゴンは全長15メートルほどの大型の蜥蜴で、その口から猛毒の液体を吐く。その液体は吐き出されるとすぐに気化して毒ガスに変わり、吸い込んだ生物は内臓から腐ってしまう。ポイズンドラゴンは腐りかかった死体を好んで食べ、骨も紫色に変色すると朽ちて柔らかくなり、彼らの食事とされてしまうのだ。
ポイズンドラゴンを一瞬で屠ったシアは首からかけられていたはずのタグを拾った。彼のパーティーは7人であったが、シアが拾ったタグは実に38もあった。それは先ほどシア達の前で順番を待っていた人達全員がここで命を散らしたことを意味した。
「A級冒険者38人がここでやられたのか……」
「全員ではないな……」
「というと?」
「A級冒険者3人がパーティーを組めば、同行者としてB級、C級もついていくことができるってクレアさんが言っていただろう」
「確かにタグにはB級、C級の人もいますね」
「荷物持ちを雇ったりして、A級冒険者が同行させるのだろうね」
「でも……」
「ああ、憂鬱だな、でも俺たちがやることは変わりがないさ」
「せめてタグだけでも持って帰ってやろう」
シア達はその場で膝を付き彼らの冥福を祈った。そしてシアは彼らのタグを亜空間収納に片付けると、宝箱に近づき開けた。
宝箱に入っていたのは毒消し薬と、10着の外套であった。
「アラガン、この外套何かわかるか?」
「多分防毒の外套だね」
「防毒の外套?」
「うん。この外套を着ていれば毒を防ぐ効果がある。紫龍が使うような毒は全く防げないだろうけど、この外套は相当効果がある外套だと思うね」
「……皮肉だな、この外套があれば彼らは死ななくて済んだのに」
「でもそれは……」
「ああ、自己責任だ。命がけで挑んだ結果がそうだっただけだからな」
「うん。俺たちも一歩間違えばああなる」
「ちょっと次から気を引き締めて行こうか。調子に乗っていたかもしれない」
「ねえシア、あれは何かな?」
エマが指さす方を見ると大量の装備品が落ちていた。
「これって、さっきの槍……」
「ああ、この剣は……」
アーサーが軽く剣を振ると火が飛び出した。
シア達の目の前にあったのはおそらくこのダンジョンで彼らが得たであろう宝物であった。だが、不思議なことに亡くなった人達の遺品のようなものは全く残っていなかった。
「……どういう原理なのかはわからんが、持っていくか」
そう言うと、シアは宝物を亜空間収納に入れ、51階層へ下りたのであった。
その日は流石に全員気が滅入っていたのか階段を下りた横の部屋に入ると、テントを張り、食事をしてから休むことにした。
「なぁシア、彼らは何のために危険なことをしたのだろうな?」
全員が横になってから、アーサーがシア達に問いかけた。
「……お宝かな?」
「お宝を得てからどうする?」
「金に変える……か」
「じゃあ、その金でどうする?」
「……好きなものを食うとか、家族を養うとか」
「その先は何かな?」
「その先?」
「ああ、人が生きるのはなぜなのかな?」
「人が生きる理由か……」
「うん。死にたくないから生きるというのが究極の答えのようにも思う」
「だが、それだけだとは思いたくないな……」
「俺もそう思うよ……」
「何か生きた証みたいなのが欲しいね」
「生きた証か……」
「俺たちって、普通じゃないだろう?」
「そうだな。普通じゃない」
「俺も普通に勉強して王宮で政治家になると思っていたよ」
「俺も父ちゃんと鍛冶師すると思ってた」
「……自分がこうしたいとか、ああしたいとか思っても、その通りにはならない」
「でも、なることもあるよね」
「ああ、だから難しいし、簡単だと思う」
「難しいし簡単?」
「出来ないことはできない。出来ることは出来る」
「確かに、努力でどうしようもないことを望んでもダメだな」
「だからさ、努力して出来ることは取り逃がしたらいけないと思うんだ」
「そうやって必死に生きて、得られるものは逃がさない」
「それしかできないよな」
「だが、失敗しても命があれば次に生かせばいい。そうすれば失敗が失敗でなくなる」
「ふう、難しいな」
「ああ、だから着実に課題を解決しようぜ」
「そうだな。まずはこのダンジョンを制覇しよう」
「うん。やり遂げることが先だな」
「その時、振り返って取りこぼしたものがあっても、命さえあればまた拾えばいいさ」
「命は拾えないからな……」
「ああ、ダンジョンの宝箱に命が入っていたらびっくりするよ」
「そりゃそうだ、そろそろ寝ようか」
「ああ、おやすみ」
シア達はゆっくりと目を閉じて眠りについた。




