36,カルクレイル
シア達は銅像の前に立っていた。イルマはシア達にダンジョン攻略を勧めたのだが同行しようとはしなかった。クレインもあの街だけは絶対に行かないと頑なに拒否したのだ。その理由が目の前にあった。
「ねえこれって……」
「この剣を上に掲げて決めているのがカール様だよね」
「で、ちょっと胸の谷間を見せてセクシーポーズをしているのが……」
「……イルマ先生だね」
「こっちの筋肉ムキムキで、アレをもっこりさせて……」
「ぴちぴちの下着姿で……」
「ドヤ顔しながら……」
「ニカッと歯を見せているのが……」
「クレインさんだね……」
「恥ずかしいだろうね……」
「ああ、これは嫌だな……」
「おまけに街の名前も……」
「カルクレイルって……」
「最悪だな……」
彼らの目の前には恥ずかしい格好をしたカール・クレイン・イルマの銅像が立っていた。初めてダンジョンを攻略した彼らはこの街では英雄扱いされており、街の名前すら彼らの名前にちなんで付けられていたのだった。このカルクレイルのダンジョンは地下100階層まであるとされており、カール達以外の冒険者は最高で70階までしか到達していなかった。そのダンジョンをイルマは、
「とりあえず一週間ほどで攻略しちゃいなさい」
と、シア達に軽く勧めたのであった。
「まずは、宿に泊まってから明日準備しようか」
「そうだね。宿は王宮が予約してくれたからね。こっちだよ」
カルクレイルの街は王都から馬車で半日程であった。朝から馬車に揺られて夕方にカルクレイルについたシア達は、夕食をとり風呂に入るとそのまま疲れて寝てしまったのである。
次の日は情報収集を兼ねてカルクレイルの冒険者ギルドに行ってみることにした。
カルクレイルは小さな街であったが、カルクレイルの冒険者ギルドの中はダンジョンから出る宝箱を求めて多くの冒険者がたむろしていた。ダンジョンの入口には冒険者ギルドの職員と兵士が常駐しており、冒険者ギルドからの許可証がないと入れない仕組みになっていた。
その人ごみの中、許可証をもらうためにシア達は冒険者の列に並んでいた。
やがて、シア達の順番がくると、受付嬢がシア達に説明をはじめる。
「カルクレイルのダンジョンはC級の冒険者が10階層まで、B級の冒険者が30階層まで、A級の冒険者が50階層まで、S級冒険者は制限がありません。10階層ごとに大ボスが出る部屋があってそのボスを倒すと宝箱と帰還の水晶のある小部屋への扉が開きます。帰還の水晶を触るとダンジョンの外にある帰還の部屋に転送されます。帰還の部屋は全部で10部屋あって、10階層から帰って来た人は1番の部屋に、20階層から帰ってきた人は2番の部屋に、それ以降は3番の部屋、4番の部屋……10番の部屋と順番にあります。10番の部屋から帰って来ると、英雄としてカルクレイルの街が銅像を作ることになっています」
「……銅像が作られるのですか?」
「はい。必ず作られます。とてもカッコいい銅像ですよ」
「……カッコいい?」
「アレがカッコいい?」
そんなシア達の不安を無視して受付嬢は続けた。
「申請した階層をこえて先に進んだ場合は、ペナルティとしてダンジョン内で出た宝物を全て没収いたしますね。それから毎日ダンジョンの中は変化するので地図は無駄です。ダンジョンの外で地図を売るものがいますが騙されないようにしてください。ボス部屋の前と階段を下りた横の部屋は魔物が出ませんので、休憩場所にしてください。しっかりと準備をしてから行ってくださいね。では皆さんのタグを確認しますので出してください」
さっさとC級用の許可証を書こうとした受付嬢がここで固まってしまった。
「S級冒険者が五人に、SS級冒険者……従魔がフェンリル……」
その様子を見て、訝しげに奥から背中の曲がったお爺さんが杖をつきながらトボトボとやってきた。
「どうしたのじゃ?」
「……これを」
「……S級冒険者が五人とSS級冒険者にフェンリルじゃと?」
そして、シアの姿を見てお爺さんも固まってしまった。
「あの、許可証をお願いしたいのですが……」
「カール様……」
そう言うと、お爺さんは泣き出した。
落ち着いてからお爺さんの話を聞くと、このお爺さんはかつてダンジョン内で魔物に殺されそうなところをカールに救ってもらい、さらにダンジョン内で出る宝物も譲ってもらったのだそうだ。その宝物を売ったお金で高価な薬品を買うと息子に与え、息子の難病を治療したのだという。
「それが嬉しくてのう。カール様、クレイン様、イルマ様の銅像を作ったのじゃ」
「……じゃぁあの銅像は?」
「ワシが作ったのじゃよ」
「……」
「もうワシも歳じゃからの、今は孫がギルドマスターとして銅像製作をしてくれるはずじゃ」
「……いや、銅像はいらな……」
「さぁ、カール様の息子様たち、S級冒険者五人に、SS級冒険者、さらにはフェンリル。その雄姿を想像して銅像のスケッチを描いておくのじゃ。許可証はこれじゃ。サクッとダンジョンを制覇してくれ。ワシは10番の部屋の前で待つことにしようかの。楽しみじゃ」
そう言うと、お爺さんはシア達に許可証を手渡し、急に耳が遠くなったのか呼びかけにも答えず奥に引きこもってしまった。
「……不味いな」
「……不味いね」
「……不味いよね」
シア達は嫌な予感をさせながらも、気分転換も兼ねて街でダンジョンに入るための準備をはじめた。
道具屋に入ると、道具屋の店主にダンジョンに入るために必要なものを聞いた。
「まずは炊事道具だな。それから食料品。あとは着替えだな。それと女の子がいるのなら簡易テントは持っておけ。一番高い奴ならトイレもついているぞ。それと武器と防具だな。武器と防具はうちにはおいてないから、他に行ってくれ」
資金に余裕のあるシア達は金に糸目を付けずに最高級品を買いまくり、ダンジョンに入るための道具を揃えた。特にテントは一億エニの値段がついていたが、テント内に空間拡張の魔法がかけられたエルフ特製のテントらしく、男女別のトイレだけではなく水浴びができる場所もあった。エマとルーナのためにシアがポンと買ったのである。
「一億エニをポンと出すシアって男前だよな」
「ああ、王族の俺でも迷うよ」
「ふふふ。私のためだよ。シア君ありがとう」
「ああ、ルーナには気持ちよく過ごしてほしいからね」
「寸劇ネタね……、でも私も助かったわ」
「おっ武器屋が見えてきたな」
「アラガンがソワソワしているね~」
「小太郎、ドワーフの血が騒ぐのさ」
「でも皆どんな武器がいいかな?」
シア以外は魔法でしか戦ったことがないため、自分がどの武器が得意なのか正直言ってよくわかっていなかった。学園で一通りの武器をそれなりに使えるように訓練はしていたが、自分にとっての最良を決めるほどではなかったのである。それを決めさせるのが実はイルマの狙いでもあった。




