34,不穏な気配
対抗戦で手足を無くしてしまったグースであったが、見かねたイルマが千切れた手足をくっつけて治療をした。グースの心配というよりも一時の感情で人の一生を台無しにしたことをシアが後悔するのではないかという気持ちからであった。だが、いかにイルマといえどもグースの魂に刻み込まれた古代龍の怒りを消すことはできなかった。余談であるが、グースはその後学園を去ると家督を弟に譲り、田舎の教会で神父となり人々に神の怒りの恐ろしさを教え、清く正しく生きるように人々を導いたという。
一方、シアは……、
「うーん、しっかりと見てしまったが寸劇に使うには乙女の恥じらいが邪魔をする……」
「思い出すなよ……俺のアレ」
「そうは言ってもなぁ……」
「あれだけ堂々と見せつけたらな……、今やフライブルク王国の貴族達はアレの恐怖を刻み込まれているぞ」
「アレの恐怖って何だよ……」
「夜寝ているとシアのアレがアレするんだよ」
「……私なんかフライブルク王国の聖女とか呼ばれているらしいですよ」
「誰よりもアレを見ていたのにね……不純な聖女」
「不純な動機で見ていません。シア君のアレは私のアレです」
「……そのセリフは使えるな」
「……全く、で、目の前の光景になっている、と」
シア達の目の前には一斉に土下座をするAクラスの生徒とその父兄がいた。その後アレクサンドロス王は不平不満を言っていた貴族たちに言い放ったのである。
「シア・ペルサスを怒らせるとフライブルク王国など一瞬で滅ぶ」
と。実際にシアの殺気を受けた貴族達はシアの怒りを解くために必死であった。
だがシアは、
「別に怒ってもいないし、グースはイルマ先生が治してくれたし、お互い頑張りましょう」
とだけ言って、いつものようにSクラスの友人たちと学園に戻ったのであった。
数日後、日常生活に戻った彼らにイルマは新しい提案をした。
「あなたたち、ダンジョンに潜ってみない?」
「ダンジョンですか?」
「そう、フライブルク王国には三つのダンジョンがあるの。そのうちの一つは私とカール、クレインで制覇したけど、あと二つは挑戦すら出来なかったのよ」
「ダンジョンって、敵を倒すと宝箱が出るんだよね?」
「そうよ。段々と敵が強くなっていって、強い敵を倒せば倒すほどいいお宝が出るとか」
「確か10階層ごとに帰還の水晶があって戻れるんだっけ?」
「そうそう。10階層ごとに強烈なボスが出て、それを倒すと凄いお宝が出てくるんだよね」
「でもダンジョンに潜るには冒険者登録をして、決められた階層までしか潜れないのではないでしょうか?」
「だからね、これから冒険者ギルドの総本部に行ってクレインにランク判定してもらっておいで」
「冒険者ギルドに行けばいいのですね?」
「ええ、クレインには話をしてあるからすぐに登録できると思うわよ。早速いってらっしゃいな」
「わかりました先生。ありがとうございます。では全員で行こうよ」
シア達は学園を出て王都を歩きながら冒険者ギルド総本部へと向かったのであった。
考えてみれば、彼らが全員で王都を歩くのは初めてである。よそ見をしながら屋台で買い食いをし、怪しげな店に立ち寄り、おしゃれなケーキ屋でお茶を飲んでも責められることもないはずである。だが、彼らはついつい不運に足を突っ込んでしまうようだった。
シア達の少し先で衛兵たちがまだ幼い子供に話しかけていた。
「ねぇ、ぼく。おうちはどこかな?」
「親御さんが心配しているよ。おじさんたちと一緒に探そう」
「うーん、変だな……」
「うん。何か全く感情がない感じがするな」
「迷子には違いないとは思うが……、一言も喋らないな」
するとその時、衛兵達の目の前を一台の豪奢な馬車が通りかかる。その子は馬車を見るなり駆け出してしまった。
「あっ、危ない」
そう思った瞬間、その子は馬車に自ら体当たりをし、爆発してしまった……。
思わず目を背けてしまう光景が広がっていた。小さな男の子は原型を留めてはおらず、体当たりされた馬車もバラバラになっており、中に乗っていた人も性別すらわからないほど傷んでいた。すぐそばに居た衛兵たちも、またその周囲にいた通行人も大怪我をしている。シア達は戦場の光景と重なりあう異様さを感じ、全員が緊張を高めながら迅速に救助活動を行った。
シアとルーナが手分けして回復魔法を怪我人にかける。小太郎は王宮に連絡に走り出す。ノイマンとアラガンは火災の延焼を防ぐために魔法で鎮火させ結界を張る。エマはまだ危険があるかもしれないため野次馬達を追い払い、アーサーは回復した衛兵に報告を求めていた。
シア達は異常な緊張感の中で出来る限りのことをしていた。そこに冒険者ギルドから騒ぎを聞きつけたクレインが冒険者たちを連れて現れ、王宮から騎士団も駆けつけた。主にアーサーが騎士団に事情を説明して後を任せると、シア達は沈んだ気分でクレインに連れられて冒険者ギルド総本部へと向かった。
「一体何だったのだろうな……」
「ああ、何が起きているのか……」
「あの子が狙ったように見えたな……」
「私にもそう見えた……」
「……ではあの馬車をあの子が狙って自爆したとでもいうのか?」
「そうは言っても……」
「でも、そうとしか思えないのよね……」
「ほら、お前たち、ギルドに着いたぞ。とりあえず俺の執務室に来い」
クレインに促されてシア達は執務室に入った。
「イルマからはランク判定しろって言われたが、この間の対抗戦で実力はしっかり見たからな。それがお前たちのタグだ」
そう言うと、クレインは全員にタグを渡した。
「クレイン伯爵、S級冒険者アーサー・フライブルクって書いてありますが……?」
「S級冒険者 ルーナ・オースティン……」
「S級冒険者 エマ・ランドリー……」
「S級冒険者 アラガン・ドワイト……」
「S級冒険者 ノイマン・シュタイン……」
「SS級冒険者 シア・ペルサス……」
「あの、全く何の活動もしていないのですが……いきなりS級冒険者って」
「ちょっと、クレイン伯爵、過大評価では?」
「俺も昇級しているけど……」
「文句を言うな。それでも控えめにしたつもりだ。特にシアはSSSSS級冒険者でもおかしくない戦闘力だろ」
「SSSSS級って、無茶苦茶ですよ」
「だが、強さだけならお前たちの実力と等級は合っていないだろうな」
「いいか、何も実績がないのは承知の上だ。だが、そのタグがあればお前たちはダンジョンを制限なしで入ることが出来る」
「制限なしで入れる……」
「ああ、実績はそこで作れ。俺に恥をかかせるなよ」
こうして不穏な気配が忍び寄る中、フライブルク王国始まって以来の大量のS級冒険者が誕生したのであった。




