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30,転移

 全員が身体強化を覚えると、ブルースの引率でアーサー、ノイマン、アラガン、ルーナの四人は山脈地帯の魔物狩りに出かけることになった。シアは小太郎と一緒にバーデン男爵の屋敷で自分の課題である転移魔法を練習することにした。


「シア、次はここだよ~」

「よし、いくぞ」

「うーん、少しずれたね~」

「上手くいかないな……」

 シアは小太郎を目印にして近距離転移を練習していた。だが、どうしても思った地点からずれてしまう。それに、

「発動が遅いんだよなぁ……」

 どうしても一度頭の中で空間を折りたたむイメージをしてしまい、それが迷いに繋がって発動が遅くなっていた。さらに、早くしようと焦るとイメージ不足で大幅に転移先がずれてしまう。シアが悩んでいるとエリナが一服するように声をかけた。

「どうしたの? 何か難しい顔をしているわよ」

「どうしても上手くいかないんですよね」

 そう言って実演して見せると、

「うーん、私は凄いと思うんだけどね。何がダメなの?」

「転移先がずれるんですよね。それに発動も遅いし」

「ここからあの場所に飛ぶ感じでやっているよね?」

「そうですね。その間の空間を折りたたむ感じですね」

「それでいつもこちらに背中を向けて出てくるんだね」

「……背中?」

「そうよ。ここから見ているとこちらに背中を向けてシア君が出てくるのよ」

「……確かにそうですね」

「例えばあの木からこちらを見ている感じで風景を覚えてやってみたらどうかな?」

「試してみますね」

 シアがその木のところからこちらを見ている光景を思い浮かべて転移をすると、不思議なことに正面にエリナの姿があった。

「あれ、背中を向けてない……次は、さっきの景色を思い出してこの木を見ている感じで……」

 すると、またしてもシアの正面に木があり、エリナの横に寸分たがわず転移をしていたのであった。

「今度はこちらを向いていたね」

「そうですね。でも何か掴んだかもしれません……」


 それからシアは庭でひたすらに転移を続けた。空間を折りたたむのではなく、転移先の景色を覚えて、そこに自分が現れるイメージをしたのだった。数日練習を続けると、目を瞑っていても思った場所に転移することが出来るようになった。

 それからシアは小太郎と一緒に平原に出向きその景色を覚えると、一度バーデン男爵の屋敷に転移し、小太郎のいる場所に転移をするという訓練を繰り返した。すると小太郎が、

「シア、はっきり自分が景色を覚えているところなら遠くてもいけるんじゃないの~」

 と、言い出したので、自分がはっきりと景色を覚えているところに転移をしてみることにした。まずはついこの間までお世話になったヨハネス子爵の屋敷に転移をしてみた。

「おお、古代龍の子ではないか、どうしたのだ。つがいは一緒ではないのか?」

「エアパスか、成功したぞ」

「どうしたのだ?」

「転移の練習をしていたんだよ。バーデン男爵の屋敷の庭からきたんだ」

「ほほう。我を目印にしたのか」

「目印?」

「知らんのか。自分が飛ぼうと思う先に覚えやすい目印を置いておくのだ。その目印めがけて転移すればすぐに移動できる。つがいにも目印がついているはずだ」

「ルーナに目印が?」

「ふむ。交われば目印が付くのだ。まだ交わってはおらんのか?」

「交わるって……」

「まだ早いか……。頑張って練習するがよい」

「ああ、またなエアパス」


 そう言うと、シアは小太郎のもとに戻り、さらに練習を続けた。王都の学生寮、港町フィーネ、冒険者ギルドの総本部、王宮の庭、自分が見た景色の中の一つを思い出せば自在に転移が出来るようになっていた。ただ、

「一番覚えているはずの母さんのところにだけはいけない……」

 シアがマリアナのところに転移をしようとすると必ず途中の海に落とされてしまう。魔力量が足りないのかと思いエアパスに聞いても

「古代龍の子の魔力量ならこの星のどこにでも転移が出来るはずだ」

 との返事が返ってきたのである。

 悩みながらも何度も繰り返したが上手くいかなかった。そうこうするうちに、ブルースはルーナ達を連れて帰って来た。

 

 ルーナ達の修業はかなりの成果をあげていた。山脈を移動しながら狩れるだけの魔物を昼も夜もひたすらに狩り続け、ワイバーンどころか地龍まで相手にしていたのであった。

「地龍と戦ったの?」

「ええ、でかかったよ。背中が岩山になっていて木が生えているし、花まで咲いていたからね」

「立ち上がったら山みたいで、全く全貌がわからなかったよ」

「龍って話がわかると思って話しかけたのだけどね、いきなり攻撃してきて『矮小な人間如きが踏みつぶしてくれる』とか言い出してさ」

「アーサーがぶっ飛ばされたんだよ」

「それでアラガンとノイマンが地龍に殴りかかって」

「そしたらエマが地龍の頭を巨大な水球で覆ってさ」

「その隙にブルースさんがズドンと額に槍をくらわせてね」

「それから丸二日間ひたすら全員で地龍の額に魔法を打ち続けたんだ」

「ガハハハッ、俺だけは槍だったがな」

「額の鱗に傷がついたから、そこにエマが思い切り火魔法を放ってね、嫌がったみたいで、地龍が底の見えない崖下に逃げたんだよ」

「あのまま続けたらどうだったかな?」

「うーん、でも最後の魔法を放ったあと、エマは気絶しそうになってたよね」

「限界だったわね。基礎体力が大事だというのがよくわかったわ」

「そうか、みんな逞しくなったね」

「シアはどうだった?」

「かなり転移魔法は使えるようになったし、ヨハネス子爵の屋敷や港町フィーネ、王宮の庭や、寮にも転移できるようになったよ」

「凄いな。さすがシアだな」

「では、お母さまに会えたのですか?」

「……それだけが出来ないんだよ。何度やっても海に落ちるんだ。魔力量が足りないのかと思ったんだけど、エアパスに言わせるとそんなことはないっていうし……」

「……そうなんだ」

「シアなら必ず出来るようになるさ。落ち込むなよ」

「おう、俺の狩ったワイバーンの肉でバーベキュー大会しようぜ」

「おいノイマン、それはルーナが空に飛んで倒した奴だろ」

「いや、止めを刺したのはアラガンだ」

「どちらにしてもノイマンじゃないだろ。シア行こうぜ」

「シア君、大丈夫。私がついているよ」

「……寸劇……寸劇、台本書かなきゃ」

 いつものように明るく励ましてくれる友人たちに感謝をしながら、その日の夜、シアはバーデン男爵の屋敷でバーベキューをして、楽しい時間を過ごしたのであった。




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