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27,ランドリー

 シアとルーナ、小太郎はバーデン男爵家の領地に向かうべく馬車に揺られていた。

「みんなには本当に良くしてもらったね。楽しい時間が過ごせたよ」

「私もシア君を紹介出来て良かった。それにエアパスに空を飛ぶ能力に、さらに長い寿命まで与えてもらったしね……」

 ルーナはそう言うと涙ぐんだ。

「……少し不安だったの。シア君は私なんかから見ればとんでもない能力を持っているし、別の大陸の王族だし、予言に出てくる神の子……覇者の妻が私でいいのかなって……」

「……ルーナ」

「強化合宿でかなり能力も向上したし、自信もついてきたけど不安は消えなかったの。シア君は私にそばにいて欲しいと言ってくれる。でもね、私自身がシア君のそばにいたいと願っているの。守られるだけではなく、シア君の隣に立つために相応しい能力を身に付けて、私がシア君を守りたいと思うの……」

「ルーナが俺を守る……」

「だからね、エアパスが私に能力を授けてくれたのは本当に嬉しかった。私の能力が上がればシア君を守ることが出来るようになるかもしれない」

「ルーナ……」

「これから、バーデン男爵家の領地でみんなと戦闘訓練をするよね。みんな同じ気持ちだと思うの。でもね、私がシア君の一番であることだけは譲りたくないの……わがままかな?」

「俺にとってルーナが一番であることは今も、これから変わることはないよ。約束する」

 シアはルーナと寄り添いながら、自分を心の底から求めてくれる彼女の思いに応えたいと願い、自分の奥底から愛しいと思う気持ちが溢れてくるのを感じていた。隣同士で寄り添うシアとルーナの膝の上に、小太郎は顎を乗せ、

「ぼくも、シアとルーナの一番になるんだよ~、みんな家族だね~」

 そう言うと、シアとルーナは小太郎のふさふさの毛を慈しむように撫で続けた。

 バーデン男爵家の領地に入ると不思議な光景が広がっていた。街道沿いの馬車道から見渡せる平原のあちらこちらに、土魔法で作ったような一メートルくらいの高さの塀が規則正しく並んでいたのだ。さらに、開けた場所にはロープで目印がつけられ、罠注意の立て札がいくつも並んでいた。疑問に思ったシアがルーナに尋ねると、

「あの塀は馬よけね。あの塀に魔力を流すと槍が出るようになっているの。罠があちこちにあるのは、敵がまとまって侵入してこないようにしているのよ」

「バーデン男爵家は国境警備隊だったよね?」

「そうよ。ちょうどあの山脈を境にして向こう側がバーバリアン王国になっていて、この街道から見える平原がいつも戦場になるの」

「……いつも?」

「そうよ。バーバリアン王国はフライブルク王国とは犬猿の仲なの。国交も断絶していてバーバリアン王国の詳しい情報はわからないの。でも昔から言うのは、身分にこだわらないフライブルク王国に対して、バーバリアン王国は徹底した権威主義社会で好戦的。バーバリアン王国の王室の血は何よりも尊く、世界がその血の前にひれ伏すべきだと信じているから、全く両国が合わないということかな」

「考え方が両国で違うのはわかったけど、それが戦争の理由になるの?」

「あの山脈の向こうに領地を与えられるのは、バーバリアン王国の中央政権から左遷された者らしいのよ。そして、バーバリアン王国はフライブルク王国への侵攻を推奨しているらしいの。フライブルク王国に侵攻して、このバーデン男爵家の領地ランドリーに打撃を与えると恩賞がでて、さらに奪い取ると爵位が上がるらしいの」

「そうすると、この場所は……」

「常にバーバリアン王国の侵攻にさらされる最前線の街になるのよ。それにあの山脈は魔物が多いからね。だからエマが戦闘訓練にもってこいだと言ったのよ」


 さらに、ルーナによればバーデン男爵はフライブルク王国で一番の将軍であり、戦争がはじまると大将軍に任命され、アレクサンドロス王に代わって軍の全権を掌握して戦うのだという。その戦い方は緻密で守備的。攻勢に出ることもあるが、いかに被害を防ぐかを第一に考えて行動し、今までこの平原を突破されたことは一度もないという。

「エマのお父さんって凄いんだね」

「エマのお父さんと、うちのお父さん、それにアレクサンドロス王、コールマン伯爵は全員学園の同級生だったのよ」

「……そうなの?」

「うん。バーデン男爵は平民でしかも孤児だったの。でも学園を主席で卒業して男爵になってから、功績を挙げ続けたの。このランドリーは戦争で荒れ放題だったけど、バーデン男爵が領主になってからバーバリアン王国の侵攻を押し返して、山脈の魔物を狩ってランドリーを繫栄させたのよ」

 

 やがて、街道が山脈から離れるように折れ曲がり、いくつかの大きな砦を越えると活気ある街並みが現れた。街中ではあちこちに酒場の看板があり冒険者たちが出入りしていた。兵士の数も多く雑多な街並みではあるが思いのほか治安はいいのだとルーナは教えてくれる。やがてシア達を乗せた馬車が一軒の屋敷に滑り込んだ。その屋敷は敷地がかなり広く、花壇などの装飾も一切なく運動場のような庭が広がっていた。その先の建物はレンガ作りの頑丈な作りで、シアの目には要塞のように映った。シアとルーナが馬車から下りるとバーデン男爵をはじめ、友人たちも勢揃いしていた。


「よく来たなシア、ルーナ。歓迎するぜ。みっちりしごいてやるよ」

 バーデン男爵が豪快に笑った。その横でアーサー、ノイマン、アラガン、エマの四人がくたびれた表情で立っていた。

「みんな、どうしたの?」

「……なんか疲れてない?」

「ブルースさんが……」

「ブルースさんが……」

「ブルースさんが……」

「ブルース兄さんが……」

「ブルースさん?」

「わはは。ブルースはエマの兄だ。俺に似て脳筋なんだよ。こいつらは先にここに来たからな。毎日ブルースに可愛がられているんだ」

「可愛がられて……」

「しごきだよね……」

「そんなことを言っていると、帰って来たぜ」

 シアが振り返ると、クレインと同じような体格の筋骨隆々の大男が、頑丈そうな大きな黒い馬に乗って、手に大槍を掲げて走ってきた。シアの前に降り立ったその体からは覇気が溢れ、威圧感すら漂わせていた。

 ブルースはまずルーナを見て、

「ルーナ、久しぶりだな」

 と挨拶をすると、シアの顔面に向かって思い切り大槍を突き出し攻撃した。



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