23,実力
シア達は王都に戻ると全員で王宮に出向いた。そこでアレクサンドロスが成果を確認したいと言い出したため、シア達はアレクサンドロスと一緒に、魔導士団が魔法の練習をする王都郊外の荒地に出向いて行った。同行していた王宮の筆頭魔導士ムートンは、自らが率いる第一魔導士団を連れてシア達の実力を見定めようと考えていた。魔導士団員達は、
「実力が向上したとはいっても、しょせんは学生レベルだろう」
「王子もいるのだから、めったなことは言うなよ」
「ああ、だが全員がSクラスとのことだ。有能そうな者をスカウトしないとな」
「そうだな、後輩がいるかもしれない」
などと、懐疑的な者もいたり、期待を寄せている者もいたり様々であった。だが、共通するのは全員がシア達を下に見ていたということであった。
荒地に着くと、兵士たちが的を設置し始めた。
まずはデモンストレーションで魔導士団員が魔法を放つ。
「炎よ、敵を焼き尽くせ ファイアーボール」
「風よ、敵を斬り裂け、ウインドカッター」
「土よ、敵を貫け アーススピア」
「水よ、敵を押し流せ ウォーターフロウ」
訓練通りに魔導士団員達が次々に魔法を発動させ、的を壊していった。
魔導士団長のムートンは満足げに、
「よいだろう、ご苦労様だった。では、学生諸君見せてくれ」
と、余裕の表情で促した。
先手を取ったのはノイマンであった。ノイマンがニヤリと笑いながら的に向けて手を出すと、凄まじい暴風が吹き荒れて複数の的を一気に吹き飛ばし、さらに巨大な竜巻が吹き荒れ続ける。
「無詠唱、しかもこの威力……」
ムートンが呟いた途端に、アラガンが進み出て、ノイマン同様に手のひらを差し出す。すると、一気に数十メートルの巨大な土の壁が発生したのだ。呆気にとられる魔導士団員達を尻目にエマが続く。すると、数十メートルはあろうかという巨大な火の玉が、アラガンが作った土の壁に激突し土をドロドロに溶かしだした。灼熱のマグマと化した土の塊がノイマンの竜巻と融合して荒れ狂う。そこに向かってアーサーが手を差し出すと、巨大な洪水でも起きたかのような大量の水が灼熱のマグマに降り注ぎ水蒸気爆発を起こした。その爆風を抑えるためにルーナが巨大な結界を張る。結界の向こうに見える地獄絵図に魔導士団のみならず、アレクサンドロスも大口を開けて黙るしかなかった。
すると、イルマが得意げに、
「まずは第一段階の強化はこんな感じですね」
と、アレクサンドロスに報告をした。
「……凄まじいな。全く格が違う。それでこれが第一段階だというのか?」
「ええ、第一段階ですね。彼らが今見せた魔法は私が悪鬼たちと戦った時には既に使えたレベルです。それでも私は負けました」
「……彼らはまだまだこれから」
「ええ、もっと強くなります」
そう言うと、シアに合図をした。
シアは進み出ると手を軽く一閃させた。すると、すべての魔法が一気に消え去り、元の静かな荒野だけが残ったのであった。
帰り道、魔導士団員たちはムートンも含めて終始無言であった。その後王宮に到着するとイルマにどうすればいいのかを聞きはじめた。イルマは彼らの修行内容を伝えるが、魔力量増加はシアのような存在がいないと難しいので工夫が必要だと教えていた。ムートンたちはそれを聞いて、学生たちに負けられないと精進することを誓ったのである。
アレクサンドロスを大いに満足させたシア達Sクラスの面々は休暇に入ることになったが、その時エマが提案をした。
「シア、ルーナの領地に行ってヨハネス子爵に挨拶に行きなさいよ」
「挨拶に?」
「そうよ。ヨハネス子爵には会ったことがあるけど、ルーナのお母さんとお兄さん、それに妹には会ったことがないでしょ」
「確かにそうだね。ルーナと結婚するのならちゃんと挨拶に行かないといけないね」
「挨拶が終わったら隣の領地がうちだから、そこにいらっしゃいよ」
「バーデン男爵のところに?」
「うちの領地は魔物が多いの。ワイバーンも沢山いるしオークやオーガも多いのよ。私とルーナの戦闘の練習にはもってこいでしょ」
「なあエマ、それって俺も一緒にさせてもらっていいかな?」
「ノイマンも?」
「ああ、力を得ても振り回されていては意味がない。力を制御できないと暴れ狂って逆に被害は大きくなる。俺も参加させて欲しい」
「ノイマンの言う通りだな。そこでみんなが戦い方を覚えたらみんなの武器を考えて俺に作らせてくれよ」
「……アラガン」
「へへ。自分で言うのもなんだが、シアの神威は俺が作ったんだぜ。みんなの武器も作らせてくれよ」
「父上、王族としての執務もしっかりと勉強いたします。私も参加させてください」
「アーサーまで……」
「いいだろう。許そう。だがな、せっかくの休暇だ。少しは全員羽根を伸ばせよ」
アレクサンドロスの許可も出て、シアの友人たちは全員でバーデン男爵の領地に赴き戦闘訓練をすることになった。
また、イルマは実力を考えて全員試験を免除してくれたため、休暇後自動的に進級し、全員がそのままSクラスで二年生になることもこの場で決定した。
シアと小太郎はルーナと同じ馬車に同乗してヨハネス子爵に挨拶に行くことになった。エマ、ノイマン、アラガンの三人も同じ馬車でバーデン男爵の領地に出発し、アーサーは数日遅れでエマたちに合流したのであった。
ヨハネス子爵の領地はオースティンといい、自然の要塞に守られた土地であった。大きな崖と滝が魔物の侵入を防ぎほとんど魔物が出現することはなかった。また温暖な気候もあって貴族や裕福な商人たちが別荘を構え、王家の静養所もあった。そのため、比較的医療技術が高く、優秀な回復魔法士を輩出する土地柄であったのだ。
ヨハネス子爵もルーナの兄セインも回復魔法を得意としていて、特にセインは普段は診療所で民たちの病気を治しているとのことであった。ルーナの妹のリリーは今年6歳になるそうだ。そして母に似てお転婆だという。シアがお転婆の内容を聞こうとしたら、
「会ってからのお楽しみにしておいてね」
と、内緒にされてしまった。
だが、王都から数日間の旅路はシアとルーナの距離を加速度的に縮めていた。二人は照れることも隠すこともなく、実に堂々と婚約者同士として振る舞い、互いに阿吽の呼吸を身に着けるほど仲睦まじい姿を見せつけていた。馬車の中でも、宿屋でも、食事中も、寝るとき以外は常に離れることなく、楽しく尽きることのない会話を楽しみながら、一緒に仲良く過ごしていたのである。見せつけられ続けた小太郎が、オースティンに着いたときに、ほんの少しだけホッとした表情を見せたことは内緒である……。




