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21,魔法理論

 強化合宿の初日はイルマによる魔法理論の講義であった。これまでも学園で魔法理論の授業があったが、イルマの魔法理論は根底から違うのだという。ではなぜ学園でエルフの魔法理論を講義しないのかというと、人間の魔力量ではエルフと同等の魔法を発現することができないからとのことだった。仮に教えても何もできないのであれば、確実にできることを教えた方がいい、と考えてこれまでエルフの魔法理論を生徒には教えなかったらしい。


「まずは復習しましょうか。ノイマン君、魔法の基礎属性は?」

「火・風・水・土の四元素です」

「そう。それに光と闇の特殊属性を加えると六属性になるわね。ではエマさん、この属性を利用して魔法を発現させるのはどうするの?」

「えーと、人の魔力にはそれぞれ属性がありますので、その属性に応じた魔力が詠唱をすることによって魔法的な現象を発現させます」

「では、皆の属性は?」

 その問いに、アーサーは水、ノイマンは風、アラガンは土、エマは火、ルーナは光、と答え、シアはわからないと答えた。

「では、まず皆さんにはその属性を捨ててもらいます」

「属性を捨てる……?」

 訝しげに首をかしげる生徒たちにそう言うと、イルマは皆に見えるように手のひらを広げて親指に火をともし、人差し指に水柱を立て、さらに中指に風を、薬指に土柱を、小指に光を灯した。

「これが、皆が持っている全属性になるよね。闇を加えても同じです。これをね……」

 それぞれの現象がイルマの指をなぞって手のひらの中央に集まると混じり合いだした。

「……現象が混ざっている」

「……噓だろ。水と火が混じり合っているぞ」

「……でも消えたりしないでそのままだよね」

 混乱する生徒たちの顔を一通り眺めると、イルマは、それらの現象を消滅させた。

「現象が消滅したけど……」

「何かが同じように渦巻いているね」

「その渦巻いているものが魔力なのよ」

 そう言うと、魔力そのものを消滅させた。

「シア君も同じことができるよね」

 そう言われて、シアも同じことをやってのけた。

「先ほどシア君は属性がわからないと答えたよね?」

「はい。考えたことがなかったです」

「では、皆はなぜ自分の属性がわかったの?」

「5歳の時に教会で祝福を受けて、そう言われました」


 一般的にフライブルク王国では5歳になると、教会で祝福を受けて家族で子供の成長を祝う。その時に属性を判定する水晶を触り、属性を告げられることが普通のことであった。


「エルフはそれをしないのよ。シア君もしなかったでしょ?」

「そうですね。学園に入るまで属性とかは知識でしか知りませんでした」

「教会で属性を判定する水晶が示すのは最も強く発現する魔法属性なの。他の属性が無いということではないの。むしろ属性理論にこだわると古代龍の魔法や小太郎が使う念話なんて説明できないでしょ」

「……確かに属性では念話は説明しにくいな」

 小太郎の念話を研究しているノイマンがそう呟いた。


「魔法は、魔力に何らかの作用をさせて現象を発現させるだけ」

 とイルマは言い切った


「魔力に何らかの作用をさせるために人間が用いるのが詠唱ね。でも私もシア君も詠唱はしないでしょ。詠唱は魔法のイメージを固めるためには役に立つけど、詠唱にとらわれると詠唱通りの現象しか発現させることができないよね。詠唱以上のことをするには詠唱してはいけない。イメージだけで魔力に魔法を発動させる作用をさせないといけないの」

「……イメージ」

「そう、イメージね。それが詠唱の代わりになれば、属性を問わずにどんな現象でも発現させられる。ただね、どんな現象でも発現させられるけど、魔力量が少ないと途端に難しくなるのよね。だから魔力量がエルフに比べて少ない人間は、長い年月の間に勉強して、得意な属性を詠唱して発動させる方法を覚えたの」

「魔力量が多ければ詠唱が必要ない……」

「魔法の強さは魔力量に左右される。同じ亜空間収納でも私の収納出来る量とシア君とでは全く違う。シア君の亜空間収納には大陸が入るけど、私は建物一つが精いっぱいなの。皆さんにもそれぞれに強弱は確かにあると思う。でも魔力量を増やすことが、詠唱なしで魔法を発動させて、その魔法の強弱を決める最重要事項なのよ」


「では、どうすれば魔力量を増やすことが出来ますか?」

「簡単よ。でも相当苦しいわよ」

「簡単で苦しい……」

「全魔力を使い切って倒れたら、また起きて魔力を全回復させる……これをひたすらに繰り返すのよ」

 魔力を使い切ると、強烈な酩酊状態に陥って昏睡状態に陥る。当然に気絶してしまい魔力が回復するまで起き上がることが出来ない。そのため、連続で魔法を行使するような冒険者や魔導士団などは魔力回復薬を常備しておき、魔力を回復しながら魔法を発動させることが通常であった。

「シア君は魔力の譲渡はできるよね?」

「出来ます」

「小太郎もできるよ~」

「なら、全員が一日中訓練しても大丈夫ね……」

 それを聞いた瞬間に、アーサー、ノイマン、アラガン、エマは凍り付いた。ただ、ルーナだけが、

「シア君の魔力がルーナの中に……」

 とお花畑なことを考えていたのはご愛敬であろうか。


「では早速……と言いたいところだけど、まずは全員魔力を見ることが出来るようになりましょうか」

「魔力を見るのですか?」

「はい。これは毎日できます。魔力操作の練習にもなるので覚えてください。シア君は魔力が見えますから、何もしないでいいですよ」

 そう言うと、イルマは闇魔法で座学研修室の外から入ってくる光を完全に遮断した。

「まずはそうですね。皆さん目の前で手を合わせてください」

 暗闇の中で全員が手を合わせた。

「皆さんが魔法を発動させるときのことを思い起こしながら、手に魔力を集めてみましょう」

「……そうそう。流石はSクラスですね。優秀です。自分の手がほのかに光っているのが分かりますか?」

「……確かに光っている」

「ぼんやりだけど……見えるね」

「その光が自分の魔力です。では次に、足のつま先から魔力を徐々に上にあげて手に集めてください」

「……うわ、明るくなった」

「凄いね、これ」

「そうそう。皆さんとても良いです。次に頭の上から魔力を下に下して手に集めてください」

「……また明るくなったな」

「ああ、眩しいくらいだ」

「その状態で手に集めた魔力を一旦心臓に戻してください」

「……うう、バクバクいってる」

「息が苦しい……」

「我慢しながら心臓から下腹部へ、下腹部から右足へ、右足から下腹部へ、下腹部から左足へ、左足から下腹部へ、下腹部から右腕へ、右腕から下腹部へ、下腹部から左腕へ、左腕から下腹部へ、下腹部から頭へ、頭から下腹部へ……」


 イルマの誘導に従いながら全員が魔力を移動し始める。

「その魔力をもう一度手に集めてください」

 すると、先ほどの魔力の倍くらいの魔力がそれぞれの手に集まる。

「自分の魔力の光で目がおかしくなることはありません。眩しく思うでしょうが、光を睨みつけてください。慣れると平気になります」

 全員が苦しむ中、突然ルーナが、

「平気になった……額の中心から見える感じになっている……」

 と言い出した。それを聞いたイルマは、

「優秀ですね。サードアイが開いたみたいですね」

「サードアイ?」

「はい。第三の目です。肉眼にはない魂の目とでもいうものですね」

 すると、アラガンも、

「おお、本当だ。おでこから見えるぞ」

 と言い出した。続いて、ノイマン、エマ、アーサーの順番で見えるようになると、

「さて、普通は光を明るいところで見ることはできませんね。だから魔力は見えないのですが、今ならわかるはずです」

 そう言って座学研修室にかけていた魔法を解いた。室内に太陽の光が入ってくるが、全員が、

「「「「「はっきり見える」」」」」

 と、魔力を視認することが出来るようになっていた。



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