第五話
僕は小さなお庭の雑草むしりをしながら、アリの観察をしています。誕生日プレゼントでもらった『虫眼鏡』の使い勝手の検証を兼ねてます。
午後からは母さまと一緒にお店に行って、鑑定スキルの経験値獲得を目指します。
「やっぱり虫や植物は、まだ鑑定できないみたい」
アリやバラのつぼみを鑑定してみましたが予想通りダメです。
でもいいのです。虫や植物はまだ鑑定できないという、答えを知ることができたのです。そう考えればいいと教えてくれたのはジーヤです。
ジーヤは色々なお話をしてくれます。おしゃべりが大好きです。
ジーヤは若い頃、冒険者をしていたそうです。ジーヤいわく期待の超新星だったそうです。でも魔物との戦闘で、右足を痛め引退したらしいです。
その後、努力して礼儀作法と領地運営のサポート知識を勉強し、大貴族様の執事となり家令まで出世したそうです。
高齢を理由に大貴族の執事を引退し、今は母さまの執事として余生を過ごしているそうです。
僕とジーヤは血がつながっていませんが、ジーヤは僕のお爺ちゃんです。だって家族ですから。
「トキン、そろそろ出かけるわよ」
「はーい、母さま。今いきます」
母さまと二人で街のソプラ通りを進みます。
ソプラ通りは都市の東門と西門を曲線とアップダウンで結び、馬車が三台横並びに走れる道幅があるそうです。
通り沿いには、銀行、大学、大商会、ギルドなど大きな建物が並んでいます。
「トキン、ここからソプラ通りを外れて小道に入るわ」
「はい、母さま」
にっこりで答えます。
大きな建物と建物の隙間道を進みます。大人の人がやっとすれ違えるくらいの道幅です。
「ここよ。トキンも気になる物を見つけたら教えてね」
着いたようです。
看板は白色の下地に、ピンクの文字で書かれています。
生活雑貨・小物専門店
『野生のバニーガール』
母さまとおしゃべりしながら、アイテムを見て周ります。
すぐ気になるアイテムを見つけ、こっそり鑑定してみます。
鑑定結果
「銀ぶちメガネ」
良品
【老オオカミの瞳】
体力+10
老眼耐性+10%
やはり当たりでした。さっそく母さまに相談です。
「母さま、見つけちゃった。アンティークの眼鏡だけど、老眼と体力にプラスがあるの」
「まぁ、老眼鏡ね。ふうあいもいいし、これは買っていきましょう」
僕と母さまは、顔を合わせにっこりします。いくら特別な効果があるとはいえ、母さまは不要な買い物などしない人だからです。
おっと、また気になるアイテムを発見してしまいます。それも二つです。さっそく鑑定します。
鑑定結果
「ベッコウのヘアピン」
良品
【黄金蝶の髪飾り】
幸運+1
鑑定結果
「青金石のカフス」
良品
【ラピスラズリの袖留め】
幸運+1
どちらも当たりです。大当たりです。
『幸運にまつわる噂がある逸品は、借金してでも買え』という言い伝えがあります。
これは王国で広く知れ渡っている【王様と時の扉】という冒険物語に出てくる、老人の有名なセリフでもあります。
その老人はこうも言っています。
『幸運を百個まとい、地下神殿の十階を訪れよ。さすれば秘された妖精が、汝の前にミチを示すであろう』
物語の世界に想いをはせていたら、背後にただならぬ気配を感じます。僕の背中に冷や汗が流れます。振り向いてはいけないと、警戒の鐘が脳内で打ち鳴らされます。
「あら、バニーちゃん。うちのトキンに、なにかご用かしら」
母さまを見つけ、大急ぎで駆け寄り抱きつきます。危ないところです。
「いやだわ〜。そんな小さな子は守備範囲外よ〜ん」
不穏な台詞が聞こえたような気もしますが、まずは敵の確認です。
やはりこの世の者とは思えない生物です。
背は高く、筋骨隆々、剃られた髭あとは鈍い青色を放ち、赤い口紅と紫のマスカラを際立たせます。
上半身は袖なしの黒い肌着だけ、下半身は黒のブーメランパンツに編みタイツ。
頭頂部には布製の長い生地が垂れてます。
「小さな目利きがいるわ、と思って見守ってただけよ。さっそく来てくれたのね。ごゆっくり」
そう言い残して脅威は去っていきます。ふぅ、本当に恐ろしかったです。あれでは幻の左ストレートも届きそうにないです。
「トキン、向こうに素敵なバッグが何個かあるの。見てもらえる」
母さまも何個か目星をつけてくれたようです。
にっこりしながらついていきす。
このお店『野生のバニーガール』では合計七つの付与アイテムを鑑定できたのです。
帰りはソプラ通りではなく、裏の小道を進みます。
「トキン、お茶してから帰りましょう。ここのマロンケーキは美味しいのよ」
母さまはうれしそうです。僕もにっこりです。
お店のドアに小さく名前が書いてあります。
ロマン喫茶『愛に恋』
窓際の席に案内してくれた店員さんにマロンケーキとミントティーのセットを二つ注文します。
待ってるあいだ母さまと先程のお店『野生のバニーガール』でみたアイテムの会話を楽しみます。
僕が最初に見つけた三つと、母さまが見つけた一つ。合計四つのアイテムを購入したのです。
幸運にプラス効果のあるアイテムは、僕の貯めてるお小遣いから、お金を出してもらうようお願いしたのです。
母さまが購入したアイテムを鑑定した時はびっくりしたのです。
鑑定結果
「カエル革の小物入れ」
良品
【鬼蛙のヘソクリ】
容量×1000%
重量−95%
手のひらサイズのコインケースなのに、見た目の十倍の収納が可能らしいのです。
もの凄い値段のようでしたが、母さまは迷わず購入を決めたのです。
ちなみにお金は後日、ジーヤが届けるそうです。
マロンケーキとミントティーを楽しみ、母さまと小さなお家へ帰ります。
お家ではジーヤが夕食を作り待っててくれます。夕食後、『野生のバニーガール』で購入したアイテムを母さまと二人でジーヤに渡します。
「トキンが見つけてくれた眼鏡よ。老眼と体力に補正がつく逸品なの」
「銀ぶちメガネ」
良品
【老オオカミの瞳】
体力+10
老眼耐性+10%
いつも陽気なジーヤが、ふるふるしています。そして、しんみりしながら言います。
「ありがとう。長生きしてみるもんじゃのぅ」
僕も少し泣きそうなります。
でも母さまがバニーちゃんとの思い出話をしてくれて、楽しい夜の時間を過ごします。
トキンのメモ
鑑定 ランク1 (67/100)
・街の中でも野生の生き物はいる要注意
・幸運コレクション 2個