第三十七話
親愛なるトキン・ヴェネート様
トキン様のお便り、嬉しく拝見しました。
昨日はお誘いいただき、本当にありがとうございました。
楽しい会話と優しいエスコート、ふわりとした時間の中で、普段はなかなかできないお話しもすることができ、素敵なひとときとなりました。
頂いたヘアピンはとても気にいり肌身はなさずつけております。
またの機会にぜひお礼させて下さい。
ソフィア・トツカーナ
ふむ〜ん。
手紙を読み終え思います。
初めてみるソフィの書く文字はとても可愛く感じます。
ただし文面は無難です。
固いです。固すぎます。
僕の手紙のような自由さが無いです。
きっとお付きのメイドさんが考え書かされたのです。
ドアがノックされます。
「トキン、入っていいかしら」
「母さま、どうぞ」
「トキンと二人きりで話したいと思って。大丈夫かしら」
「うん、大丈夫」
「トキンのベッドに腰掛けてもいいかしら。あら、ソフィアさんからの手紙」
「うん、お礼の手紙。母さまも読む」
「ええ、ありがとう」
母さまが手紙に目を通して、また僕に返します。
「ありがとうトキン。私も伯爵夫妻から手紙をもらったの」
「そうなの」
「ソフィアさんを誘ってもらったお礼と、お茶会のお誘いよ。参加者はトツカーナ夫妻、私とトキン。それとソフィアさんだけよ」
「そうなんだ」
母さまはニコニコしながら言います。
「トキン、いくつか質問させてほしいの」
「うん、いいよ」
僕はにっこりで答えます。
「トキンは貴族の階級を全て言えるかしら」
「うん。公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵。大きくはこの6つの階級」
「そうね、トキンには簡単過ぎる質問だったわ。公爵は貴族階級ではトップね。トキンは私の子でもあり、レオナルドお兄様の子でもあるわ。そしてヴェネート公爵家ただ一人の後継候補よ。そのことは理解できるかしら」
「うん。ヴェネート公爵家の養子。レオナルド様の子にもなったの」
「そうね。それでお兄様からも手紙をもらってるの。トキンをトツカーナ伯爵令嬢と婚約させてもらえるかって言ってるわ」
僕とソフィが婚約
レオナルド様が言っている
「もちろんソフィアさんのご両親、トツカーナ伯爵夫妻もこの話には大賛成してるわ」
ソフィの両親も大賛成してる
「本来なら爵位が少し釣り合わないけど、そんなのは公爵家に丸投げするわ。それよりトキンはどう思うかが大事だわ」
「母さまはどう思うの」
「私はトキンの母親としての立場と公爵家の人間としての立場。二つの立場があるわ。どちらの立場からも最終意見は一緒よ。ソフィアさんならトキンの婚約者に相応しいわ」
母さまも賛成してる
「母さまはどうしてそう思うか聞いてもいいの」
「ええ、いいわ。私とトキンはつい先日まで、公爵家ゆかりの人間ではあっても、公爵家の人間では無かったわ。それはわかるかしら」
「うん。わかる」
「つまりつい先日まで、対外的には貴族ゆかりの者ではなく、普通の市民に見えていたのはわかるかしら」
「うん。わかる」
「市民に見えていた時と、公爵家の人と認識した今、ソフィアさんのトキンに対する態度は変わってるかしら」
「んーん、変わってない」
「ソフィアさんは市民か大貴族かでは無く、トキンという一人の人間に興味を持って、そして好意を持って接してくれた女性よ。母親の立場として賛成できるわ」
「うん」
「貴族としての立場はトキンなら言わなくても理解できると思うわ」
「うん、わかるよ」
「でも一つだけ言わせて、貴族だからこそソフィアさんとの婚約話があることを忘れないで。市民なら本来、話すことも叶わないわ」
「うん、わかってる。僕のお返事をしてもいい」
「ええ、聞かせて頂戴」




