第二十九話
僕は、不安な気持ちで、小さなお家に帰ってきます。
さっそく母さまとジーヤに、西門でのことと、バーン門番長の言葉を伝えます。
僕のお話に、ジーヤが目を細めます。
「エリザ、アンナ」
「「御意」」
ジーヤが二人の名前を呼ぶと、いつの間にか、僕の後ろに立っていた、エリザとアンナが外に駆けて行きます。
「さあトキン、今は心配しても何も始まらないわ。着替えてらっしゃい。もうすぐ夕食よ」
夕食を終え、陽も完全に落ちたころ、エリザとアンナは帰って来ます。
二人の報告はこうです。
迷宮ダンジョンから、数は少ないが魔物が地上に出て来てしまった。
居合わせた冒険者達が、これに応戦殲滅したのち、門番へ報告した。
門番は領主館に報告に走り、領兵が出動した。
領兵は冒険者と合流し、取り残された者達の、安否確認のためダンジョンに突入した。
しかしダンジョンの中は、いつも通りであり、冒険者も無事であったが聴き取り調査で戻れなかった。
念の為、今夜は全員ダンジョンそばで野営して様子見する。
明日の領兵増援を待って、冒険者は解散。領兵はダンジョン再突入して調査する。
地上に出て来た魔物は、領兵も確認し魔石も回収している。
「ふむ。楽観はできんが、様子見じゃのぅ。二人ともご苦労じゃった」
「エリザ、アンナ。お疲れ様。メイド室で、サーラが食事を温め直してるわ。部屋に戻って、ゆっくり休んでちょうだい」
二人は一礼し、リビングを出て行きます。
「みんな無事だったんだね」
僕は『たぬきの皮』さんや、タナーカさん達を思い浮かべます。
「トキン。明日の調査結果がわかるまでは、お家の敷地から出てはだめよ」
「そうじゃのぅ。仕方ないのぅ」
「はい、母さま」
「代わりにワシが明日から始める、領地運営の話を、ワカバと一緒に聞いてみる気はあるかのぅ」
「領地運営のお話をワカバと一緒に?」
「そうじゃ、ワカバはのぅ将来、執事となって領主様の手助けをする修行中なんじゃ。朝食前の一時間だけじゃ。それならアリの観察にも影響ないと思うがのぅ」
「僕も聞いてみたい。そしたらいつか、レオナルドさまのお手伝いも、出来るかもしれないし」
「トキンが手伝ってくれるなら、お兄様もきっと喜ぶわ」
明日の予定が決まります。
でも魔物の話も気になって、母さまの部屋で寝ることにします。




