第二十八話
「トキン様、おはようございます」
「えっ、え〜と、その」
「エリザです。もうすぐ朝食です」
「エリザ、うん、おはよう」
「フフ、髪がエメラルド色がエリザ、赤色がアンナ。そう覚えて下さい」
「そっか、わかったよ。エリザ」
僕はエリザに手伝って貰って、洗面と着替えを済ませます。
リビングのテーブルには、母さま、ジーヤ、サーラが先に座っています。
「母さま、ジーヤ、サーラ、おはよう」
にっこりで挨拶すると、みんなニコニコで挨拶を返してくれます。
僕が席に着くと、メイド二人が給仕して、テーブルに次々食事が並びます。
二人とも手際がいいです。
「トキン様、これから私サーラも、食事をご一緒させて頂きます。このあと私が給仕役となってエリザ、アンナ、ニンジーノ、ワカバの食事がありますので」
「うん、わかったよサーラ。二回に分けて食事するんだね」
「はい、本来なら私達、家人は纏めて後で頂くのが、」
「ほらほら、サーラ。そういうのは、ここでは無しって言ったでしょう。さあ頂きましょう」
食事を終えると、あっという間にテーブルから食器が消え、紅茶が並びます。
ゆっくり会話を楽しんで、紅茶を飲み終えます。
部屋に虫眼鏡を取りに戻ります。
そのまま小さなお庭に出ます。
アリの観察をするためです。
「ヒヒィ〜ン」
馬の鳴き声がします。
僕は急いで駆けつけます。
栗色の毛並みが綺麗な馬です。
馬丁長のニンジーノが、見習いのワカバに世話の仕方を教えています。
「ニンジーノ、ワカバ。おはよう」
「「トキン様、おはようございます」」
二人は声を揃えて挨拶します。
「この馬は、何という名前なの」
「この馬はまだ若くて、名前がねぇんでさぁ。だからずっとチビ助って呼んでます。トキン様が名付けてやって下せぇ」
「えっ、いいの?」
「もちろんでさぁ。馬も喜ぶと思います」
「じゃあね、フォルトゥーナはどう」
「フォルトゥーナ。いい名前を貰って良かったな」
「ヒヒィ〜ン」
僕はにっこりです。
エリザが食事だと二人を呼びに来ます。
僕は三人に手を振ってアリの観察へ行きます。
「ごきげんよう。トキン様」
まるで待っていたかの様に、声を掛けられます。
「こんにちは、ソフィアお嬢様」
僕はにっこりでぺこりします。
「トキン様は、ヴェネート公爵家の方だとか。どうして教えてくれなかったの」
「僕も知らなかったんだよ。それより様は無しで、これまで通りトキンって呼んでほしいな」
「そんなのむりよ。父さまと母さまに叱られるもの」
「その時は、僕がどうしてもと頼んだ。だからそうしなきゃ駄目だったと言ったらどう。だって僕達は友達でしょう?」
ソフィアお嬢様の、困った顔が少し明るくなります。
「わかったわ、私のこともソフィと呼び捨てにして。それで、おあいこよ、トキン」
「わかった、ソフィ」
僕はにっこりです。
「またお話しましょう、トキン」
ソフィもニコニコで手を振ります。
「うん、またね。ソフィ」
僕もにっこりで手を振ります。
久しぶりのアリ観察を堪能します。
でも至福の時間はあっという間に過ぎるものです。
「トキン様、アリアンナ様がティータイムにお誘いです」
顔を上げると、髪が明るい赤色をしています。
「わかった、アンナ」
アンナはニコリと笑顔を見せ、機嫌良く、手漕ぎ井戸をキコキコさせます。
タライに溜まった水で手を洗います。
ちょっと水の勢いが強いです。
席に着くとミルクティーとパンナコッタが並びます。
「やった、パンナコッタだ」
「ふふふ、トキンもサーラが作る、パンナコッタが好きなのね」
「うん、公爵邸で食べた時、毎日でも食べたいと思ったんだ」
僕はにっこりです。
母さまとサーラもニコニコです。
ティータイムが終わったら、鑑定屋さんの準備です。
手押し車に荷物を載せます。
「トキン様。私がお送りします。フォルトゥーナ号で」
「ほんと、フォルトゥーナで。やった〜」
ニンジーノはニコニコで、荷物を馬車に運び込みます。
僕は新しい家族が来てくれて、本当に良かったな、嬉しいなと、にっこりです。
門番詰所まで、フォルトゥーナ号に揺られ、パカパカと進みます。
フォルトゥーナ号は二人乗りのようです。
御者台を入れて三人までです。
小さな可愛い馬車です。
ニンジーノが、門番ズに手土産を渡し挨拶します。
みんなニンジーノとフォルトゥーナを歓迎してくれます。
「トキン様、夕食前にはお迎えにあがります」
にっこりでニンジーノと別れます。
小さなイスにちょこんと座って西門を眺めます。
小さな鑑定屋さん
『トキンの虫眼鏡』
開店です。
お客さんが来ないので、本を読んで待ちます。
誰も帰って来ないです。
門番ズの一人が街中へ向かい馬を走らせただけです。
しばらく待っても、まだ誰も帰って来ないです。
領兵さん達が西門から出て行きます。
僕は門番詰所に向かい、バーン門番長に尋ねます。
「バーン門番長さん、何かあったのでしょうか」
「うむ。今、それを確認しているところだ。ここに危険が及ぶ様なら、すぐ知らせる。トキンは心配するな。俺達が付いてる」
ニヤリの笑顔で、僕の頭を撫でてくれます。
「ヒヒィ〜ン」遠くから迎えに来たフォルトゥーナの鳴き声が聞こえます。
今日はお客さんが来ませんでした。
僕は胸の中がもやもやした感じで、小さなお家に帰りました。




