第二十話
朝からリビングで『幸運コレクション』を眺めたり、磨いたり、並べ変えたりしながら、にっこりの時間を過ごしています。
外は昨夜から続く大雨です。
アリの観察は出来ませんが、かわりに『幸運コレクション』の手入れをしています。
昨日、小物専門店『野生のバニーガール』で、母さまと一緒に買ってきた、ウォールナットという木材を使った木箱に『幸運コレクション』を入れていきます。
【黄金蝶の髪飾り】
【ラピスラズリの袖留め】
【新雪の指輪】
【黄金の耳飾り】
【翡翠の勾玉】
まず、この五つを入れます。
これだけで幸運+5になります。
ウォールナットの木箱を【山葡萄の編み袋】に入れます。
これで幸運+6になります。
僕のにっこりが止まりません。
母さまとジーヤもニコニコしながら見守ってくれます。
さらに続きます。
昨日、手にした幸運+1の【マホガニーの筆記箱】に【青鷲の羽根ペン】をセットします。
綺麗にピッタリ収まります。
この二つで幸運+2です。
【マホガニーの筆記箱】を【山葡萄の編み袋】に入れようと両手で触れた時です。
【マホガニーの筆記箱】が淡い光を放った様に見えたのです。
「光ったわね。トキン、今スキルは使ってないわよね」
「光ったのぅ。箱が自ら光を放った様に見えたのぅ」
母さまとジーヤが首を傾げます。
僕も首を傾げます。
ふむぅ〜ん。
「僕、持とうとしただけだよ。鑑定で観てみるね」
鑑定結果
【【幸運の筆記用具 共鳴】】
【マホガニーの筆記箱】
【青鷲の羽根ペン】
幸運+4
幸運の数値が二倍になっています。
羊皮紙に鑑定結果をメモして、母さまとジーヤに見せます。
「共鳴? 幸運の数値が+4になってるわ。こんな話、聞いたことないわ」
「もの凄い発見じゃのぅ。王都の魔道具ギルドの連中も知らんじゃろうのぅ」
「ジーヤ、王都の魔道具ギルドは幸運アイテムの研究をしてるの」
「してるじゃろうのぅ。魔道具ギルド本部は魔石を使った魔道具と【古代の逸品】のあらゆる研究をしていると聞く。その資金稼ぎの為に魔道具を製造し販売しておるんじゃ。だが一部の組み合わせで、効果の数値が上昇するとは知るまいのぅ」
「幸運効果がある筆記用具を、もっと集めて色々試してみたいわね」
「そうじゃのぅ。他にも共鳴効果を見込めるグループがあるかも知れんのぅ。ふ〜む、これは・・・」
【古代の逸品】の凄い秘密を知ってしまった気がしてどきどきです。
「う〜む、暇つぶしに話しておくかのぅ。トキン【王様と時の扉】の物語で幸運にまつわるセリフを覚えておるかのぅ」
僕はにっこり頷き答えます。
『幸運にまつわる噂がある逸品は、借金してでも買え』
『幸運を百個まとい、地下神殿の十階を訪れよ。さすれば秘された妖精が、汝の前にミチを示すであろう』
「うむ。若いころワシは、こう思ったのじゃ。『幸運を百個まとい』は幸運+1効果の付いた【古代の逸品】を百個手に入れろという意味じゃと。何故か幸運だけは+1の効果しか付かぬからのぅ。+2+3は聞いた事が無いんじゃ。しかし普通は百個持つどころか百個みることもかなわん。王様でも難しいじゃろうのぅ。そもそも見つからんのじゃ」
大雨の中、ジーヤの昔話に聞き入ります。
「若いワシはこうも思ったんじゃ。『地下神殿の十階』とはダンジョンの地下十階。ただしそこらのダンジョンでは駄目じゃ。ただの地下洞窟じゃからの。このカイン王国において『地下神殿』といえるダンジョンはただ一つ。迷宮とも呼ばれ、人工的な造りを見せる、ここシェーナのダンジョンを示すとのぅ」
僕たちが住むシェーナの街は、ダンジョン攻略に訪れる冒険者が集まったのが街の始まりとされています。
そのダンジョンは人の手が入った痕跡を残す複雑な構造で、当時の冒険者を苦しめたといいます。
複雑な構造のダンジョン
+ 冒険者が集い出来た街
故にこの街は「迷宮都市」と呼ばれています。
母さまが静かにレモンティーのおかわりをそそぎ、ジーヤに話の続きを促します。
「ワシは今でも「地下神殿」は「シェーナの迷宮ダンジョン」と考えとる。もし幸運アイテムが百個あるなら、すぐにでもダンジョン地下十階へ向かうわい。じゃが百個集めるなど夢のまた夢じゃと諦めておったのじゃ」
ジーヤがレモンティーを一口飲んで続けます。
「じゃが、たった今。百個持たなくとも、百個持つのと同じ効果を得られると、可愛いトキンが示してくれた。そうじゃ。正しい組み合わせを知り、幸運の共鳴効果で百をまとう。そして地下十階へじゃ。夢のある話じゃったろう」
ジーヤがニコニコしています。
雨の日の退屈しのぎに語ってくれたお話だと言います。
でも僕の身体の中に確かに染み込みます。
トキンのメモ
鑑定 ランク2 (55/200)
リペア ランク2 (59/1000)
幸運コレクション (10/100)
一部セット効果で数値上昇




