9 襲来
まともに戦えば逆立ちしても勝てそうにないからここは即決、男に任せてここを去ることに。
男は両手に短剣を持ち高速で移動、俺達から少し距離をとったところでドラゴンを挑発。ドラゴンは男に向かって黒煙をまとった炎を吐く。それを余裕を持ってかわす男。なんとかなりそうだな。
(さて、確か近くに村があったはず。ドラゴンから逃げたら、村に危険を知らせてやるとするか)
「お、お兄ちゃん……」
「ドラゴンめ、俺が相手だ!」
(こんなところに子供が!? くそっ)
ドラゴンがもう1度炎を。今度はあらぬ方向に向かって吐き出した。男が急に慌ただしく動き出す。ドラゴンが吐いた炎の先に向かって飛び込んでいった。何故そんな自殺行為な真似を。
飛び込んだ先には兄妹が2人。2人を抱えあげ飛び退くも、炎をかわしきれず、男は左足を焼かれてしまった。動きを見るに左足が完全に使えない状態のようだ。
いけない、このままでは彼ら3人、皆やられてしまう。
急ぎドラゴンに向かってスキルを使った。
(サッキマデセイテンダッタノニ・エクストリーム)
遠くで雷の音が聞こえ始めたと思ったら、頭上に雲が集まりだし、小粒の雨が降り出した。あー、あるね。快晴で洗濯物を干して気分良くお出かけしたら、途中雨が降り出し……。
「ガィヤァーー!!」
ドラゴンが苦しみだした。どうしたのだろうと見ているとマキネさんが「カースドラゴンは水が弱点」ということを教えてくれた。
男が足一本でドラゴンに向かって器用に飛び上がり、目と頭部にナイフを深く突き立てた。先程より大きな叫び声を上げ、もがき苦しみ暴れだす。木々を倒しながら暴れるドラゴン。最後に大きな断末魔の叫びを上げ、その場に倒れ絶命。
俺たちは彼らのもとに駆けつける。足は焼かれまだ動かせないが、治療すれば治るだろうとのこと。
「ふぅー、危ない。なに、こいつらを連れて行くくらいは出来るさ」
男が子どもたちを村へ連れて行くことに。倒れている木の枝を適当な大きさに切り、杖を作る男。彼らは軽く挨拶をし、村へ向かって歩いった。俺たちも国越えをするため森の中へ。
国境の検閲所に到着。衛兵に話しかける。先程の暗殺者が話通り手続きを済ませてくれていたようだった。
「転移者と女騎士だな、話は聞いている」
簡単に街に入ることが出来た。それどころかここでしばらく匿ってもらえることに。隣国の人たちがこの国の検査官を追い出してくれたようだ。「アイツラのことは正直嫌いだった」と苦笑いしながら話をする衛兵さん。こちらの眼を盗み難癖をつけて金品を強奪することもあったらしい。
上からしたまですごい国だ。
話を聞き、安堵とともに急に意識が遠のいていくことを感じる。それはそうだ、歩き続けた上、何度も戦闘をし気を張り詰めていたんだ。何度も死を覚悟した。
「転移者様!?」
俺は体を崩し倒れ、意識を失った。
その後、意識を取り戻したのはベッドの上。マキネさんが看病してくれていようだ。
俺が目をさますのを見て「よかった」と喜んでいる。
5日間眠り続けていたことを彼女から聞いた。そして俺が寝ている間に全てが終わったようだった。今俺がいるところはアクエルの隣国、アキナヨメス。あの後近くの街へ搬送さっれたそうだ。
隣国オカナボウがアクエルに侵攻、城を包囲。それを見たアクエル側は白旗を上げたという。こうしてアクエルは陥落、地図上からその名前を消した。
学者さんや支配層の人たちはあらかた片付けられたという。オカナボウ側にも悪名が轟いていたようだった。
少し気が晴れたが、それでも気持ちのいいものではないかな。普通に仲良く暮らしていけるのが一番だよね。
マキネさんからパンとスープを貰い、それを食べていた。彼女と談笑していると、部屋に男性が中へ。
「お気づきになられましたか。はじめまして、私はアキナヨメスの使いの者です。申し訳ありませんが元気になりましたら色々と調べさせていただきます」
俺のことを調べるため調査団が派遣されていたようだった。3日後、元の体調に戻った俺は様々な検査を受けることに。
マナ所有量や現世での記憶などを調査。現世の記憶は相変わらずほとんど覚えてない、わからないで通した。
数日間の調査が終わり、妙に警戒度が強い一軒の家屋へと連れられ行く。
「転移者殿、ひと目会いたく。私はアキナヨメスの王、イッセキです」
なんとアキナヨメスの王様が来ていたようだった。それから王様が色々と話を。
検査の結果、マナが全く無いということがわかった。しかしこれは一般的な生活をする上では問題ないとのこと。現に一般人はマナを用いず生活しているからと説明してくれた。
これまでも転移者がこの国へ来たことが何度もあったようだった。天災や、魔王討伐と多種多様な難問に立ち向かう転移者たち。使命を果たし終えると彼らには贅沢三昧の生活を生涯送ってもらったという。
いいね! ただ俺はアクエル王の欲により召喚され、「事」が起きていないし、世界に貢献したわけでもないので、贅沢三昧は出来ないという。それはそうだ。