6 不幸・大
トリノフンだけだと標的はガオウ1人だけ。エクストリームを追加することで部下もまとめて攻撃できるようになった。
ガオウがマキネの前に立ち、剣を抜いて振り上げた。く、もう考えている時間はないな。これでいくしかない。
「トリノフン・エクストリーム」
「と、とりのふん! 冗談だと思っていたが本当だったのかよ!」
「わ、笑わせるな!」
部下2人は大笑い、ガオウも笑って攻撃を中断。何でも良い、逃げるなら今しかない。
マキネさんのところへ駆け寄り、「逃げるぞ」と声をかける。手と腕を握り軽く引っ張る。反応は鈍いものの彼女は動き、俺と一緒に移動を開始。
「がーっはっは。こ、こら逃げるな。そっちがそんな状態ではいつでも追いつけるがな」
ん? なにか影が。頭上でとても巨大な物体が飛んでいることがわかった。
ドラゴンだ、でかいな。ゲームなんかではよく見るが、ここで見るのは初めてだな。いや待てよ、よく見る普通のドラゴンとは少し違う気がする。体表が金属のように光を反射している。金属でできたドラゴンか。
あっ! 急激に背筋が凍りつくような恐怖が俺を襲った。早くここから逃げなくては!
「くー、ようやく落ち着いた。まだあんなところか、すぐ追いつけ……。何だ、上かゴバッ」
巨大な金属の塊が降ってきた。彼らはそれに押しつぶされるように地面に埋まる。その物体の正体は。
う○こだ! ドラゴンのう○こだ! それは金属のドラゴンからもたらされたものだった。
ガオウの身体が微妙に動いている、どうやら生きているようだ。良かった、こんな悪党でも殺してしまうのはな。
はー、それにしても酷い国だ。彼女以外まともな人間が存在しないのではと思わせるほどに。伊達に王から兵士まで権力闘争をしているわけではないのだな。はー本当に酷い。
マキネは顔をうつむけ元気がないようだったが、意識を取り戻したようで、「行きましょうと」と率先して森の中を進み始めた。今1番辛いのは彼女だよな。しかしここはできるだけ逃げて距離を稼がないといけない。
それからしばらく歩き、夜になったところで進行を止め、寝る準備を。それにしても辛そうだ。顔面蒼白でまだ動きも悪い。
少し話でもするか。話すだけでも、吐き出すだけでも少しは気が楽になる。
「大丈夫ですか? 顔色が優れませんよ。心につかえていることがあるのなら話してみてください」
手頃な石があったのでそこにマキネさんを座らせ話をすることに。
「母を子供の頃に亡くなって私と父の2人で暮らしていたんですが、5年前、事故によって父が死亡、それから面倒を見てくれたのがあのガオウでした。父のように慕っていたのですが、まさか彼が父を手に掛けたいたとは」
悔しそうに拳を強く握るマキネさん。彼女は若い、多分俺よりも年下だろう。そうなると5年前ってことはまだ子供の頃かな。
父親代わりをしていた人が本当に父親を殺していた。なんとなく察してはいたがなんともやりきれない話だ。アイツの口ぶりからしてあわよくば嫁にしようともしていたようだし。だー、腹が立ってきた。今すぐ戻ってぶん殴ってやりたい気分だ。
しかしこのマキネさん、話をすればするほど良い人なのがわかる。ガオウを巻き込みたくないと言う話も正直感動した。
不運なのは周りの人間達が総じてクズなところか。むしろよく今まで、色んな意味で無事だったなと思う。これも日頃の行いが良いせいか。
彼女は涙を流している。ここはなんとか元気づけてやりたいところだが。
「俺はそこまで不運な出来事は起きたことはないけれど、常に微妙な不幸が俺を襲っているんですよ」
話の途中、森の奥から草をかき分ける音が。とっさに剣を構えるマキネさん。身体は大きいが無害な野生の動物だった。俺はほっと胸をなでおろした。
お、どうやプチ不幸が使えそうだ。
「ミズヒッカケ」というスキルを心で念じる。大型の野生動物が足を滑らせ、水たまりにダイブ。そして巨大な泥水の水しぶきが発生、俺に降り掛かった。
「例えばこんな感じにね」
コントのような出来事に思わずクスリと笑うマキネさん。俺に出来るのはこうやって気を紛らわせることくらいかな。
雨のときなんかよくある、車にひっかけられたりするんだよね。信号待ちしていてタイミングよく傘でガードしたと思ったら、今度は90度違う角度から飛んできたときは泣きそうになった。
ついでに念じるだけでスキルが使えることがわかったな。
「召喚されていきなり殺されそうになっているし、運が悪いと言えば悪い、かな」
「ふふ、そうですね。ありがとうございます、気を使っていただいて」