4 悲惨な国
捨てる神あれば拾う神あり。目から水が出そうになったがじっくり感動している時間はなさそうだ。
立ち上がり彼女の後をついていく。途中、1つの牢屋に兵士たちが雑に入れられているのを見た。この数を1人で? かなりの腕前のようだ。
彼女が先行、慎重に移動し城を抜け出した。うまくいったようだ。
「まだ安心はできません、引き続き慎重に逃げましょう」
今度は街の中を移動。何となく何処を移動しているかわかった。前に地図を見ておいたからな、勉強の成果がここで出たか。まさかこんな形で逃げることになるとは思わなかったけど。これで死刑囚の逃亡者か。悪いこと何もしてないのに!
それにしてもどうやって逃げるのかな。街の周りは壁で覆われている。更にその周りは水堀となっている。城塞都市ってやつだな。
「こちらです」
集会場だろうか、そこの扉の錠前を破壊しこっそりと侵入。1つの部屋に行き、本棚を横にずらすとそこには隠し通路が。マキネさんの話によると有事の際に一般人が逃げるための隠し通路だとか。
松明に火をつけ、通路に侵入。マキネさんの後をついていく。いくつか通路が合流する場所に。逃げる場所が複数あるのだろうな。
しばらくく歩き、隠し通路から脱出。ここは木こり小屋かな、木のかおりがした。外には薪が大量に置かれていた。
「なんとか街から逃げ出しましたがまだまだ安全ではありません。できるだけ逃げましょう」
街道、平原は危険ということで、森の中を移動。途中凶暴な動物が俺たちを襲ってきた。「お任せください」とそれらを軽々撃退するマキネさん。おぉ、強い。こうやって強いところを見ると何だか安心する。守ってもらえそうだからね!
ちなみに先程の凶暴な動物や人類に害をなすものたちのことを、この世界では「魔物」と呼ぶそうだ。
こうして半日ほど移動、小川があるところまで来て休憩を取ることに。
「お疲れさまでした。ここまで逃げればすぐには見つからないでしょう。本当なら熱いスープを作りたいところですが、火を起こすと見つかる可能性があります。これで我慢してください」
パンと干し肉をくれた。運動した後の食事はうまい。ふぅー、ようやく一息つけた。
「助けてくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。勝手に呼び出しておいてすぐに死刑だなんて」
本当にね。それから彼女は色々話してくれた。まずは俺を呼び出した経緯について。
本来なら国の危機ではなく世界の危機に召喚するべきなのが、王のやらかしが原因で国が滅びそうだから禁を破り、召喚して俺を戦わせようとしていたようだ。
国が滅ぶのなら召喚してしまうのはありではないかと聞くと、その件に関しては国を超え安定している国が召喚する権利を持つことになるとの話。
この国は歴史が古く、非常に安定した政治もあり長年その権利を持ち続けてきた。ところがここ最近は、大臣から兵士に至るまで凄まじい権力闘争に明け暮れたため、自分たちのことしか考えない人材ばかりになってしまった。更に王は悪逆非道の限りを尽くしていたようだった。そのために国が危機に陥ったという。自業自得ですというマキネさん。よりにもよってそんなところに召喚されてしまったのか。これは不運だな。
でも中にはいい人も居たのでは。学者さんは俺に良くしてくれたしね。
と思い聞くと、どうやら彼が王に俺を処刑する事を進めた人物であることがわかった。俺がいることで自分の権力が失われることを恐れたのではと。思い当たるフシがあるのではとマキナが言う。
ふむ、思い出してみると雑なところがあったな。特にクラスはしっかり調べなかった。マキネさんによると、たしかに時間はかかるが半日もかからない、調べる時間は十分にあったはずだとのこと。
それから俺が連れて行かれるときの笑い顔。そうかツボにはいったんじゃなく喜びの笑い顔だったのか。
悪人だな!
召喚に使用するアイテムは非常に希少なものが多く、中でも1000年に1度花を咲かせる「千年花」の花弁、このアイテムのおかげで実質1000年に1度しか召喚ができないとか。
ちなみに前回花が咲いたのは200年前。次回召喚は早くても800年後ということになる。
世界の危機に関しては天災、人災、魔物等とにかく危機と思われる時に呼び出す、といったふわっとした内容だった。
世界の危機にプチ不幸で立ち向かえるのか。うん、その時呼び出されても世界を救えなかったかもね。
これからに関しては、まずこの国を出る予定のようだ。東の国オカナボウと揉め事を起こしているから我々は西側の国アキナヨメスへ逃げている、とのこと。この国から稀に逃げ出す人がいるため、その国は受け入れ体制が出来ているようだ。アキナヨメスに入ることが出来れば俺たちの勝ちってところか。