3 死刑
言われた通りに。ふむむ、念じる念じる。おお、頭の中に文字群が。そしてみつけた、フレイムアロー。しかし様子がおかしい。白くなく灰色になっている。
かまわずためすことに。
「フレイムアロー!」
……、何も出ない。もう1度試すも出ない。学者さんが何が起きたのか尋ねてきた。
フレイムアローが灰色になっていると説明、すると困惑した表情で今日使ってないか聞いてきた。使ってないと言うと難しい表情をし、王様に何やら小声で話し始めた。
「む、むー。まあ本番はレアスキルだ。そちらを見ようではないか」
周りがざわめき始めた。どうにも空気が悪い。しかし出ないものは仕方がない。次は王様が言うようにレアスキルを使うことに。学者さんはやり方は同じと説明。白く浮かび上がった文字を唱えるだけ、と。
頭の中で念じる。うーん、数はたくさんあるけどほとんど灰色表示だ。
……駄目か、全部灰色表示。困って学者さんの方を見ると白い文字が浮かび上がった。王様にも。どうやら人にしかつかえないようだ。学者さんに説明、近くにいた兵士がやられ役をすることに。
「お、お手柔らかにお願いします」
こっそりフレイムアローをためす。灰色だ、使えない。
ではあらためまして。震えながら盾を構える兵士さん。少々気が引けるが頑丈そうな盾だ、大丈夫じゃないかな! さあ、レアスキルを兵士さんに向かって!
「トリノフン!」
兵士さんに向かってスキルを唱える。すると空にいた鳥から白い物体が彼に向かって発射された。
トリノフンが彼の首元に見事命中。よしよし、スキルを使えたぞ。
……、よしよしじゃねーよ! なんだよトリノフンって!!
学者の人がまた王に耳打ちを。話を聞いた王はみるみる顔を赤くする。
「ぬ、ぬぐぐ……、こんなヤツいらんわ! 死刑だ死刑、兵ども捕らえろ! どれだけ金を使ったと思っているんだ。その結果がトリノフンだと、ふざけるな!!」
え、えぇー!? 確かにショボイ能力だとは思うよ? だけど勝手に呼び出しておいてそれはないんじゃないかな。という俺の心の声は届くはずもなく、両脇を兵士に抱えられ、半分引きずるようにそのまま移動。
学者さーん、助けて! と思ってそちらを見るも顔を背けられる。口元を手で抑えているが笑いをこらえているように見えた。
トリノフンがツボにはまったのかな。
「大人しくしていろ」
俺は牢屋に入れられてしまった。はー、何故こんなことに。異世界へ来たらスキルがカスで処刑されることになった。あー、何だか頭が痛くなってきた。
壁側に移動しようと歩くと、地面が出っ張っていたようで、それにつまづき転ぶ。同時にまたコインが跳ねるような音が。いてて、この世界に来て以来、プチ不幸が起こるとあの音が。一体なんだろう。
横になって一眠りした。下は石だが驚くほど一瞬で眠ることが出来た。すごく気疲れしたからだろう。
目が覚め辺りを見回す、やはり牢屋の中。夢ではなかったか。少し気が落ち着いたので頭の中を少し整理することに。
普通の魔法がどうも使えなかったようだな。目をつむり念じる。やはり灰色、使えそうにない。それから何も考えずスキルを使ったがいわゆる「プチ不幸」を相手に放つことが出来たんだな。攻撃になっていないけど。
あの時はとにかくスキルを使いたかったため、白く色づいた文字をすぐ選び放った。「トリノフン」以外もあったな。
他はどんなスキルがあるだろう、念じてみる。すると出るわ出るわ、大量のスキル名が頭の中を埋め尽くす様に出てくる。とにかく多いな。
しかし牢屋でスキルの練習をするわけにもいかないか。そもそも殺されそうだし。念じるのを辞め身体、頭を楽にする。
牢屋の通路を歩く音が聞こえた。靴の音は徐々に大きくなる。兵士が食べ物を持ってきたようだ。
「食事だ」
兵士から食べ物を受け取りそれを食べた。まずっ、冷めた豆のスープにかたいパン。量も少ない。今朝までは超豪華な料理をお腹いっぱい食べていたのに。ひもじい。
それからどのくらい経っただろうか。就寝時間となり横になって眠っていたのだが、誰かが俺を揺すって起こそうとしていたのがわかった。
「転移者様、助けに参りました、起きてください」
女性かな? 俺の身体を揺すりながら耳元で小ささやく。ん、助けに!?
瞬時に目が覚め身体を起こし、彼女を見る。薄桃色の髪色にセミロング、鎧を身に着けている。ゲームなんかにはよくいる女騎士といった見た目だな。
「お目覚めですか。私はこの国、アクエル国騎士団に在籍する騎士マキネ。国のあまりにも理不尽なおこないに憤慨し、あなたを助けるためここへ。ゆっくり説明している時間はありません、ここから抜け出しましょう」