1 麺こぼし、2回やったことあります
現在深夜。こんな時間に料理動画を見てしまい、小腹が空き、夜食を食べようと、先程カップ焼きそばにお湯を入れ、現在待機しているところだ。
「窓を開けておこうかな」
暑さもあるが焼きそばのソースの匂いが部屋に充満するのを防ぐため窓を開け網戸にする。おいしいんだけど、ソース臭が強烈なんだよね。夜食で食べると最悪朝まで部屋がにおうこともある。
「2分経過。そろそろだ」
台所に向かって動く。カップを持ってお湯を切る。湯が流れる音、シンクからいつもの音。カップ焼きそばを作っているって感じだ、胸が踊りだす。
湯切りが終わり、蓋を外し捨て、袋に入ったソースとスパイスを持ち居間へ移動。
ソースを入れ、スパイス袋に手をかける。
ここでこだわりが。このスパイス袋、2つあり、袋同士が繋がっているため通常は2回千切って開けることになる。案外手間だ。そこで思いついたのは袋を2つ折りにし千切る方法。これで2箇所の同時開放に成功、手間を減らすことが出来た。うん、別に大したことではないな。
同時開放をしてスパイスをカップに向けて放った瞬間、一陣の風がこちらへ。
「あっ」
風がスパイスを、テーブルの向こうへと吹き飛ばした。なんてことだ。スパイスは諦め、ソースだけで食べることにした。
俺の名は明目派心野陽門、大学3年生、21歳の男だ。
生まれてこの方、どうにも運がない。今起きたような出来事は日常茶飯事。かといって、大きな不幸が常に起きるわけではない。微妙、小さな不運、「プチ不幸」が常に降りかかってくる。正直、大したことはないので慣れてしまっている。
「風呂入って寝るか」
食後に風呂に入り、ベッドに入ってその日は就寝。
「……ぞ、成功だ!」
どうにも騒がしい。周りからざわめきが聞こえてくる。人の声? そもそも聞いたことがない人たちの声が。それに俺は部屋で寝ていたはずだ。不安になり目が覚める。上半身を一気に起こし警戒しながら周りを見る。ローブを羽織った人が数名、豪華そうな服を着た人が1人。
冷たっ、ひんやりとした感触、下は石でできた床か。地面には魔法陣が描かれている。うわーお、危ないところにつれてこられたのかな。しかも全裸じゃねーか!
「おはようございます、転移者様」
「転移者?」
聞いたところ特殊な魔法を使って俺を召喚したらしい。現在この国には危機が迫っており、そのために俺を召喚したのだとか。そう言われても困ってしまう。いきなり国を救ってくれなんて。
「転移者様はお疲れのようだ。休ませた後、説明するように」「
「わかりました」
「それでは失礼します、転移者様」
ローブを渡されそれを着る。彼らの後についていくと大きなお風呂が。強そうな動物の彫刻からお湯が吹き出ている。「ごゆっくり」言うとその場から離れていくローブの人たち。
お言葉に甘えてお風呂に。はぁー、ええお湯だ。
どのくらい経っただろうか、満足してお風呂から出る。用意された服を着て部屋へ通された。そこには学者風の男性が1人、俺が入ってくるなりお辞儀をし、こちらに話しかけてきた。
「落ち着かれたようですね」
「はい、いいお湯でした」
「申し訳ございません、大層驚かれたことでしょう。今からあなたをここへ呼び寄せた理由と、この世界について軽くお話しますね」
学者さんは語りだす。ここは剣と魔法の世界。
いくつかこの世界の資料を見せてくれた。ふむ、中世ヨーロッパの世界に近いかな。そこまで詳しいわけではないけど。学者さんはこちらの世界については全く知らないようだった。説明しようかとも考えたが、初めて会った相手に自分のことを洗いざらい話すのは危険かなと判断、「記憶が曖昧で」と記憶喪失のように振る舞った。
「召喚による障害だろうか」とつぶやく学者さん。ごめんなさい、本当は心身共に健康です。うちの世界は平和だけど詐欺するやつらが結構いましてね、警戒心が強いんですよ。
現在この国は窮地に立たされており、そのため俺を召喚した。「転移者」は強力な力を持っており、それ目当てで俺を呼び寄せた、とのこと。このままいくと俺はこの国の「敵」と戦うことになりそうだ。
それから「スキル」というものがあり、ある程度鍛錬したところでスキル書を見ると覚えることが出来る。稀に個別にスキルを所有している場合があり、それを「希少スキル」という。そのスキルはスキル書で覚えることが出来ない。ただレアスキル持ちはあまりいない、とのこと。
学者さんが袋から本を取り出す。どうやらそのスキル書のようだ。見た目は普通の本。「読んでみてください」と言われ本を開き最初のページを見る。読めない。何語だ、これは。
「はい、そのスキルをこれから使えるようにしますが、その前に向いているクラスを調べましょう。こちらの水を手のひらですくってこの白い砂にかけてください」
よろしくお願いします。