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第31話 傭兵、戦力を集める

 そろそろ朝起きるのがしんどくなるくらいには冷えるようになった早朝のミーティングの後、

 俺とアンドリューはグスタフのオッサンに「お前達は残れ」と呼ばれた。何をやらかしたというのだろうか? 身に覚えはない。

 しばらく待っていると、羊皮紙の束を持った辺境伯殿がやって来た。1月ほど前に冬服用の軍服に衣替えしており、生地が厚いのか温かそうではある。


「コーネリアス、アンドリュー、お前達は傭兵なんだろ? 今日から5日間、王都に行って傭兵仲間をできるだけ引き抜いてくれないか? 今では1人でも戦力が欲しいからな」

「!! 戦力って!? まさか、戦争でもなさるおつもりですか!?」

「エレとの婚約を破棄してイラーリオ家なんていう格下に鞍替(くらが)えするんだぞ? こうまで侮辱されておきながら指をくわえて黙ってみている事のほうが問題だよ」


 辺境伯殿は真剣かつ険しい顔をしながら俺達に諭すように言う。


「お前達とは世代が違うから通じるかわからんが、『こっちには黒錆のグスタフがいる』とも話してくれ。通じる者には通じるかもしれん」

「はぁ、そうですか。わかりました。伝えときますね。辺境伯殿、戦力が足りないのですかね?」

「安心しろ。報告が確かなら今のところは我々の方が数では勝っている計算になる。だが僅かな差だ。

 念のため君達も知り合いの傭兵たちからできるだけ仲間を引き抜いてくれ。グスタフも元傭兵なのだが引退してから結構長くて現役の知り合いが少ないんだ。

 頼んだぞ」

「承知しました。できる限り集めますね」


 そう言って俺達は書類……雇用条件の書かれた紙を渡され、王都へと向かった。


「なぁアンドリュー、『黒錆のグスタフ』って聞いたことあるか?」

「う~ん……ずっと昔にチラっと聞いたことがあるような無いような……はっきりとは思い出せねえなぁ。コーネリアスは?」

「聞いたことも無い。こんなあだ名がつく以上傭兵の間では相当な有名人なんだろうがなぁ。たしか世代が違うとは言っていたが……」


 結構なベテランである俺もアンドリューもほぼ知らない。となると俺たちよりも上の世代というわけだろうか?




「へぇ! ドートリッシュ家には『黒錆のグスタフ』がいるのか!」


 王都の酒場「エッジオブヘブン」で傭兵の募集を始めるためにマスターに書類を提出した際、彼が絡んできた。


「有名なんですか?」

「そりゃそうさ! 俺達の世代では知らない奴はモグリって言われる程で、名前を聞くだけで相手は恐怖で震えあがるほどの有名人だったぜ。

 俺も2度戦ったことはあったがどっちも手も足も出ずに一方的に倒されるだけだったな。特に2度目の時に負ったケガのせいで引退を決めたんだ。

 噂じゃお前さんがデビューしたかしないかの頃に、どっかの王侯貴族に召し抱えられて傭兵を引退したとは聞いていたがまさかドートリッシュ家だったとはなぁ」


 武勇で知られたマスターですら手も足も出ない相手……か。

 なら採用試験の時に全力で撃った≪エアブレイド≫と≪フレアバースト≫の直撃を食らったにもかかわらず、大したけがを負わなかったのも納得がいく。

 別に俺の魔法が弱いわけではない。試験の時の魔法は並の人間なら致命傷になるほどの威力は持っていた。相手が強すぎたから、というわけか。


「……というわけだ。ラピス王子派の報酬の2割増しで雇うから、とマスターからも声掛けを頼むわ」

「おう、任せとけ」


 マスターは2つ返事で受け入れてくれた。


「コーネリアス、俺は冒険者ギルドで引き抜きを行うからお前は酒場な」

「おう任せとけ。言っとくが受付嬢を口説いたりするんじゃねーぞ」

「平気平気。その辺は任せとけって」




 それから3日ほどかけて俺達は傭兵や冒険者の引き抜きを続けた。


「コーネリアスさん、その話本当なんですか?」

「ああ。ここだけの話、ラピス派は魔女マルゲリータに操られてる。コイツさえ倒せれば国を救える。正義はこっちにあるからマイク派についてくれ。国を救う事に協力できれば出世は間違いなしだぞ。頼む、悪い話じゃないはずだ」

「コーネリアスさんがそこまで言うのなら……わかりました。今回は信じましょう」

「ありがとう。助かる」


 数が必要だとも言ってたので新米冒険者や新米傭兵に「活躍できればやんごとなき人に恩を売る絶好のチャンス」と説得する。これで結構釣れるのか戦果は上々だ。


「ふむ……でもお前は賊軍(ぞくぐん)じゃないのか?」

「それは違う。マルゲリータが相手を洗脳する魔法で王族を操ってるんだ。俺たちマイク王子を擁護する方に正義はある。実際、今は辺境伯の元に身を寄せている王妃やマイク第2王子の証言だってあるぜ」

「ふーむ。そうか……噂ではラピス王子が急にドートリッシュ家との婚約を破棄したとは聞いているがそれが理由で?」

「そうだ。今の王族はダメだな。操られている」

「わかった。こういう時のお前は信じてやろう。賭けてやる」

「ありがとう。助かる」


 それに俺の知り合いであるベテランにも声をかける。こちらも戦果はなかなかのものだ。




「アンドリュー。そっちはどうなってる?」

「俺は28人ほど協力してくれることになった。そっちは?」

「25人程度だな。新米が多いがベテランも少しいる」

「ふーん、お前らしいメンツだな」


 契約書の束を見せ合い戦果を確認しあう。お互い上々といったところか。




 最終日になって、俺に使いからの声がかかった。魔導学院長、テラの秘書だった。


「探しましたよ。コーネリアスさんですね? テラ様がお呼びです。来てくれませんか?」

「学院長が? わかりました。お伺いしますね」


 俺は彼女についていく事にした。酒場から歩くことしばし、魔導学院へとたどり着くとすでに手配がされているようですんなりと面談が行われた。


「コーネリアス、戦力を集めていると聞いているが?」

「はい。ドートリッシュ家は王家を、というかマルゲリータを討つつもりです」


 そこまで言うと学院長は俺に分厚い書類の束を渡す。


「これを持っていけ。マルゲリータの悪行と、イザベラとの関係を暴く資料だ。

 それと、我々は卒業生の中に手の空いてる者がいるか声をかけているところだ。今のところは30名ほど動員できる。もう少し増えそうだがな」


 マルゲリータの裏を暴く資料に割と希少な魔術師が30名。かなりの成果だ。


「ありがとうございます学院長殿。こんなにもご協力していただいて」

「何、エレアノール嬢との約束だからな」


 ピンキリあるが50名以上の傭兵や冒険者に重厚(じゅうこう)な魔導学院からの援護。これほどまでなら文句は言われまい。

 かなりの戦果を持って帰ることにした。




【次回予告】

秋も深まり冬支度が始まるころ、2人は戦への準備をしていた。


第32話 「傭兵とチート転生者、準備を進める」

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