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第30話 王族、辺境伯に身を寄せる

 一夜明け、ラピスがエレアノールの誕生日パーティから帰宅した後、国王は実の息子相手にブチ切れる。


「オイ! ラピス! 一体何を考えている!?」

「父上。父上と2人で話がしたいです。来てくれませんか?」


 そう言って息子は父親を自分の部屋へと招き入れる。


「ラピス! 相手に落ち度も何もないのに一方的な婚約破棄とはどういうことだ!? ドートリッシュの奴が逆上して兵を差し向けたらどう責任取ってくれるつもりなんだ!? ええ!?」

「……こうするつもりです」


 そう言ってラピスは父親を羽交い絞めにする。と同時にクローゼットの中に隠れていたマルゲリータが飛び出してくる。

 彼女は王の首からアミュレットを外すと1点集中した魅了の魔術を吹きかける。一瞬で洗脳は完了した。


「これからはオレが貴様のご主人様だ。分かったらワンと鳴け」

「わ、ワンワン」

「ん。よろしい」


 何だ。最初からこうすればよかったんだ。少しずつ洗脳するなんていうまだるっこしい手法にこだわってたオレがバカみたいだ。

 過去の自分を「バカで愚かだった」と素直に反省し、後は内乱で一気にエレアノールの首を取るにまで行こうとした、その時。


「誰だ!?」

「!!」


 ドアの隙間から誰かが2人、現場を目撃していた。誰かはわからない。ただ目が合っただけだ。

 目が合うと彼らは弾かれる勢いで駆け出し、その場を後にする。マルゲリータがドアを開けると周囲に人はいなかった。

 結界を張るのを忘れるというミスに付け込まれた感じだ。


「……誰だ? 見てたのは? まぁいい。今日はこの辺にしとくか」


 とりあえずの勝利を得られたとして彼女は満足し、帰宅することにした。




「ぬうう……ラピス王子、一体何を考えてる!?」


 あまりにも一方的にして不自然過ぎる婚約破棄にドートリッシュ辺境伯は大いにいらだっていた。


「馬車を出せ! 王都に向かう! 直々に抗議するぞ!」


 彼は手紙を送るよりもはるかに圧力の高い、直々に抗議することを選んだ。


 屋敷を発ってしばらく、自分が進んでいる方向とは逆の方向に向かって走る馬車があった。それは辺境伯にとっては大いに見覚えのあるもの……王族専用のものだった。

 おそらく王家の使いの者と思しき人物がドートリッシュ家の馬車を止めさせる。


「一体何の用で?」


 出てきたのはこの国の王妃に、その息子のマイク第2王子というやんごとなき人たち。


「ドートリッシュさん。まさか王都に向かうつもりですか? だとしたらお辞めください。あの女に洗脳されるだけです」

「あの女に洗脳……まさか、マルゲリータが?」


 そこまで聞いて彼女はコクリと首を縦に振った。


「ラピスも夫もあの魔女にやられました。今行ったら彼らの二の舞になるだけです。引き返してください! お願いです!」

「ううむ……そこまで言うのなら」


 彼女の必死の形相に押されて彼は折れ、引き返すことにした。結論から言えばこれが功を成して、ドートリッシュ辺境伯が洗脳されることはなかった。

 もし説得を振り切ったり、あるいはお互いの馬車がすれ違ったりしなかったのなら、余計に事態は悪化しただろう。




 馬車の中で辺境伯と王妃は話を続ける。今日になってラピスが帰ってきたと思ったら夫である国王もマルゲリータの手に落ちたのを見てしまった事を伝えていた。


「……そんなことがあったとは」

「マルゲリータがいる限りもう王都には帰ることはできません。そんなことをしたら最悪マイクも彼女の手に落ちるかもしれません。そうなってしまったらあの女を止めることは誰にもできなくなってしまいます」

「分かりました。何があろうと私のメンツにかけてでもあなたたちを魔女マルゲリータからお守りいたします。ご安心ください」


 以前にイラーリオ子爵夫人から言われたことと王妃の話を統合する。そこに矛盾や食い違いはなく、彼女の言っていることは多分本当の事なんだろうと推測する。


 王族と共に辺境伯が帰ってくる頃には昼を過ぎていた。


「あら? お父様、ずいぶん早い御帰りですね……って王妃様にマイクじゃない! 一体どうしたの!?」

「エレ、詳しい話は後でする。しばらくお二方はこの屋敷に滞在することになるからよろしく頼むぞ」


 エレアノールは目をパチクリさせながら父親の話を聞いていた。辺境伯は使用人に命じて来客用の寝室と城の物ほど豪華ではないが、食事を提供する。


「急な事態ゆえ、この程度のもてなししかできず申し訳なく思っております」

「温かい食事にベッドがあるだけでもありがたい話です。あなたが謝ることなんて何一つありませんよ。しばらくの間厄介になります」


 王妃とマイク第2王子は辺境伯に礼をした。




「ドートリッシュ様、王妃様とマイク王子が滞在する事になったと聞きしましたがどうなんですか?」


 急な客人が来てあわただしい屋敷の雰囲気に感づいたグスタフがドートリッシュ辺境伯に尋ねる。


「グスタフか、お前になら話しても大丈夫だろう。実を言うと……」

「……!! そんな事が!」

「私にもにわかには信じがたいがマルゲリータは王侯貴族をたぶらかし配下に加える邪悪な力を持っているらしい。ラピスがエレとの婚約を口頭とはいえ破棄したのもそれが原因だろう。

 この後どうするかは正式にはまだ決められないが、魔女マルゲリータを放っておくわけにはいかん。力づくで止めるしかないだろうな。グスタフも準備してくれ」

「はい。かしこまりました」


 後に、国はラピス第1王子を擁護する派閥とマイク第2王子を擁護する派閥に分かれる内乱が起こるのだが、その始まりだった。




【次回予告】

王妃とマイク第2王子を受け入れて数日。コーネリアスとアンドリューに密命が下る。


第31話 「傭兵、戦力を集める」

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