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第28話 傭兵、素顔を見られる

 誰がどう見ても仕方なく、と言えるような動きで彼が右手で前髪を上げると、光り輝く黄金色の右目と()んだ青色の左目が見えた。


「うわぁ……」


 予想もつかないくらいキレイな目に言葉が出ない。


「……変な目ですよね? こんな目をしているから子供のころいじめられてひどい目に遭ってきたんですよ。だから隠してきたんですよ」

「ちっとも変じゃないよ。私は良いと思うよ。すごくキレイじゃない」

「キレイ……なんですか?」

「うん、すごいキレイ。宝石みたいよ」

「はぁ。そうですか……」


 彼は頭では分かったような、でも本心では分からないような表情を浮かべる。前髪から手を離すとパサッと落ち、また目は髪に隠れてしまった。


「……どうしたの? コーネリアス?」

「いや、正直この目を褒められたことが無いんでどんな顔していいのか、分からないんです」

「褒めてるから安心して良いわ。何せ辺境伯の1人娘が言うんだから間違いないわよ」

「……分かりました。褒め言葉として受け取らせていただきますね」

「コーネリアスったら褒められることに慣れてないのね。こういう時は素直に褒められたほうが良いわよ」

「は、はぁ。そうですか。お嬢様がそうおっしゃるのならそうしますが……」


 彼はどこか納得がいかないような顔をしながら私の話を聞いていた。




 私が彼の目を見ることになったのは今朝ふと思いついたことがきっかけだ。

 そういえば、あの人の目ってどうなってるんだろう? と思ったことだ。


 最初は特に気にしてはいなかったけど今となっては結構気になる。なんで前髪で目を隠しているんだろう?

 ……傷でもあるのかな?

 幸い彼は今日は休みだったので私は思い切って声をかけることにした。


「ねぇコーネリアス、どうして前髪そんなに伸ばしてるの? 見えなくて邪魔にならない?」

「……どうでもいい話じゃないですか。あまり詳しい詮索(せんさく)をしないでください。目はきちんと見えてますから心配しなくても大丈夫ですよ」


 彼は少し不機嫌そうな表情と口調でそう言う。気に入らない何かがあるらしい。そう思うと余計に見たくなる。


「ねぇコーネリアス。私にだけでいいから、目を見せて頂戴」

「出来ることならやりたくないですね。契約外の行為ですから」

「見せなさい。雇用主からの命令よ。何だったら新たに契約しましょ。傭兵なんだから契約したことに関しては守ってくれるよね?」

「ハァ……職権乱用ですか」


 彼は重いため息をつきながらしばらく考え……


「わーかりましたよ。見せればいいんですよね見せれば」


 そう言って彼は私に目を見せてくれたのだ。




 後日、私はコーネリアスを呼び出した。


「お嬢様、ご用件は何でしょうか?」

「私について来て。一緒に行ってほしい場所があるから」

「かしこまりました。って、徒歩ですかい? 馬車には乗らないんですか?」

「うん。この町にあるお店だから歩きでも行けるわ」


 そう言って私は屋敷周辺で最も腕が立つ、私やお父様御用達の床屋にコーネリアスを連れて入る。


「ええ!? 俺が客!?」

「そうよ。その前髪を整えさせるために来たのよ。大丈夫よ。私もお父様もここで切ってもらってるから。絶対似合う髪型になるわ」

「はぁ。ご命令とあれば従いますけど……。お嬢様、本当に大丈夫なんですか? 変な事されないですよね?」

「安心して、この店の店主の腕が良いのは保証するから」


 そう言って彼を席につかせて店主に切ってもらう。シャキシャキとはさみが動く音を聞くこと少し。


「はい出来上がりました」


 カットが終わる。やっぱり彼に似合う良いスタイルになっていた。


「うん。似合ってるわよ。コーネリアス」

「やっぱり落ち着かないなぁ。目を見られるのは慣れてないというか嫌な思い出しかないんで」

「すぐ慣れるから安心して。じゃ、帰ろうか」

「分かりましたよ。ハァーア」


 少々ふれくされてはいるけどまぁいいか。私が強引にやったってのもあるし。




「おお! コーネリアス、前髪を切ったのか。やはりその目が気になるのか?」


 帰ってくるとちょうどいたグスタフのおっさんが声をかけてくる。


「ええまぁ。この目でいい経験したことなんて今までないので」

「そうか……それとお前、お嬢様とずいぶんと親しいそうだが立場はわかってるよな?」

「もちろんですとも。『予約済み物件』に手を出すほど俺は馬鹿じゃないですよ」

「うん。よろしい」


 最近妙にエレアノールが俺に親しく接している。だが俺は準爵の出身で傭兵、相手は王家との婚約が決まってる辺境伯の娘。身分の差というのは痛いほどよくわかってる。

 貴族ものの恋愛小説では格差を超えて結ばれるというのが定番らしいが、それは小説という「おとぎ話」だからこそ成り立つわけで実際にやろうとするのはよほどの事がない限りやるわけがない。

 実際にやろうとすればお互いの家のメンツを巻き込んだ大騒動になるのは目に見えている。

 そこを夢見る程俺はおとぎ話の世界を信じているわけではない。その辺りは冷静に考えて間違った判断を犯してはいない自覚はあるつもりだ。




【次回予告】

シナリオ通り、事は進んでいく。

つぎはぎだらけのやっつけだが、それでもシナリオ通りだ。


第29話 「悪役令嬢 婚約破棄される」

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